13話-2、私、マリーさん。いま、人間の子供達と遊んでいるの

 水道でバケツに水を汲んで砂場まで運ぶのはいいんだけども、かなり重たいわね。ちゃんと両手でしっかり持ってないと、バケツから水が零れちゃいそう。

 みんな、砂の壁の中に水を入れていってるから、私も真似をして入れてっと。ダムっていうヤツに水を入れた瞬間、透明だった水が茶色く濁っていくわね。大丈夫なのかしら、これ。


 正直に言うと、何が楽しいのかサッパリわからない。みんなはこれを楽しんでるのかしら? でも、せっかく入れてもらったんだもの。頑張ってダムを作らないとね。

 大きく作っちゃったせいか、何往復もしないと水が貯まらないわね。地面に吸い込まれていっちゃってるのかしら? 壁を厚くしたから大丈夫だとは思うけど、壁から水が漏れたりしないか心配だわっ。 


「もうちょっとで水がいっぱいになるねー」


「そうね。あと一回入れればいっぱいになるかも」


「だねっ。じゃあ最後はマリーちゃんお願い」


「わかったわっ」


 何往復もしたから疲れちゃったけど、やっとこれで最後ね。いざ完成するとなると、ちょっと名残惜しいかも。なんだかんだ言って、私も楽しんでいたかもしれない。

 限界ギリギリまで水を入れたら、ダムが壊れちゃったりしないかしら? ちょっと怖いわね、少し余裕を持たせときましょ。……ふうっ、これでよしっと! 


「ダムの完成ー!」


「やったぁ! すごく大きいのができたね!」


「そうね、立派なのができたわっ」


 みんなして、ものすごくはしゃいでいるわね。あんなに笑いながら飛び跳ねちゃって。なんだか、私まで嬉しくなってきちゃう。


「マリーちゃん、やったねっ!」


「そ、そうね」


「もっと喜びなよ。こんなに大きなダムが作れたのも、マリーちゃんのおかげなんだよっ」


「そ、そう、なの? うふふっ、そう言ってくれると嬉しいわっ」


 初めて作ったから大きさなんて全然わからないけど、私のおかげって褒められると悪い気はしないわね。ここは素直に喜んでおこっと。

 私もみんなもドロドロに汚れちゃったけど、そんなのがどうでもよくなるぐらい満足感と達成感がある。これが砂場遊びなのね、なんやかんや楽しかったわっ。


「あっ、もう五時か。そろそろ帰らないとママに怒られちゃうや」


「げっ!? もうそんな時間なんだ、早く帰らないと!」


 本当だ。時計を見てみたら、もう五時になってる。子供達と遊び始めたのは、確か二時ぐらいだったハズなのに。楽しい事があると、あっという間に時間が過ぎちゃうのね。

 もっと遊んでいたかったけど、人間はこの時間ぐらいになると帰らなくちゃいけないんだ。不便なものね。……次も遊んでくれるかしら? これで終わりなんてイヤだなぁ。


「私も帰らないと。マリーちゃんも帰るんでしょ?」


「あっ、そ、そうね……。……あのっ」


「なぁに?」


 もう一度勇気を出して言うのよ私。ここで何も言わないで別れたら、次は無いような気がする。なによりも、もっとこの子達と色んな事をして遊んでみたい! さあ、言うのよ!


「つ、次も……、一緒に遊んで、くれる、かしら……?」


「次も? うんっ、もちろんだよっ」


「い、いいの? 本当に、いいの?」


「当たり前だよ。私たち、もう友達じゃんか」


「と、友達っ……!? わ、私なんかが友達になってもいいのっ!?」


「うんっ! ずっと友達だよっ。次も、その次も一緒に遊ぼうねっ。約束だよっ!」


「……うんっ、うんっ! わかったわっ! 約束よっ、バイバイっ!」


 ……友達、友達っ、友達っ!! 少し遊んだだけなのに、私の事を友達だと言ってくれた! 嬉しいっ、とっても嬉しいっ! あまりにも嬉しくて泣いちゃいそう……。

 友達かぁ、私にもついにできたんだ。そういえば、香住かすみともなっていたのよね。じゃあこれで一気に四人目だわっ! あっ、ぬいぐるみのニャーちゃんも入れて五人目ねっ。

 勇気を出して声を掛けてよかった! あの公園はもう、忌々しい公園じゃない。とっても楽しくて、私の大好きな場所。明日もあの子達はいるのかしら? また明日も遊びたいなぁ。


 さてと、今日は私も帰ろうかしらね。ふふっ、とっても楽しい一日になっちゃったわっ。毎日こうだといいなぁ。

 ……あらっ、あの人間の後ろ姿、見覚えがあるわね。あれは、香住かしら? ビニール袋を持ってるけど何をしてるのかしら? 声を掛けてみよっと。


「香住っ」


「えっ? あっ、メリーさんだ! こんにちは、外で会うのは初めてですね」


「そうね。香住はこんな所でなにをしてたの?」


「夕飯の買い出しです。今日はちょっと肌寒いので、鍋にしようかと思いまして」


 なべ、なべってなんなのかしら? ビニール袋から緑と白色をした棒みたいな物が飛び出してるけど、それを丸ごと食べるのかしらね? とんでもない料理だわっ。


「そうだ! よければメリーさんも一緒にどうですか?」


「私も? いいの?」


「はい。もちろんポップコーンも買ってあるんで、夕飯を食べた後に一緒に食べましょうよ」


「ポップコーンっ! し、しょうがないわねっ。それじゃあ着いていくわっ」


 そうだっ。香住に私に友達ができた事を自慢してやろう。どんな反応をするのか楽しみだわっ。

 その前に香住の部屋が汚れないよう、服に付いてる泥を落とさないとね。 

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