は? 異世界の幼女なんかに負けないが?
コミナトケイ
1 出会って即……
アセダックスというスポーツ洋品店に就職したけれど期待していたような出会いがなかったので公園のベンチで世をはかなんでいた僕だけど、突如上空に現れた謎の光に覆われたと思えば、こうして謎の世界に立っている。
見渡す限り、僕の生きていた都会の高層ビル郡などとは無縁な、巨大な岩肌。
文明的なものの片鱗も見られない。
「は!? なんだよこれ……」
こんなザ・大自然みたいな世界に突然放り投げされてわけがわからない。
不思議を発見しちゃう系テレビの世界かよ……?
「はっ!? これはもしや出勤中いつも読んでいたWEB小説によくある異世界転移ってやつでは!?」
なんてこったい。世をはかなんでいたあまり当事者になっちゃったのか。
フィクションってすごいな。こんな明らかにおかしいことが身に起こってるのに、強引でも心の中で納得させちゃうことができるんだもんな。
オタクカルチャーのおかげで順応性が高くて助かる。
……でも思ってたのとちょっと違うな?
こんなハードモード全開みたいな世界にきちゃってどうするんだ!?
とりあえず人が住んでいないか、確認せねば……
少し歩いたところで巨大な洞窟にたどり着く。
ここに人の営みがあればめっけもんだけど……
あっ……! 中が灯されている……!
間違いない、こんな荒れ果てた地にも、生きている人がいるんだ……!
都合のいい展開バンザイ! ひとまずはほっと安心する。
と、そこへ――
「たどり着きましたか。タイ・ヴォーンからの転移者よ」
仄暗い穴の奥から姿を見せたのは、「神聖です!」と全力で主張してそうな着衣の女性。その清楚さは、すぐさま僕の心を釘付けにしたのだった。
「私はこの世界『イーチャ・ラーヴ』を監督する神祇官・ミランダです」
しん、ぎ? ……ああ、やっぱり見た目通り神官さんだったのか。
「あなたは……いえ、聞かずともわかります。甲斐キューヤさまですね」
えっ……!?
名前まで、なんで知ってるんだ……!?
驚くと同時に肝を冷やしていたところで、ミランダさんは突如深々と頭を下げるのだった。
「……ごめんなさい! 実は私が、キューヤさまを手違いで召喚してしまったのです」
「……え?」
なるべく落ち着いてミランダさんの説明を聞いたが……
どうやらここ『イーチャ・ラーヴ』、実は未来の世界で。
僕がいた時代の世界はほぼ全壊したらしく、『タイ・ヴォーン』と呼ばれ忌むべき前時代的文明とされているらしい。
なんてこったい。ポスト・アポカリプスやんけ。
アセダックス行為の機会損失をこうむって人生どうでも飯田橋だったから、むしろそんな胸熱設定の世界へいざなってくれてありがとうって感じですよミランダさん。惚れる。ていうか惚れた。
「申し訳ありません、キューヤさまの人生を私のミスで狂わせてしまって……その代わりと言ってはなんですが、私のできることでしたらなんでもおっしゃってください。あなたがこの世界で生きる手助けを――」
相手が神官とか関係ない。僕はこの世界で、あなたと――
気付けば彼女の腕を引き寄せ、ぐいっと迫っていた。
「……!? きゅ、キューヤさま!?」
「ひと目見て好きになりました! 前の世界なんてどうでもいいです! 僕はあなたと結ばれたいです!」
出会って即告白。
恋に飢えたオタクどんだけがっついてんだ、って感じだ。
舞い上がってる僕とは対照的にミランダさんはただ困ったような表情をしていた。
「……キューヤさん、あなたは……!?」
すぐに自分でもわかった。あっ、これやっちゃったやつだ。
パッと手を放し、自分から距離を取る。
ごめんなさいごめんなさい、ゴミオタクでごめんなさい!
ああっゴミを見るような目で見てください……! 性的嗜好なので!
などと、神のしもべたる女性の前をして、懺悔とよこしまさでいっぱいなお気持ちに襲われていると……
「あれ~~~~? ミランダちゃん、新しい男を召喚したんだ~~~~? あたしに教えてくれたっていいじゃない」
少し離れたところで、小柄で生意気そうな少女が、不敵な笑みを浮かべ舌なめずりしていた。
ミランダさんの表情が強張る。
「『ブラック・オパール』……!」
「ふふっ、そんなポンコツ神祇官なんてほっといてあたし達『ブラック・オパール』にすべて任せればいいのよ。あたしが『イーチャ・ラーヴ』でのイき方を、教えてア・ゲ・ル♡」
ミランダさんとはまったく違い露出度の高い服を着ており、スカートのようなものをひらひらとめくりながらこちらにアピールしてくる。
異世界新参の僕にもわかる。
こいつぁ、やべーやつだ……!
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