洗剤を混ぜたなら

峯山嘉陽

●洗剤を混ぜたらな



「いやな臭いを消す徹底抗菌 ○×洗剤」

「洗濯槽のキレイを保つ △□洗剤」


 ある日の夕食後のこと。

 お皿を拭いていると、そんな言葉が耳に飛び込んできて顔を上げる。

 ソファに寝転んだ旦那は、見たい番組が決まらないらしく次々とチャンネルを変えていく。番組と番組の間の時間。違うチャンネルで、たまたま連続して洗剤のコマーシャルが流れた。

 どちらも同じく、洗濯洗剤。

 前者を仮にA洗剤、後者をB洗剤とする。

 A洗剤は、生乾きの臭いや加齢臭、汗の臭い等のいやな臭いを消す、または防ぐ徹底抗菌を売りとしている。抗菌率は、99.9パーセント。

 対するB洗剤は、洗濯槽のカビの発生を防ぎ、いつまでもキレイな状態を保つという。洗濯槽のカビは洗濯物の臭いの原因ともなるため、こちらもいやな臭いを防ぐといえば防いでくれそうだ。そして、抗菌率はこちらも同じく99.9パーセント。

 抗菌率は決して100パーセントとは言われない。マスクと同じだ。マスクのウイルス遮断率も基本的には99.9パーセント。「絶対」という100パーセントは禁句なのだ。

 それはともかく。

 どちらの効果も持った洗剤というのは、もしやこの上なく最高の洗剤なのではないか。

 そう思った瞬間、私の全身を電気のような衝撃が走った!

 つまり。



 洗剤を混ぜたなら、最強なのでは?



 なんということか。

 私は天才か。

 我ながら、この発想は恐い。

 洗剤会社各社も思いつかないほどの、天才的な発想なのでは。

「片付け終わったなら、先にお風呂入っていいよ」

「あ、うん。わかった」

 旦那は私がこんな近くで天才的な発想をしているなど露知らず、ソファからのんきに声をかけてくる。テレビは、いつの間にかお笑い番組が始まっていた。

 いまだ天才的な発想の衝撃が抜けきらない私は、いつもより少しぼんやりと、しかしいささかそわそわしながらお風呂へと向かった。

 我が家、といっても、いたって普通のアパートは、よく見るタイプのお風呂場の手前、脱衣所に洗濯スペースがある物件だ。

 ついまじまじと、その洗濯スペースを見てしまう。

 仕事から帰ってきて放り込まれた私のハンカチやストッキング、それに旦那の靴下にハンカチ、ワイシャツ、昨日使ったタオル等々。洗濯機の中はすでに混雑しつつある。まぁ、二人暮らしだから洗濯機の限界までモノを詰め込んで洗うことはまずないため、混雑とは言っても大したことはない。

 そして、洗濯ラックに鎮座する我が家御用達の洗剤に柔軟剤。決して広くはないスペースなので、コンパクトなものを使っている。

 今の時代はすごいもので、コンパクトサイズで洗剤の量は少なく見えても、通常サイズと変わらぬ量の洗濯ができるという。なんという時代か。開発に携わった方々には感謝の念しかない。狭いアパート暮らしでは、洗剤に使うスペースでさえも勿体無く思ってしまうものだ。

 とはいえ。

 手にとって見るまでもなく、先ほどコマーシャルでやっていた徹底抗菌のA洗剤でもなければ、洗濯槽のキレイを保つB洗剤でもない。

 今まで、というかついさっきまで、洗剤のことなどこんなに真剣に考えたことはなかった。次から次へといろいろな洗剤が発売されており、粉洗剤、液体洗剤に次ぐ第三の洗剤、ジェルボールなどというものまであるという。

 しかし、我が家では惰性でずっと同じものを使っている。

 だって、悩むの面倒だし。違いもよくわからないし。

 とりあえず、泡が立って洗濯されるならそれでよし、と。

 脱いだ服を洗濯機に放り込み、シャワーを一通り浴びてから湯船につかりつつ考える。

 だが、しかし。

 時代は変わったのである。

 いまやぷにぷにの手の汚れない、なんの苦労もなくポンと放り込むだけの洗剤も発明され、徹底抗菌だの洗濯槽の防カビだのといった汚れを落とすためだけではない洗剤が発売しているのだ。

 そして、私は思いついた!

