4話、犬、vs鳩

 はあっ……。携帯電話の調子が悪いから、ものすごく暇だわっ。仕方がないから街をプラプラして、色んな事を見て学んできたけど、役に立つのかしら?

 携帯電話が無いと、本来の役目を果たせないからツラいわね。これじゃあまるで、ただの人間の子供みたいじゃないの。……人間、かぁ。


 生まれて間もない時は、自分の事をちょっと変わった人間の子供だと思っていたけど、いざ人間じゃないとわかった時は、本当に悲しくなっちゃったのよね。実際、数日間泣きっぱなしだったし。

 ……思い出したら、また泣いちゃいそうになるから、この事は忘れましょっと。私は都市伝説であるメリーさん。それはもう変えられない運命だから、ちゃんと受け入れないとね。


「ワンッ!」


「ひゃっ!? び、ビックリしたぁ……。なによ犬っ、いきなり吠えてきて! なんか私に用でもあるの?」


「クゥーン、クゥーン」


「なによっ、ピコピコ尻尾なんか振っちゃって……」


 この犬、ずいぶんと大きいわね。全身がクリーム色の毛皮で、とっても優しい顔をしてるわっ。触っても怒らないかしら?

 ……頭を撫でても大丈夫みたいね。笑いながらベロなんか出しちゃって、カワイイ奴だわっ。胸毛がとってもフワフワしてて気持ちよさそう。顔を突っ込んで頬張りしてみたい。

 ……もう我慢できないっ、やっちゃえ! ……ふあっ、フッカフカのモッフモフで、温かくて気持ちいいっ。ずっとこうしてたいわっ……。


「ジョン、何してるの? 行くよ」


「クゥーン……」


「あっ、待って、もう少しだけっ! ……行っちゃった」


 飼い犬だったのね、あの犬。あ~あ、また一人になっちゃったわっ。……どうしましょ? 人間観察でもして、時間を潰そうかしらね。





――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――





 人間観察をするなら、やっぱり人が集まる公園が一番よね。私がメリーさんだと知らされた、因縁深い忌々しい場所だけども、仕方ないわっ。

 ……あらっ、とってもいい匂いがするわっ。なにかしら? 噴水の前に小さなお店みたいなのがあるけど、あそこから漂ってくるみたいね。何か文字が書いてある。

 ポップ、コーン。なにかしら、ポップコーンって? 匂いからするに、たぶん食べ物ってヤツよね。確か、紙とか丸いヤツを渡すと、そのお店の物が貰えるのよね。


 この前、イチゼロゼロゼロって書いてある青い紙を拾ったから、これを渡せば貰えるハズ。


 最近になって、意図的に姿を現せるようになったから、あのポップコーンを渡してる人間を驚かせてやろうかしら? ……そうしたら、ポップコーンが貰えなくなっちゃうわね。やめておこっと。


「あ、あの、ポップコーンくださいっ!」


「いらっしゃい、君一人?」


「は、はいっ!」


「そう。塩とキャラメルの二つの味があるけど、どっちにする?」


 塩とキャラメル? なによそれ、全然わからないわっ……。味にも色々種類があるのかしら? これはまだ知らないから、なんとも言えないわね……。

 どうしよう、とりあえず普通って言えば通じるかしら……? これで通じなかったら、ポップコーンを貰えなくなっちゃうかもしれない。そんなのイヤだわっ。


「えと、ふ、普通でっ!」


「普通……。じゃあ塩ね、三百円になります」


「これでっ」


「千円ね。はい、七百円のおつり。ちょっと待っててね」


 なんか、おつりって言うヤツを貰えたわっ。イチゼロゼロって書いてある丸いのが二枚と、ゴーゼロゼロって書かれた少し大きくて丸いのをくれたけど、これも使えるのかしら? 一応取っておこっと。


「はい、塩味のポップコーン。落とさないように気をつけてね」


「ありがとっ!」


 やったっ、貰えたわっ! すごいっ、思ってたよりもずっと量がある。山盛りだわっ。それじゃあ早速、ベンチに座って食べよっと!

 ポップコーンってかなり軽いのね。一つ持ってみたけど、全然重さを感じないわっ。見た目は、結構いびつね。そのまま口の中に入れればいいのかしら? ……よし、入れるわよっ。


「んーっ! なにこれっ、とってもおいひいっ!」


 絶対に固いと思ってたけど、案外柔らくておいひいっ! ポップコーンを渡してきた奴、しお味とか言ってたわよね。なんだかもっと食べたくなってくるような、不思議な味がするわっ。

 食べ物って初めて食べたけど、こんなのにおいしい物だったのねっ! 人間って、こういう物を毎日食べてるのかしら? ……羨ましいなぁ。


「クルッポー」


「んっ? な、なによこの鳩。もしかして、ポップコーンが欲しいのかしら? ……いっぱいあるし、ちょっとだけよっ」


「クルッポークルッポー」


「あらっ、いつの間にか一匹増えてる。あんたも欲しいの? 仕方ないわねっ」


「クルッポークルッポークルッポー」


「ふぇっ!? い、いっぱい増えてる!」


 い、いったいなんなの? 一匹の鳩にポップコーンをあげたら、二匹三匹って、どんどん増えていくんだけど……。

 どこからこんなにやって来たのかしら……。どうしよう、あっという間に大量の鳩に囲まれちゃった……。みんなして私のポップコーンを見てるけど、まさか、狙われてる!?


「だ、ダメよっ! これは私のポップコーンよっ! あんた達全員にはあげないんだからねっ!」


 やだっ、ポップコーンを上に持ち上げた瞬間、一斉に私に群がってきた! こいつら、言葉が通じないの!?


「こっちに来ないでっ! ダメ! ダメだってば! イタッ! ……ううっ、こけちゃった。あっ、ポップコーンが!」


「クルッポークルッポー」


「ダメェーッ!! ダメだって言ってるでしょ! このあんぽんたんっ! あっ……、ぜ、全部、食べられちゃった……」


 うそっ、まだ三つ四つしか食べてないのに……。なんなのよ、この鳩共……。ヒドイわっ……、ヒック……。ちゃんとお店から貰って食べなさいよっ! もうっ……、グスッ……。


「そこの君。はいこれ、あげる」


「ヒック……、えっ? これは、ポップコーン? 私、さっきの丸いヤツ渡してないわよっ……」


「見ててとても可哀想だったからね。タダでいいよ。もう鳩には取られないようにしなね」


「……いいのっ? ありがとっ!」


 やったっ! 新しいの貰っちゃった! 嬉しいっ! ……今度は鳩に取られないようにして食べないと。人間にも、優しい奴がいるのね。見直しちゃったわっ。

 この丸いのや、さっきの紙って、どうやったらいっぱい手に入るのかしら? もっと色んな物を食べてみたいから、また色々と勉強してみよっと。

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