オーバーワールドラブストーリー

はし

一つだけ願いを叶えてやろう


ある老人

「おや…ついに幻覚か?わたしも歳をとったな…。願い?ああ、そうだなぁ…。子供はすくすくと育ったし、たくさん楽しいこともした。辛いことも多かったが、それをやり直すつもりはないよ。じゅうぶん、幸せな人生だった。ああ、そうだ。わたしより妻の願いを叶えておくれよ。お互いもう先は長くない。最後に、大きなプレゼントになるかな」


ある老婆

「ええ?え?なにかしら、虫?…夫から?へえ、そう。ひとつとなりの部屋にいるだけなんだから、呼んでくれれば良かったのに。わざわざ面倒お掛けしてごめんなさいねえ。ほーんと、読書してるときは一歩も動かないんだから。それで?へえ、願いを叶えてくれるの?ふふ、こんなおばあちゃんなんかより、もっと若い人の方が悩みがいっぱいあると思うわ。でも、そうね…わたしたち、幸せだったのだけど、三番目の子が、ね。生まれる前に…。あの子にも、もっと世界を見せてあげたかった。幸せになってほしかったわ…。だから、もし本当にお願いを叶えてくれるなら、あの子を、あの子が本当に幸せになるまで、もう一度生まれ変わってきてほしいものね」


ある幸せな女性

「驚いた。こんなこと。ほんとにあるのね…ふふ、彼にも見せてあげたい。え?うん、願いね。そうだなぁ、わたしは大切な彼も親友もいて、これ以上を望むなんてバチが当たっちゃうわ。でも…。あ、やっぱり願うんじゃないって思った?ふふ、やっぱり人間は欲深いのよ。あのね、大好きな彼と、何度でも巡り会えるようにしてほしいわ。へへ、本当に欲張りね」


ある焦った泥棒

「ワッなんだこいつ!え?おい、喋んなって!いま忙しいんだよ後にしてくれ!見ればわかるだろ!しー!…もう、大金持ちだったら、こんなことしなくてすんだのになぁ。ほら、さっさと行ってくれ」


あるくたびれたサラリーマン

「へえ、願いねぇ。おれも働きすぎかな…。まだ酒も呑んでないのに。はは、小さい頃はサンタだなんだといっていたが、一つだけなんでも願いをって贅沢じゃないか。ああそう願いね。…最近子供が生まれたんだ。そりゃあもうかわいくてね、目に入れても痛くないってこういうことだなって…すまんすまん、おっさんの話を聞いてくれるやつはなかなかいないんだよ。ああ、それでその息子のことでね。ほら、最近事件があったじゃないか。成金の家に強盗が押し入って家主が殺されたとか。怖いねぇ。息子には、人生を全うしてほしいよ。だからさ、息子が事件や事故に遭わないように…って、一つじゃないか?はは、許してくれよ」


ある甦る女性

「え?願い?そりゃあ、この人生を終わらせてよ。なーんでだかしらないけど、あたし前世の記憶があるの。信じないでしょ?もう、その反応も飽きたわよ。だから…っとちょっと待って、やっぱり変える。…わたし好きな人がいるの。そりゃあ何百年超しの恋よ。でもね、あの人にはずうっと好きな人がいるの。しかも毎回おんなじね。そいつのせいで、わたしの恋も成就しないのよ。だからね…ううん、こんな方法に頼るなんてフェアじゃないわね。そうだ、彼の背中を押す訳じゃないけど、早くあの女を諦められるように、彼をもっと積極的にてほしいわ。なんて、積極的じゃないわたしが言えたことじゃないけどね」


ある絶望した青年

「願い?ふうん…そうだとしたら一つしかないね。どうにか彼女と結ばれたい。それだけだ。僕には前世の記憶があってね。うん、あるときから急に…それで、彼女とは毎回会ってるんだ。それこそ運命ってくらい。僕と彼女はずっと親友なんだ。でもね、僕にはもう一人親友がいてね…その男と、彼女が毎回結ばれるのさ。はは、ひどい話だよな。ほんとに…最初の人生ではね、素直に祝福できたんだ。二人とも大切だからね。でも、もう一度人生を送って…なんどもその様子を見てるとね、さすがに…僕も頑張りたいって思ってしまって。はは、はあ…だから、僕は何度でも繰り返すんだ。だから…彼と彼女が結ばれたとき、それを引き裂いてくれないかな。はは、本当にひどい親友だ」


ある隈のひどい青年

「なんだこれ…はぁ…。いいよ、ほっといてくれ。つかれてるんだ…。どうせ寝れないけどね、休むだけ…。眠ると、いつも彼女の顔が浮かぶんだ。鮮明に、はっきりと。もう彼女はいないのに…。まぶたの裏の彼女は、俺が見たこともないような服を着たり、髪型だって違うんだ…でも、やっぱり彼女なんだ。夢の中で俺たちは手を繋いで…そして突然、彼女が死ぬんだ。はは、なんなんだよ…。なんで俺は死なないんだ…。昔から、なぜか俺だけ生き残って…辛いよ…。…でも本当に辛いのは彼女だ。もっと生きたかったはずなんだよ…。ああ、こんなんじゃあ駄目だな。彼女にも顔向けできない。よし、決めたよ。もう一度同じ質問をしに来てくれ。俺がヨボヨボのじいさんになって今日のことなんかすっかり忘れた頃にさ。それまでには…それまでにはきっと立ち直って、幸せだったってお前に言ってやるからさ」

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