 違う効果を持った洗剤を混ぜることで、史上最強の洗剤を使った洗濯が行えるのではないかと!

 そう、徹底抗菌のA洗剤と洗濯槽をキレイに保つB洗剤を一緒に使えば、臭いを防ぎつつ洗濯槽をキレイにできるのだ!

 これは、画期的なアイディアである。

 A洗剤を使うことで日々蓄積されていく洗濯物の臭いを消し去りつつ、B洗剤の効果で洗濯をすればするほど洗濯槽がキレイになっていく。雨の日や梅雨時のいやな生乾き臭を、フレグランススプレーなどで誤魔化す必要もなくなるのだ。さらに、思いついたときにやるあの面倒な洗濯槽の掃除など、一切必要なくなるのかもしれない。

 なんということか。

 こうした余計な作業が少し減るだけで、忙しい現代人の生活にちょっとした余裕が生まれるのである。そうした時間的な余裕は心の余裕となり、ストレスの軽減や仕事などにおけるパフォーマンスの向上にも繋がるかもしれない。

 洗剤を混ぜるだけでこれだけの効果が得られるなど、一体誰が思いつこうか。

 やはり、私は自分の発想が恐ろしい。

 この発想は、もしかしたら世界をも変えるのかもしれない。

 お風呂から上がり、年季の入った少々ごわつくバスタオルで身体を拭いていく。そのままパジャマに着替えたら、旦那に声をかけにいく。いまだ、ソファの上でテレビを見ていた。

「お風呂空いたよ」

「わかった」

 そして、私は寝室へと向かう。

 ベッドに入り、習慣で読みかけの文庫本を開く。遠くからは、シャワーの音が聞こえ始めた。

 ぱらぱらと数ページ文庫を読み、ふとある言葉が私の目にとまる。

 アンチエイジング。

 アンチエイジング……


 

 アンチエイジング!



 またしても、私の全身を電気のような衝撃が走り抜けた。

 そう!

 アンチエイジングである!

 そういえば、いつぞやにお昼の番組をだらだらと見ていたら、衣類のアンチエイジングができる洗剤ができたとかいう話を聞いたことがある。そのときは特に何も思わず聞き流してしまったが、今思えばこれもすごいことである。

 なんという執念か。

 日本人は自分たちを若々しく見せるための、化粧品などでよく使われるアンチエイジングを衣類にまで施そうと言うのだ!

 自分自身だけでなく、衣類までも若々しく保とうとは!

 日本人は一体なぜそんなに若さにこだわるのか。

 まぁ、その洗剤、仮にC洗剤としよう。C洗剤のいうところのアンチエイジングとは、衣類の傷みや劣化を防ぐ、といった趣旨のもののようで、つまるところは物持ちがよくなるということである。物持ちがよくなるのは、大変によろしい。勿体無い精神は、世界からも賞賛された日本人の美徳である。

 そして、私はその賞賛すらも上回る発想を得た。



 A洗剤、B洗剤だけではなく、C洗剤も混ぜてはどうかと!



 徹底抗菌をしつつ、洗濯槽のキレイを保ち、その上で衣類のアンチエイジングまで叶えてしまう。

 夢のような洗剤の誕生である。

 つまり、その洗剤を使って洗濯をするだけで、洗濯物からのいやな臭いを消し去り、洗濯槽も新品同様のキレイさ、そしてすぐによれてしまっていた服を、ごわごわになるタオルを今より長く、大切に使えるという。

 臭いを寄せ付けない、白さ輝くワイシャツ。

 洗濯するたび、勝手に掃除されていく洗濯機。

 毎日使ってもごわつかない、ふわふわのバスタオル。

 ここまで来たら、洗濯だけについていえば完璧な奥様ではないか!

