第13話 勇者は永遠に
寝心地の悪い椅子の上で、シーティアは目を覚ました。
夢でも幻でもない、どういう訳かきちんと生きている。
見覚えのあるこの店は・・・
『勇者の墓場』天空の指輪を求め訪れた、あのマスターの酒場だ。
「よう、目を覚ましたのか。」
掛けられた声にシーティアは慌てて飛び起きる。
そこに居たのは・・・かつて己と戦った魔王であった。
「貴方は・・・イブ様!?」
「・・・へっ、やめてくれよ。その名前はもう捨てたんだ。俺を呼ぶなら魔王ハベルトとでも呼んでくれ。」
何故ここに・・・?まさか彼が自分の事を?
疑問を抱えるシーティアの元へ、店の主が現れた。
「おいおい、お前が先に出ちまったら要らん混乱を招くじゃねえか。」
「マスター・・・これは一体?」
状況が飲み込めぬシーティアの肩をマスターがぐっと掴む。そのサングラスがキラリと輝く。
「おっと、それを言うなら俺はマスターじゃなくて魔王グロルドンだぜ・・・なんてな、あっははっは!」
「あんたこそややこしくしてんじゃねえか・・・。」
笑うマスターにイブは目を細めた。
話を纏めると・・・マスターもシーティアやイブと同じく、魔王に身を落とした元勇者だという。
命まで奪われなかった彼は・・・こうして酒場のマスターに姿を変え、街の片隅でひっそりと暮らしているという。
「新たな勇者に希望を見て、最後は勇者の心を取り戻しながら死んでいく・・・そんなちょっといい感じのハッピーエンドになると思ってたろう?でもな・・・こうして俺らは生き延びちまった。結局、人はそんな綺麗には死ねないのさ。」
ふーっと、マスターが煙草をふかす。
「だが、生き延びちまったからには何か訳があるんだろうさ。俺らにはまだ何か・・・役目が残ってるはずなんだよ。」
「・・・その役目とは?」
目を丸くし問い掛けるシーティア。
マスターは彼の顔面に煙を吐きかけた。
「ばーか、そいつが分かったら苦労しねえっての。・・・本当は勇者として魔王に挑みに行くのが正解なんだろうが・・・今更そんな気にもなりやしねえ。魔王の気持ちだって十分にわかっちまう・・・全部自分が通った道だからな。お前らだってそうだろう?」
こくりと、シーティアとイブがうなづく。
マスターも満足そうにうんうんとうなづき、また煙草を咥えた。
「かといって、世界が滅ぼされるのを黙って見てられるほど非情にもなりきれねえ。全くどっち付かずでいけねえわな。だから俺は勇者に道を示すポジションに付いたわけだが・・・。」
そう言うとマスターはシーティアの指から天空の指輪を引っこ抜いた。
また、新たな勇者が現れた際に与えるのだろう。
「やっぱりこれも何か違う気がするわけよ。・・・まあ、人生は長いんだ。気長に見つけていこうや。」
それまではここにいて良いと、マスターは付け加えた。
確かに、彼の言うことも一理ある。
こうして生き延びてしまった以上、まだ何かできる事がある気がする・・・シーティアはそう感じていた。
そして、それから数日後だ。
事件は起きた。
突然上空に、天を覆い尽くす程の巨大な飛行物体が現れた。
世界中の人々が困惑する中、そこからその飛行物体の主らしき生物が現れた。
山のような大きさの漆黒の体。魔物にも類を見ない不気味な造形。そして羽も持たずに宙に浮いている。
その生物は腕を組みながら、口を動かさず全ての人々の頭に直接言葉を送り込んだ。
『我が名はデルメデリアン。地球の生物達よ・・・我々は遥かな天空、宇宙から来た。そして我々はこの星を新たな住処と決めたのだ。もはや貴様らは邪魔だ。・・・すみやかに一匹残らず死ね。』
予想だにしない言葉に人々は驚愕した。
空を黒く染めるほどの勢力を持つ相手だ。皆が絶望するのにはさほど時間もかからない。
だがそれよりも早く、地上の唯一の希望は立ち上がった。
携えた光の翼で、一直線に飛び上がっていく。
勇者レルシミカだ。
「デルメデリアンと言ったな・・・お前が何なのかは分からないが、好きにはさせないぞ!!この勇者レルシミカの名にかけて・・・っ!?」
どごおっ!!
突然、レルシミカは爆発した。
その羽は失われ真っ逆さまに落ちる。
何をしたのかは分からない。魔法なんて生易しいものでは無い、何の前触れも無くいきなり爆発が巻き起こったのだ。
『抵抗は無意味だ。・・・繰り返す、すみやかに一匹残らず死ね。』
人々はパニックになった。レルシミカを知る者も知らぬ者も・・・今のを見れば十分に、相手が想像を絶する力を持つ事がわかった。
終わりだ。もう、この世界は・・・。
・・・そんな中、動じぬ者達が三人いた。
「やれやれ、どうやら思ったよりずっと簡単に役目が見つかったみてえだな。・・・野郎共、準備は良いかい?」
マスターは隠し扉を動かし剣を取り出した。
「なるほどな・・・この日の為に俺達は生き延びたという訳か。天空魔城よりも遥かな天空から来た悪となれば・・・相手にとってなんの不足もあるまい。」
イブはニヤリとしながら拳を鳴らした。
「・・・行きましょう、もう一度世界を救う為に!この国の勇者が・・・魔王がどれだけ強いか見せてやるんだっ!!」
しゃきん!シーティアの携えた剣が光を放つ。
彼の目にもまた、眩い光が宿っていた。
勇者か魔王か・・・そんな物は人が定めた勝手な善悪の基準に過ぎない。
重要なのは、その力をどう使うかだ。
勇者は永遠に クロット @kurot1399
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