27話-1、屋敷改め、城か宮殿
正面にある入口から裏口まで、約四十分掛けてやっと回って来れた。改めてこのお家、もといお屋敷の大きさを思い知らされた気がする。正直言って、
入口にも負けない煌びやかな裏口まで来ると、一人のご老人が私達を出迎えてくれた。オールバック、
鼻の下に生えている大きなチョビ髭は共に灰色で、全身に黒のパリッとしたスーツを身に纏い、首には蝶ネクタイを付けている。
その、執事の見本とも言えるご老人が、一般庶民である私に深々と一礼をした後。頭をゆっくりと上げて、優しく微笑みかけてくれた。
「
「あっ! は、はいぃっ! アリガトウゴザイマス!」
初めて様付けで呼ばれたせいか、カタコトになるほど緊張してしまった……。ものすごく恥ずかしい。それに、これから会う清美さんをお嬢様と呼んでいたけど、私は今からとんでもない人と会うのでは?
やはり、ドレスを着てくればよかった。よれよれのTシャツとくたびれたズボンでの謁見は、とても失礼な気がしてきた。分かり切っていた結果論だけども。
執事様に誘われ、私の背丈の二倍以上はある裏口を抜けて、屋敷内へと入る。周りを見渡してみると、別世界がそこに広がっていた。
先ほど屋敷と言っていたけれど、これはすぐに訂正せねばなるまい。中は、城か宮殿を彷彿とさせる空間で、空気すら高貴な匂いに満ち溢れていた。
壁には等間隔に飾られている、私には到底理解が出来ない高そうな絵画。その間には、割ったら絶対に大変になるであろう壺やら、強そうな斧を携えている騎士の鎧が立っている。
絨毯は踏むのを
その赤い雲の絨毯を歩みつつ、四階を目指す為に、目の前にある階段を上っていく。階段にある手すりは宝石を思わせる艶があり、勇気が無い私には触る事すらできなかった。
四階に着くと、遥か彼方まで続いていそうな廊下を歩み始める。途方もない距離があるのか、突き当りがまったく見えない。
遠くが霞んで見える廊下を歩くのは、生涯でこれが最初で最後だろう。まったくもって貴重な体験である。噛み締めて歩かねば。
たぶん、二十分以上は歩いたかもしれない。永遠とも思える長い廊下に、突き当りという名の終わりが来て、執事様が一つの扉に向かい手をかざした。
「こちらが清美お嬢様のお部屋になります」
「ふぇっ!? ひゃ、ひゃいっ! あ、ありがとうございます!」
極度の緊張からか、情けない声を上げてしまった。私が床に突き刺さる勢いでお辞儀をすると、執事様は静かに扉を開け、部屋内に向かって再び手をかざす。
緊張で体がガチガチに固まっている私は、ロボットのように手足を伸ばしながら中へ入る。
緊張で周りの景色を眺めるのも忘れている中。私の前まで歩いてきた執事様が、ベッドに向かい喋り始めた。
「清美お嬢様。お客様をお連れ致しました」
「もうっ、恥ずかしいからお嬢様って呼ぶのはやめてよぉ。清美でいいよ、清美で」
「お父様からのご指示ですので、申し訳ございません」
「喋り方も固い。普通でいいの普通で。とりあえず、ありがとう」
「はい。それでは私は扉の前で待機していますので、いつでもお呼び下さい」
執事様が綺麗なお辞儀をすると、足音を一切立てずに部屋から出ていった。取り残された私とメリーさんは、執事様を横目で見送ると、メリーさんのお友達であるお嬢様の方へ顔を向けた。
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