 素晴らしい。

 これは、本当に素晴らしい発想である。

 あぁ、自分で自分が恐い。

 なんて発想力だ。

「まだ本読んでるの。電気消してもいい?」

「あ、うん。消していいよ」

 結局、ほとんど文庫を読み進めることなく、いつの間にか寝室に来ていた旦那に電気を消された。

 ごそごそと音がして、隣に旦那が横になる。それに倣うように、私も横になった。

 横にはなったが、天才的な発想の興奮冷めやらず。

 目はギンギンに冴え渡っており、頭の中では三種類の洗剤を注ぎ込まれた洗濯機が、ガタゴトと回り続けている。洗濯機の中にある衣類は徹底的に抗菌され、アンチエイジングを施される。そして、洗濯槽内に蔓延っていたカビ菌たちは滅ぼされてゆく。

 ただ普通に回っているだけの洗濯機の中では、次から次へとそういった作業が行われていくのである。

 そんなことを考えていたら、眠気など近づいてくるわけもない。

「ねぇ、ちょっと思いついたんだけどさ」

「……なに」

 微塵も眠くない私に対し、旦那は眠たそうな声で面倒くさそうに返事をする。

「洗濯洗剤の話なんだけどさ。徹底抗菌の洗剤と、洗濯槽のキレイを保つ洗剤と、衣類のアンチエイジングができる洗剤を混ぜて使ったら、最強だと思わない?」

「…………」

 返事はない。

 私が興奮している横で、話を聞く振りして眠ってしまったのだろうか。

 少し寂しく思って旦那の方を見ると、ぽつりと返事が返ってきた。

「洗剤を混ぜるとか、そんなこと普通考えないでしょう」

 と。

 そして、旦那は私の方に背中を向けると、寝息を立て始めた。

 なるほど。

 確かに、普通は洗剤を混ぜて使おうなどと考える人もいないかもしれない。

 洗剤と柔軟剤ならまだしも、洗剤同士だしな。

 まぁ、普通の発想ではない、天才の発想なのだから。

 誰も思いつかなかったからこその、天才の発想ではないだろうか。

 そう、きっと、実践してみたらすごいことになるのだろう。

 そんなことを考えたあたりで私にも睡魔が襲ってきて、その日はそのまま眠りについた。




ある日の夜のこと。

風呂上がりに洗濯をしようと洗剤を手にして、その軽さに驚いた。

 キャップを外して中を覗くと、あと数回の洗濯には耐えられるだろうが、一週間は持たない程度の量しか洗剤が残っていなかった。詰め替え用を探したが、いつもおいてある場所になかったので使い切ってしまったのだろう。

 とりあえず今日の分に支障はないからと、いつもの量を洗濯機に投入し、合わせて柔軟剤もセットする。そのままスイッチを押して、妻のいるリビングに向かった。

 「洗濯はじめたんだけどさ、洗剤がなくなりそうだった」

 「あ、本当に。じゃあ、今度仕事帰りに買ってくるね」

 リビングにいた妻は、のんきにテレビを見ながらコーヒーを飲んでいたらしい。

 小さく聞こえる洗濯機の回る音を聞きながら、僕も一緒にテレビを見るためソファに座った。


 次の日の朝。

 朝ご飯を食べながらぼんやりとテレビを眺めていたら、洗濯洗剤のコマーシャルが流れた。普段なら気に止めることもないのだが、初めて見るコマーシャルだったっせいかついじっと見てしまう。

 「あれ、まだ食べてるの?私、先出るからね」

 「え、もうそんな時間?僕ももう行くよ」

 食べかけの食パンをコーヒーで流し込みながら食器を洗い、慌てて靴を履く。テレビを消し忘れたことに気がついてリビングに戻ると、エンタメ特集のニュースに妻の好きな俳優が出ていた。

