笑顔と幸せの国ユートピアではっぴーらいふ
ちびまるフォイ
これに批判する汚らわしい人間はいませんよ
ここは心が清らかで優しい人だけがいる国「ユートピア」。
「ごきげんよう。今日もずっと雨ですね」
「ええ、ここしばらくずっと雨続きですわ。
でもこの雨音が落ちる音が聞こえると心がやすらぎます」
「明日は空から隕石が落ちてくるそうですよ」
「まあ、そうなんですか。
今日はうんと美味しい食べ物が食べれて幸せですわ」
この国では常に笑顔が絶えない。
常に物事を前向きに捉えて悪く言うことはない。
「昨日、いきなり知らない人に殴られたよ」
「それで、殴られてない方のほっぺは差し出したのかい?」
そんな聖人君主と仏をかけ合わせたような人が、
毎日ニコニコしながら平和に暮らしていた。
翌日、隕石の代わりに空から人が降ってきた。
「いたたた……ふざけんじゃねぇよ、ったく」
「もし、あなた大丈夫ですか?」
「ここはいったいどこなんだ?」
「ここは笑顔と幸せの国ユートピアですよ」
「マジかよ。クソついてねぇな」
「クソ? クソとはどういう意味ですか?」
「は? お前、そんなことも知らねぇのかよ。
どんな人生送ってきたんだ」
「大変素晴らしい人生を歩んできました。
私の周りには常に優しく尊ぶべき人に囲まれ恵まれていました」
「そんな風に頭がお花畑じゃ、幸せには思えねぇがな」
「はて? 頭にお花畑は咲きませんよ。
お花は土から出るものでしょう」
「アイタタタ……」
ユートピアにやってきた男は頭をかかえてしまった。
聞くと、ユートピアの国の外からやってきたという。
「あなたの国はどういった状況なんですか?」
「クソをクソでコーティングしたようにファックな場所さ。
みんなお互いを嫌って、常に憎みいがみ合ってる。
俺はそんなくそったれな世界から逃げてきたのさ」
「あなたはクソばかり言いますね。なにかの感動詞ですか」
「意味教えてやるよ」
男は「クソ」の意味を懇切丁寧に教えてあげた。
「まあ、そうなんですか! そんな汚らわしい言葉使ったこともない!」
「だろうな。話しててそんな気はしたわ」
男の存在はユートピアにすぐに広まった。
けれど、ユートピアは笑顔で優しい人の集まり。
男を追い出すことはせず、むしろ歓迎して迎え入れた。
男もユートピアの暮らしにすっかり馴染んでいたが、
しだいに男の周辺から変化が現れ始めた。
「ごきげんよう。今日もまた雨のようですね」
「本当ですね。雨ばかりで気が滅入ります。
天気の神様がいるならクソをぶつけて中指を鼻に突っ込んでやりたいです」
「まぁ! なんてはしたないことをおっしゃるんですか!?」
男が馴染めば馴染むほど、周りの人たちも男から知った新しい言葉を覚えていった。
それはこの国で初めて外来する「口汚い言葉」だった。
「ったく、あの野郎、マジふざけんなよ!」
「ホントあいつ死んでくれねぇかな」
「あいつ何様なんだよ! 死ねばいいのに!!」
男から知った言葉の数々で今まで貯まっていたストレスは
言葉という形で幸せの国ユートピアにこだまするようになった。
国で一番えらい長老はこの状態を嘆いた。
「ああ、優しい人だけがいるユートピアが穢れておる……。
いったいどうしてこんなことになってしまったのじゃ」
「長老! それはあの外からきたうんこ野郎のせいです!」
「あいつが清らかな我々に汚い言葉を浸透させたのです!」
「言葉は人の心を変える! そして、みなの心は穢れたのです!」
「お前らも十分浸透しとるでねぇか」
「長老、早く手を打たないとこの国は終わりです!」
「世紀末のスラム街のような状態になりますよ!」
「我々の力でもとの優しい世界を取り戻すのです!」
ユートピアの英傑たちは力を合わせて国の再生を行った。
真っ先に矛先を向けられたのは、外来した男だった。
「おい貴様! 貴様のせいでこの国は穢れてしまった!」
「全部俺のせいかよ。てめぇらは単に小奇麗な言葉で
自分を欺き続けていただけだったんだろ。俺のせいじゃない」
「黙れ! このクソテロリストめっ!」
「汚物は消毒じゃーー!」
男は処分されて、男がこの国にいた痕跡すらも跡形もなく消された。
さらに国はそれだけにとどまらず、男の近辺にいた人も対象とした。
「ああ、どうか、助けてください! せめてこの子だけでも!」
「その子が汚らわしい言葉を覚えているかもしれないだろ!
この国のうみはすべて取り除く必要がある! 疑わしきは処分だ!」
「ママ、こいつらクソ思考停止人間だね」
「な、なんてことを!」
「やっぱりだ! こいつらも穢れてやがる!!」
家族、友人、親戚、フレンド登録した友達。
疑わしい関係者はことごとく処分された。
徹底した魔女狩りを行った結果、ユートピアには男の影響を受けてない人だけが残った。
「長老、この国の浄化は終わりました」
「そうか。しかしこのような悲しい出来事を繰り返してはならぬ。
もう外から危険な人間が入ってこないよう壁を作るんじゃ」
やがて、ユートピアの外にはどんな巨人をも阻みそうな壁と
空や地中から入ってこれないように強力な魔術結界が張り巡らされた。
笑顔の人たちはこうして幸せな国を守った。
そんなユートピアの国にできた大きな壁を見て、外の人たちは顔をしかめた。
「見て。あの国は外からの人を拒んでいるみたいよ」
「笑顔の国とか言って外から見られたくないことがあるのよ」
「外面だけ整えて本音を隠すなんて、心が汚れている人でしょうね」
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