第10話 回想

どうやって天空の指輪を手に・・・?

あのアルマージの王達はまたある事無い事をでっち上げたのだろうか?


疑問はいくつかあったが、こうしてこの少年が勇者として己の前に立ちはだかる以上・・・シーティアがやる事は一つだった。


「俺を倒す・・・か。本当にそんな事ができると思っているのか?」

「そうだっ!!できるできないじゃない・・・やる!お前を倒して僕は人々を恐怖から救うんだ!!」

「・・・。じゃあ仕方ないな。俺もここでみすみすやられる訳にはいかない・・・死んでもらうぞ、勇者!!」


シーティアは闇の力を解放した。

天空に浮かぶ城が震える程のエネルギーが溢れる。




・・・勇者レルシミカの放つ魔法を左手で弾く。そして右の手刀で薙ぎ払う。


「はあああっ!!」


レルシミカはなんとかそれを剣の腹で受け止めるが・・・防ぎ切れず吹っ飛ばされてしまった。


「・・・ぐぐっ、まだだっ・・・!!」


しかし彼は少しも怯まずもう一度シーティアに突っ込んだ。



内に潜む膨大な闇の力を手にしたシーティアにとって、この若き勇者は敵ではない。

だが、彼はいまいち攻めきれずにいた。

未熟な剣だが・・・ひしひしと伝わって来るのだ。

その心が・・・世界を救いたいという思いが。


シーティアはそれに気圧されていた。

なんて事はない、彼にはその思いが痛い程よく分かったのだ。

自分もかつて通った道なのだから・・・。





「はあっ、はあっ・・・。」

もはやその体力も限界、レルシミカは剣で身を支えなんとか立ち上がるので精一杯だった。

だが、その目の光は些かも衰えていない。


シーティアはその姿に僅かに苛立ちを覚えていた。

昔の己と重なるのだ。この世界の残酷な事実も知らず、ただ純粋に進むその姿が・・・。


「随分と頑張るんだな。無駄な足掻きを。・・・お前は人々を恐怖から救いたいと言ったな?・・・残念だがそれはたとえ俺を倒しても叶いはしない。」

「・・・何?」


満身創痍の勇者に、シーティアは語った。

己が倒した魔王の過去を。そして己が辿った勇者の末路を。


レルシミカが過去の自分と重なったからこそ、シーティアはこの話を伝えた。

こうして剣を振るうのが如何に無益か分からせる為に。

・・・己と同じ道を辿らせない為に。


世界を救いたいという純粋な願いが、黒く染まっていく悲しみを・・・彼は誰よりも知っていた。




全てを聞いたレルシミカは暫く動揺したように考え込んでいたが・・・やがて口を開いた。


「それで・・・たしかに悲しいけれど・・・だからって貴方は世界を滅ぼそうというのか?」


「・・・それもいいかもな。人間には所詮救う価値なんて無いんだ。」


違う。救う価値がなくても・・・それでもシーティアは本当は皆を救いたかった。

だがもはやどうにもならない。己の憎しみを抑えるのはもう限界だった。


「さあ決めろ・・・大人しくこの場を去るか、こんな虚しき世界の為に散るかを!!」

「決まっている・・・それでも僕は戦う!!かつて貴方がそうしたように!!」

レルシミカは力強く叫んだ。その体から激しい光のエネルギーが溢れ出す。


「・・・。そうか、ならせいぜい苦しまぬようすぐに殺してやる!」

シーティアもまた闇の力を更に爆発させた。

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