 だからといって見ている暇はないので、テレビを消すとまた慌ただしく玄関に戻って家を出た。

 朝からその姿を見たせいか、なぜか妻の好きな俳優が頭から離れず、後輩と外にお昼を食べにいった帰りも、つい街角の広告に反応してしまった。

 横断歩道の信号が変わるのを待ちつつ眺めていると、それに気がついた後輩がしゃべり出す。

 「先輩って、あの俳優好きなんですか?」

 「あ、いや、妻がね」

 「あぁ、なるほど。女性に人気ですもんね。今日も、なんか新しく洗濯洗剤のコマーシャルに出てるとかで、会社の女子も騒いでましたね」

 「洗濯洗剤……」

 その時、何日か前の夜に妻とした会話を思い出した。

 正直言って、変なことをよく思いつくもんだとその時には思った。確かに、発想力が豊かというか、人が思いつかないようなことを思いつく人ではあるが。



 それで思いつくのが、洗濯洗剤を混ぜて最強の洗剤を作るだなんて。



 半分眠りはじめたところで聞いていたため、その時は深く考えもしなかったが。彼女はもう少しなにか、現実味があるというか、社会の役に立ちそうな発想はできないのだろうか。

 そう思いつつ、なんとなくその話を後輩にしてみることにした。

 「洗濯洗剤ってさ、家でどんなの使ってるんだ?」

 「え、何ですか?市場調査ですか?俺は一人暮らしなんで、コンパクトタイプの液体のやつ使ってますけど」

 「一種類?」

 「……はい?」

 まぁ、そうだよな。

 突然そんなこと聞かれたら、そういう反応になるよな。逆の立場なら、僕もそういう反応を返すだろう。

 でもやっぱり、妻の発想が社会にどの程度まで受け入れられるのか、気になってきた。

 本人は天才的な発想だと思っているかもしれないが、それは人が理解できる類の天才的発想なのだろうか。それとも、彼女の発想はすでに我々の想像のつかない次元に達してしまっているのだろうか。

 「別に、そんなに洗濯に情熱をもってないんで、一種類だけですけど……先輩は家で何種類も使い分けてるんですか?」

 「いや。例えばの話だけどさ、効果の違う洗剤を複数使いたいな、とか思って混ぜようか考えたことってあるか?徹底抗菌の洗剤と洗濯槽をキレイにする洗剤を混ぜようか、とか」

 「……ないっす」

 「……そうか」

 これ以上洗濯洗剤の話ができる雰囲気ではなくなったところで、会社に着いた。

 特に意味のある話ではないので気にするな、と後輩には伝えたが、仕事中に時折こちらを見て考え込んでいるようだった。なんとなく、悪いことをした気分になる。

 現時点では一人にしか確認はしていないが、おおよそ世間の反応は同じものだろう。そういうことにして、これ以上周りに聞くことはやめた。

 やはり、彼女の発想は人知の及ばない次元に向くようだ。

 もしかしたら、洗剤会社などでは「天才的な発想だ」と讃えられることもあるかもしれないが、そもそもどの会社に持ち込めばいいのか。企画としてはいいかもしれないが、互いにしのぎを削るライバル社の洗剤を持っていくなど、どう考えても相手にしてもらえる気がしない。

 というより、ライバル会社との差別化のため、日々の研究開発からそれぞれ違う効果の洗剤を生み出しているのではないか。

 そう考えると、彼女の発想は天才的かもしれないが、全ての洗剤会社のやる気を削ぐ原因にもなりかねない。

 そうなると、洗剤会社各社の成長が止まり、利益が上がらなくなり、各方面へのスポンサー活動やCSR活動などにも影響が出るのではないか。初めは些細な影響だったとしても、社会へ与えるダメージは相当なものとなるだろう。

 どうにか彼女の発想の実行を阻止せねば、と考えているうちに、終業の時間になっていた。

 お昼休憩後は後輩の視線が何度か気になったものの、雑念に囚われつつも仕事は順調に終わった。後輩は終わらなかったらしく、少し残っていくと上司に伝えていた。


 その日の夜。

 また洗濯機を回してからリビングでテレビをつけると、洗濯洗剤のコマーシャルが流れ出した。別のチャンネルに回すと、そちらも違う洗濯洗剤のコマーシャル。

 「…………」

 次も。

 その次も。

 そのまた次も……

 回しても回しても、テレビから流れてくるのは洗濯洗剤のコマーシャルばかりだった。それも、すべて売り文句が違い、それぞれ違った効果があるようだ。

 徹底抗菌!

