桜ヴェールが舞う空に
琴花翠音
第1話
私は、桜が嫌いだ。いつからこんなにあの花に嫌悪感を抱くようになってしまったのだろう。いつから、こんなに好きになっていたのだろう…
*
私──
しかしそんな私の心の中に、するりと入ってくるやつもいる。それは…
「明日華ーっ! 起きてるかー!?」
(来た…)
無に近いほど静まりかえっていた病室だったが、騒々しくその扉を開けて入ってきた男子が一人。明日華は、病室が個室で良かったと、ため息をつきながら思った。
「
「あー…すまん、つい…」
明日華の説教に謝るのは、彼女の幼なじみの
特に高校へ進学してからは、その頻度が増していった。二人の実家と明日華のいる病院は、電車を使っても小一時間はかかる距離にある。二人の高校からも、病院までは十駅近く離れていた。それにも関わらず、彼は学校が終わる度に病院へ寄り道して明日華に会いに来た。その度にいつも、学校であったことや、授業の内容などを楽しそうに彼女に話していた。
「今日はさー、オリエンテーションとかばっかで全然楽しめねえの。新入生の子たちからなんか避けられてる気がするし…」
「ふーん…」
(避けられてるっていうより、そもそも近づけないんじゃ…)
一年前の高校入学とともに咲真は、イメチェンと言って、髪の色を校則に引っかからない程度の茶髪に染めた。元々顔も整っていたため、女子から言い寄られることが多かった彼が、髪の色一つで、なんとも近寄りがたい雰囲気を醸し出すようになっていた。恐らく後輩たちからしてみれば、そんな彼を不良として認識してしまったのだろう。それはそれで気の毒に思った明日華である。
またこの日も、他愛もない話をしていく咲真。その時ばかりは、心底楽しそうに話すものだから、明日華もその空間が心地良く感じた。そしてふと、思い出したように咲真が話を遮る。
「あっ! そうだ明日華っ今日も持ってきたぞ!」
「え…?」
「じゃんっ! 今日はまたたくさん取れたんだ!」
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