9 無題

いつからだろうか


空は空色を失い

風は音を失った


海は波を失い

摩天楼は輪郭を失った


人の心から少年の頃の記憶が失われるように

世界は穏やかな終焉を迎えていた

すべてが白黒の版画になろうとしていた



そんな世界の端に、門が現れた


門を支える三本の柱はどんな建物よりも高く

開きっぱなしの戸はどんな道よりも広く


門の向こうの空は何よりも青かった


わたしは、その門の向こうにある元通りの世界に飛び込んだ

極彩色の希望の中に飛び込んだ

紺碧の空に飛び込んだ



空に空色はなく

風に音はなかった


呆然とするわたしの後ろには、色鮮やかな世界の幻影が

なにも言わずに佇んでいた

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