好き勝手にゲームレビュー

@wizard-T

新桃太郎伝説

「桃太郎電鉄」と言う名前を聞いてどんな物を連想するだろうか。パーティーゲームの王道、キングボンビーのトラウマ。友達をなくしたと言う人もいるだろう。だが「ギャグが多い」と言うイメージは多くの人が持っていると思う。その「桃太郎電鉄」の名前の元ネタが「桃太郎伝説」と言うRPGである。こちらも、ギャグ満載である。ほほえみの大地の敵に当時は爆笑したり今となって思うと懐かしいネタがあったり。あかおにホーナーだなんて一体何人が分かるのだろうか。

 だが、「新桃太郎伝説」にそんなものはほとんどない。








 スタートからいきなり、主人公の桃太郎が負ける。こっぴどく負ける。そしてゼロからの旅立ちを強いられる、と思いきやいきなりワナがある。

「鬼退治はあきらめい!」

 ズタボロになった桃太郎に、天の仙人がこう呼びかけて来る。もちろん、いいえを押さなければならない。だが読み飛ばしているプレイヤーは勢いではいを選んでしまうだろう。慣れると、Bボタンを連打すればいいのにとわかってしまうが。もちろん、ゲームは進まない。それどころか、初っ端からペナルティがある。まったく、油断も隙もない。

 トラップをくぐり抜けて旅立つ事になる訳だがやはり簡単ではない。いきなり、最初の敵が体力を半分奪い取って来る攻撃をする。天気を変えて、パワーアップして来る。

 とにかく、このゲームの敵キャラは濃い。


 ――――赤鬼、牛鬼、ひょうすべ、アオザメ、火象――――


 100種類を軽く超える敵キャラの中で、「通常攻撃しかしない、まったく無個性のザコキャラ」と言えるのはほぼこれだけである。牛鬼も防御力が非常に高いと言う個性があり、その都度対処に追われる。ザコ戦から、飽きさせない。

 謎解きもまた、楽ではない。希望の都の二首の歌は、父親がゲーム雑誌を買い漁ってヒントを求めようとしたほどに難解だった。数多のダンジョンもまた、厳しく長く聳え立っていた。特に地獄の地下一階など、本当に嫌になるぐらい溶岩に落とされ続けた物である。

 そんなゲームを楽しめたのは、音楽の力も大きい。好きな曲を5曲言えと言われたら、「イベント中ボス戦」「月の村」「空飛ぶ城」「海戦」「七夕の村」と私は答える。名作には名曲がふさわしいと言う訳でもないが、9割の曲は今でも思い出せる。




 そして、難易度が単純に高いだけではなく抜け道は多い。まず人気度と言う数値。これが高ければ店は安くなり、お供が言う事を聞きやすくなるなどメリットが多い。実はこれが、初っ端の旅立ちの村でいきなり最高値の100にまでできる。やり込むと池を調べまくっていきなり100にする人も少なくないらしい(私は一回しか調べないが)。そして中盤以降ありがたいのが和菓子屋の虎信である。そこで買えるお菓子は、高い事は高い。だが移動中にしか食べられない代わりに食べると技(MP)が全回復する。レアアイテムの打ち出の小槌や、効果のほぼ同じ技の仙豆からするとめちゃくちゃに安価である。その上に手に入れやすい。

 個人的にありがたかったのは、便利ボタンだった。LボタンやRボタンで「話す」も「調べる」も事足りる。当時の私は、このシステムに勝手に感動していた。そしてこのゲーム、ドラクエとは別の意味で調べる楽しみが多い。井戸を調べれば水が飲めるし(それで宿代が節約できる)、火の点いてない囲炉裏を調べれば炭を起こせる(炭があれば)。ダイコンを抜く時の音に感動してみるのも乙である。


 それでこのゲーム、仲間キャラクターがやたらに多い。桃太郎は固定だが、残り3人は金太郎、浦島太郎、夜叉姫でいいだろとならないのが面白い。完全なネタキャラもいるが、使いこなすと強いのがましらとはらだし。前者は楽譜での攻撃で強力なサポーターとなり、後者は直接攻撃がまったく当たらない。加入がかなり遅い上に体力以外は最低だが、35段以降に覚える術は最強である。先ほどに言ったように難易度は高いが抜け道はあるから、その気になればどのキャラでもできなくはないはずだと言うのがいい。ストーリー進行的にも、そのままの4人で風神の谷に突っ込むと泣くしかなくなるのでいろんなキャラを使ってみるのも良い。