 アンチエイジング!

 洗濯槽のキレイ!

 白さ輝く!

 ポンっと入れるだけ!

 コンパクトでもすごい威力!

 ふんわり仕上がり!

 なんとかかんとか……

 いつも買っている洗剤のコマーシャルが流れた時に、ふとまだ詰め替え用が用意されていなかったことに気がつく。もう一度、明日の朝にでも妻に伝えよう。

 そう思いながらリモコンを操作するが、やはりどのチャンネルでも洗濯洗剤のコマーシャルしかやっていなかった。

 そして、最後に回したチャンネルで、見慣れた顔の女性がその全ての洗剤をひとつの洗濯機にドバッと投入していた。



 「全部の洗剤を混ぜたら、最強のお洗濯ができるじゃない!」



 翌朝、げっそりとした顔で起きた僕に、妻が心配そうに声をかけた。

 「なんか、うなされてたみたいだけど、大丈夫?」

 「洗濯洗剤の夢を見た……」

 「なにそれ。あ、今日こそ洗剤買ってくるからね」

 夢の終わりに見たその顔に、心の中で「頼むから、買ってくるのは一種類だけにしてくれ」と懇願する僕だった。





 後日。

 仕事帰りのドラックストア、洗濯洗剤コーナーにて。

 私は、徹底抗菌のA洗剤でもなく、洗濯槽のキレイを保つB洗剤でもなく、衣類のアンチエイジングができるC洗剤でもなく、いつもの洗剤でもない、まったく新しい洗剤を購入した。

 理由は簡単。

 この前新しくなったコマーシャルで、私の好きな俳優が出てたから。

 まぁ、洗剤を混ぜるなんて、誰が考えたってありえないでしょ。

 洗濯機から泡が溢れて家中泡だらけ、なんて笑えない話だ。

 用法用量をきちんと守ってこそ、その洗剤の力が最大限発揮されるのだろう。

 並んで置かれた三種類の洗剤を見て、私は鼻で笑った。



 というか、なぜ洗濯をしない私が洗剤買いにきたんだっけ。



 そう疑問に思ったのは、帰宅後コマーシャルで好きな俳優の輝くような笑顔を見た時だった。




 悪夢の日の夜。

 洗濯をしようと洗濯ラックを確認すると、見慣れない洗濯洗剤が置いてあった。

 すっかり空になってしまった以前の洗濯洗剤の容器は、足元のゴミ箱に無慈悲にも打ち捨てられてる。

 ついに、我が家の洗剤にも世代交代の時が来たらしい。

 どうせなら、あのぷにっとしたジェルボールなんてものを使ってみたかったのだが。

 しかし、久しぶりに新しい洗剤を使用するのは、ほんの少し心が躍る。使用量をしっかりと確認して、ついでに匂いを嗅いでみてから、いつものように洗濯機のスイッチを押した。勢いよく水の溜まる音がして、そのうちガタゴトと小刻みに動き出す。

 一体、どんな洗いあがりになるのだろうか。

 洗濯機が回る様子を少し見てから、僕はリビングにいる妻の元に戻った。

 「洗濯洗剤、新しいのにしたんだね」

 「そう」

 「なんの効果が最強だと思ったの?」



 「洗剤の効果?いや、そんなものより、好きな俳優で選ぶでしょ」



 結局は、そういうことらしい。

 それ以降、僕は洗剤の悪夢にうなされることもなく、なんとなくふんわりと仕上がるようになった洗剤を使って、今日も洗濯機を回すのであった。



 あとから気づいたことだが、我が家では洗濯は僕の担当なので、彼女に頼む必要性もなかったのだ。

 今度新しい洗剤に変える時は、自分で選びに行こうと思う。

 その時には、今よりさらに進化した洗剤に会えることを楽しみにしておこう。

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洗剤を混ぜたなら 峯山嘉陽 @kayou-M

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