2. 「音」「鞠」「海」

 ざわざわと海鳴りがする。

「これ、おばあ様からいただいたの」

「綺麗ね」

 彼女は私が持っている鞠をじっと眺めた。長い髪がはらりと肩からおちた。

「蹴鞠歌って歌があってね、それにあわせて鞠をついて遊ぶのよ」

 私は鞠をつこうとした。しかし、砂浜の上では鞠は跳ね返らなかった。ぽすんと軽い音を立てて、砂の中に納まる。

 彼女は肩を落とした。

「ここではその遊びはできないみたいね。私は鞠では遊べないわ」

――私は陸へは上がれないもの。

 ざわざわと海鳴りがした。

 ぴちゃりと水が跳ねる音がする。彼女が尾で海面を叩いたのだ。

 ぴちゃり、ぴちゃりと海面を揺らす。

「この鞠、あなたにあげるわ」

 私は鞠を彼女に渡した。

「でも、これはあなたのおばあ様があなたにあげたものでしょう。受け取れないわ」

「いいの。あなたが持っていて」

 友達の証に。

 彼女は笑った。

「また遊びに来るわ」

「ええ。内緒で来てね」

「もちろん」

 ざぶんと、彼女は塩水に浸かった。

 誰にも秘密の、人魚の親友は、笑顔で鞠を撫でた。

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