5話-2、初めてのお友達

 とは言ったものの、出会ってからものの数分程度よ? 話すと言っても、何の話題を振ればいいのかしら。

 正直、何も話す事が無いし、何を話せばいいのかまったくわからないわっ。適当にこいつの話を聞いて、こっそりと帰っちゃおっと。


「えっと、私の名前は秋野原あきのはら 清美きよみって言うんだけど、君の名前は?」


「私っ? 私、名前なんて無いわよ」


「そ、そうなんだ。じゃあ、なんて呼べばいいかな?」


「……メリーさんでいいわよ」


「分かった、よろしくねメリーさん!」


 メリーって呼ばれるの、本当はイヤなんだけどもね。名前が無いから仕方がないけど。

 名前、かぁ。人間なんざと関わる気なんかサラサラないけど。欲しいっていう気持ちが無いと言えば嘘になる。その内、自分で決めちゃおうかしら?


 で、早速会話が止まっちゃったけど、帰ってもいいのかしら? なんだかだんだん眠くなってきちゃったわっ。

 清美も私の事をじっと見てきて、目が合ったらニコッて笑うだけだし。もう、ここに用はないわね。


「えっと、え~っと……。あっ! メリーさん。バナナがあるけど、いる?」


「ばなな?」


「うん。よくお見舞いに来てくれる親戚の人から貰ってるんだけど、あまり好きじゃないんだよね。はいっ、あげる」


「あ、ありがと……」


 ばなな……、ばななっていったいなんなのかしら? 清美が渡してきたけど、少し固くて黄色くて、緩く曲がってるわっ。

 所々に黒いのが点々としてるけど、この形……、なんだか携帯電話に似てるわね。電話とかできるのかしら? やってみよっと。


「私、メリーさん」


「ちょ、ちょっと、なにやってるのメリーさん?」


「えっ? なにって、電話をしてるのよ」


「あはは、メリーさんって面白いね」


 き、清美に笑われちゃった……。なんで、どうして? まさかこれって携帯電話じゃないの? じゃあ、ばななっていったいなんなのよ……。

 投げるとよく飛びそうな形をしてるけど、また間違えたらもっと笑われちゃうわっ。これじゃあ、私の威厳がズダボロじゃないの! えっと、えっと……。


「もしかして、バナナの剥き方が分からないの? ちょっと貸して」


「……んっ」


「こうやって、先っぽから下に向かって四つぐらいに分けて剥いてっと……。できた、はいっ。とても甘くて美味しいよ」


「あ、ありがと……」


 清美が先っぽを触ったら、ペロンッてなったわね。おいしいって言ってたけど、もしかしてばななって食べ物なのっ!?

 この中身の白いヤツを食べればいいのかしら? ……罠とかじゃないわよね? なんとなくだけど、清美に試されてる気がするわっ。


 だけど、清美が嘘をついているようには見えないし……。う~ん……。ええいっ、食べてやろうじゃないの! 違かったら、うんと怒って、しこたま驚かせてやるんだからねっ!


「―――ッ!! あ、甘くておいひいっ!!」


 なによこれっ、とっても甘くておいしいっ! 噛んでるとずっと甘くて、だんだん溶けるように柔らかくなっていって、さいっこう!


「メリーさん、すごく美味しいそうに食べてるね」


「えっ、なんでわかるの!? 私、何も言ってないわよっ」


「顔に書いてあるよ、そんなににんまりしながら食べてるんだもん。すぐに分かっちゃうよ」


「か、顔においしいって書いてあるの!? やだっ、消してよっ!」


「あっははは、やっぱりメリーさんって面白いね」


 ま、また笑われちゃった……。なんなのよ、もうっ! ……でも、このおいしいばななをくれたワケだし、悪い奴じゃなさそうね。

 清美ったら、涙を流しながらずっと笑ってるわね。何がそんなにおかしいのかしら? 失礼しちゃうわっ。ったく、人がおいしそうに食べてるだけで、そんなに面白いのかしら?

 ……このばなな、ペロンッてなってるところはあまりおいしくないわね。かなり固くて甘くないし、ちょっと苦みすら感じるわっ。


「め、メリーさん! 皮は食べちゃダメだよ」


「かわっ? このペロンッってなってる所のことかしら?」


「そうだよ。もしかして、本当にバナナの事を知らないの?」


 知らないも何も、ほとんどが初めて見る物だからわかるワケないじゃないの。もしかしてばななって、そんなに有名な物なのかしら?


「知らないわっ、初めて見たもの」


「ウソッ!? い、今まで何を食べてきたの?」


「えっと、ポップコーン」


「ポップーコーン……、えっ、それだけ?」


「うんっ、それだけよっ」


「えぇ~……」


 あらっ、清美がボーゼンとして固まっちゃったわっ。なんでかしら? まあ、そんなのはいいわっ。ばななのかわが食べられないのもわかったし、もう帰ろっと。他に喋る事は何も無いしね。


「あれっ、どこに行くの?」


「帰るのよ、ばななありがとね」


「帰っちゃうの!? あっ、ねぇメリーさん!!」


「なによ?」


 私を呼び止めちゃって、まだ他に用があるのかしら。でも清美の奴、なんだかモジモジとしてるわね。


「……また、ここに来てくれる?」


「ここに? なんでかしら?」


「えっと……、そのー、あっ! ほら、他にも美味しい物を食べさせてあげるから、また来てよ! いつでも歓迎するからさ!」


「おいしいもの……、考えておくわっ。じゃあね清美っ」


「うん! じゃあねメリーさん、待ってるからね!」





――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――





 ふうっ、やっと外に出られたわっ。また疲れちゃった……。本当に大きな家ね。清美の奴、他の人間に比べるとだいぶ変な奴だったわね。

 ……清美の携帯電話の番号は、確かこれよね。一応登録しておこっと。別に、また美味しい物が食べたいってワケじゃないんだから。

 また気が向いたら、清美をしこたま驚かせに行くだけなんだからねっ! 恐怖で震えて待ってるがいいわっ!


 ……今度は、何を食べさせてくれるのかしら? 楽しみだわっ。

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