バニーガールに恋をして

柚木サクラ

第1話

空虚な幸せ。

それが僕の人生だと思う。


世間的に見れば30歳で年収1000万超えのエリートサラリーマンであるが、そのアドバンテージが霞むほどの僕の欠点。


チビ、ハゲ、デブの三重苦。


それに加えて、歪んだ性格。それでいて、それを隠そうとする姑息さ。


周りから見れば欠点は多いが幸せに見えるのだろう。そんな僕の内側は空っぽだ。こんな僕が幸せな今の生活を送れるのは、周りの環境のおかげだと思っている。


会社を経営する父と普段は明るく時に厳しく家庭を支えている母、そしてその二人の優秀な遺伝子を受け継いでいる兄。3人とは似ても似つかない僕。4人家族ではあるが、3+1の家族。それでも3人からは敵意のある視線をもらったことはない。もしかしたら憐れみなのかもしれないが、少なくとも初対面の人間が僕に見せる憎悪の視線とは異なるものだ。


とはいっても、敵意のある視線を意識するようになったのは社会に出てからだ。そういう意味でも僕の周りは今から思えば恵まれていたのだろう。幼稚園から兄と同じ私立に通い、いじりは適度に受けるがいじめは受けない立ち位置。休日に遊ぶ友達はいないがクラスで話す友達はいる。別段つらい学校生活ではなかったが、中身は空っぽ。無事に高校を卒業して、1浪はしたが一流私立大学に進学、そして卒業できたのも、恵まれた環境によるものだろう。それに加えて、趣味というほどではないが夜はバーでウイスキーを嗜み、週末は高級店でディナーを食べる。それでいて、貯金ができる余裕があるのだから、幸せでないというのはおこがましいだろう。


ここまでの話から、僕が女性にモテないことは想像に難くないとは思う。もちろん彼女がいたことはない。働き始めてからはいろいろな店には行った。風俗、クラブ、キャバクラ。ある時は吉原の最高級店に行き、ある時は座っただけで数万とられる銀座のクラブに通い、ある時は歌舞伎町のキャバクラで高級シャンパンを開けた。結局、僕が満たされることはなかった。楽しくなかったわけではない。笑顔の女性が僕なんかの相手をしてくれるのだから。ただ、どんな風俗嬢でもホステスでもキャバ嬢でも、時折見せる冷たく暗い視線。侮蔑・憎悪の眼。それを感じると、その女性がいかに綺麗でも可愛くても愛想が良くても僕は心を閉ざしてしまう。


そんな満たされない僕の歪んだ楽しみは、ガールズバーだった。女性と机を挟んで、体は触れ合わず会話を楽しむ場所。そんなガールズバーで、女性の不幸な身の上話を聞く。大方はお金の話だ。そして、自分を下卑するかのようにして、自分の環境の自慢をする。表面上の対応は人により異なるが、眼には隠しきれない嫉妬の感情。


「なんで、こんな奴がわたしより恵まれているんだ」


そんなことを眼で言ってる。それを肴にウイスキーを飲む。くだらない虚栄心。一時的にしか満たされない意味のない行為。これを僕はここ一年都内のガールズバーで繰り返していた。

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