 そして何気にこのゲームは、名付けが多い。最初からおとも三匹の名前を変えられるし、城の名前も付けられる。お菓子の名前も命名できる。何よりすごいのは、怨みの洞窟と言う場所である。ここでは適当に名前を付けた敵と戦うことができる――――そう、嫌いな奴の名前を付けて思いっきりボコってやるのも自由なのである。

 また、最初にギャグ要素はほとんどないと書いたが、決して皆無な訳でもない。

「何なんだ!このおんな!」

 ほほえみの大地に登場するお天鬼姉さんと言うキャラクターの攻撃を喰らうとこんなツッコミが入る。豆鬼と言うメタ発言をやる鬼もいる。ダジャレ大会では歴史上の人物をネタにしたダジャレを、桃太郎も言う。それから、桃太郎シリーズ恒例の女湯もある。現在だったらとても全年齢として出せないようなそれも、段上げと言う合法的手段で見られる。いい時代だったとか言うつもりもないが、新桃の重たいストーリーの清涼剤としては悪くはない。


















 そして何よりこのゲームを名作たらしめているのは、カルラである。最初にダイダ王子の側近として出て来たカルラ。初見からいかにもな小物臭、腰巾着臭を漂わせた存在。彼の悪行こそが、すべての新桃のストーリーと言っても過言ではない。

 まず花咲かの村では、桃太郎と戦って敗れたばっかんきを斬殺する。金太郎の村でも竜燈鬼に同じ事をする。一度の失敗でたやすく部下を斬り捨てると言う、非道な上司。そして目上には、ひたすら平身低頭しながら桃太郎の悪評を平気で吹き込む。


「カルラがバサラ王に取り入るためにないがしろにした鬼は100や200ではありません」


 自らの出世栄達のためには、何も顧みない。鬼族の跡取りであるダイダ王子の教育係と言う地位を得たカルラはその地位を盾に、ダイダ王子を武道の神と言う名の世間知らずに仕立て上げた。そして政敵であるえんま大王を放逐した後はその部下である者たちをも桃太郎にけしかけ、戦わせ続けた。


「どうやってあしゅらを味方に付けた?どんな手を使ったのだ?金か?女か?土地か?」


 このセリフは、それこそカルラと言う存在をどこまでも体現したものである。彼は、他に他者を引き付ける手段は持たないのだ。だからこそ彼はせっかく得た地位に安住できず、全ての他者をはっきりとかしずかせるための力を得ようとする。その負のスパイラルは、どんどん彼を邪悪たらしめて行く。

 せっかく人間と鬼が手を取り合って作ろうとした新しい村の住民の虐殺、それ以前の桃太郎の仲間の拉致監禁、その上口から出まかせを言った挙句のあまりにも虚しく重たく辛い結末。その上の人魚の村の短絡的な惨殺に、そして自分があれほど従って来たダイダ王子をも桃太郎と手を取り合おうとするや自分の手にかけ、その全ての罪を桃太郎に押し付けた。

 挙句の果てにかぐや姫――――大地を支えて来たかぐや姫を殺したのは、ただ自分の力の大きさの誇示のためだけである。その結果、大陸の9割は沈没した。一手先が読めるのならば、その結果多くの富や支配するべき民も失われた事に気付くはずだった。

「悪いけど哀れな奴」

 開発スタッフは彼のことをそう評している。栄耀栄華を求めた余り、最後の最後には自分の魂が生み出した右魂鬼・左魂鬼にさえ離反されたカルラ。エンディングであのままでは自分がカルラになっていたと言った人間がいたが、誰もああならない保証はない。

 カルラほど憎まれた=優れたゲーム界の悪役を、私は寡聞にして知らない。匹敵するのはポケットモンスターブラック・ホワイトのゲーチスだろうが、あれは演技派であって生の欲望を剥き出しにし続けたカルラとはややベクトルが違う。ゲーチスが最初から英雄と言う大人物の仮面を被った大悪党だとすれば、カルラは小悪党から巨悪へとスケールを膨らませて行くタイプと言えようか。良い悪役を書きたい人は、新桃をやってみるのも良いだろう。まあ、私が良い悪役を書けているかと言うと…………であるのだが。

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