15話-1、精一杯な感謝の気持ち


 香住かすみに夕飯をご馳走してもらった以来、毎日のように香住の部屋に行ってしまっている。

 悪いとは思っているんだけども、香住と一緒にご飯を食べると、無意識の内に嬉しくなって楽しい気分になっている自分がいる。


 そのせいか最近、人を怖がらせるという本来の目的である活動を全然やっていない。怯えた人間の表情を見てるだけで満足してたけど、今はそれをしなくても、不思議と心が温かな満足感で満たされている。

 思い返してみると、とうの昔に諦めてた事が全部叶っている事に気がついた。人間の子供達と遊ぶ事ができた。私を見ても怯えず、優しく接してくれる人間の友達も沢山できた。


 この住宅街に一人ポツンと生まれ落ちた時。私は最初、自分の事をちょっと変わった人間の子供だと思ってた。

 そして住宅街を歩いている内に公園に着き、子供達の会話を聞き、私は人間ではなく、メリーさんと言う怪異とか妖怪のたぐいだと気がつかされたの。


 そこで一度は全てを諦めて、ちゃんと自分の事を受け入れて、メリーさんとしてこの街を恐怖のどん底に落としてやろうと思ってたけれど、香住と出会ってからというものの、この気持ちがまた変わりつつある。


 香住や清美きよみと一緒になって喋ったり食べたりしてると、その時の私は怪異や妖怪ではなく、人間になれたような気持ちになるの。本当に楽しい時間で、ずっと続けばいいなと思ってる。

 だから、こんな私と普通に接してくれてる二人にお礼がしたい。「ありがとっ」って言うだけで二人は微笑んでくれるけど、それだけじゃまったく足りない。


 何かプレゼントしたいけど、何をプレゼントすればいいのかまったくわからない。形がある物が良いとは思うんだけども、お金が無いから何も買えない。

 ……またカウンセリングっていう所に電話をしてみようかしら? この前電話をしてみたら悩みを解決してくれたし、今回の悩みもまた解決してくれるハズ。そうと決まれば早速電話しよっと。


 プルルルルルル……、ガチャッ。


「お待たせ致しました。百鬼カウンセリングの塗鬼ときと申します」


「私、メリーさん。いま、山奥にいるの」


「お電話ありがとうございます。この前電話された時のお悩みは、無事に解決されましたでしょうか?」


 この塗鬼ときっていう奴、私の事を覚えてたのね。前に電話をした時は、人を驚かせるにはどうすればいいのかと打ち明けて、とても参考になるアドバイスをいくつもくれた。今回も良いアドバイスをしてくれるかしら? 


「ええ、かなり効果があったわっ。ありがとっ」


「それはよかったです。今回はどのような悩みのご相談でしょうか?」


「えっと、ある人にプレゼントをしたいんだけど……、何をあげればいいのかわからないの」


「プレゼント、ですか……」


 塗鬼って、悩みを打ち明けると少し黙り込むのよね。私はこのが好きじゃない。このまま電話が切れるんじゃないかと心配になってくる。


「……失礼ですが、ご予算はどのくらいありますでしょうか?」


「ごよさん?」


「ああ、すみません。現在お金はいくらお持ちでしょうか?」


「えっと、十、二十、三十……、九十円ぐらいよ」


「きゅ、九十円……、ですか」


 また黙り込んじゃったわっ。でも、今度は私のせいみたいだし仕方ないわね。九十円ぽっちじゃ、ポップコーンは買えないもの。


「あー、そのー……、プレゼントを贈る相手は男性でしょうか? 女性でしょうか?」


「女性よ」


「女性、ですか、う~ん……。お金は無いけどプレゼントを贈りたい……、うぅ~ん……」


 黙り込まなくなったけど、今度はだいぶうるさく唸ってるわね。やっぱりお金が無いと、プレゼントはできないのかしら? お金お金って、イヤな世の中だわっ。


「え~っと……、あっ、お花なんてどうでしょうか!?」


「お花? お花なら、目の前でいっぱい咲いてるけど……」


「それですっ! その花を摘んでプレゼントとしてあげましょう!」


「ふぇっ? そんなので、いいのかしら?」


「はいっ! プレゼントとは気持ちを込めて贈れば、どんな物でも相手は喜んでくれるハズです! それでいきましょう!」


「わかったわっ、ありがとっ!」


「いえいえ、お役に立てて光栄でございます。またのお電話をお待ちしております」


 ガチャッ……。


 なんか、最後の方は投げやりになってたような気がするけど、気のせいかしら? まあいいわっ、プレゼントは決まったし、早速いっぱい摘んで二人にプレゼントしてやろっと。

 赤、青、黄色。なるべく色が被らないようにすれば見栄えもいいわよね。最初は清美の所に行こうかしら、喜んでくれるといいなぁ。

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