ブレイブ戦記

@leaflight

1.愛の勇者

「……えっ?んっ???」


 少し背が低く、細身の青年は目を丸くしています。

 目の前には広大な海、あたりには見晴らしのいい原っぱ。


「おー、この人が愛の勇者なのですか長老様」

「うむ、そうじゃ。伝説の通りじゃったな」


 青年は振り返るとそこには小柄な魔物のような老人、そして可愛らしい妖精がいました。


「ようこそおいでなさった。お主は地球人じゃな?」

「……あ、ああ。あの、あの、そもそもここは一体?俺、部屋でゲームしてたんですけど……」

「おっとそうじゃったな。自己紹介がまだじゃったな、ワシはモモンタ島の長老じゃ。モモンタ島とは清き心を持った亜人だけが暮らす聖なる島なのじゃ」

「そーしーてー、アタシはアリス。かわいい妖精様よ、よろしくね!」


 あーあーあー。

 天を仰ぎながら発声します。


「そうじゃなくて、なんで俺ここにいんの?」

「簡単に説明するとじゃ、今このフェアリアと呼ばれる世界では魔王の復活で滅亡の危機が迫ってきているんじゃ」

「それでそれで」

「伝説に倣って地球から愛の勇者の素養のある若者を呼び出した」

「それでそれで」

「そしたらお主がやってきた」

「……はぁ????」


 思わず語気が強くなりました。

 ぐるぐるとあたりを歩きながら思考しています。


「つまり俺、異世界転生したってことかぁーーー???」

「まぁ、そういうことじゃな」

「へー、なんか実感なーんもないけどね。ということはチート能力があったりするのか?」

「そんなものはありはせん」

「へっ?」

「主には愛の勇者の素養はあるが、決して強いわけではないはずじゃ」

「ところで愛の勇者とはなんだよ」


 愛の勇者、かつて魔王を倒したとされる戦士です。

 魔王を倒せるのは愛の勇者しかいないとされており、フェアリアの生命体ではないことだけが伝説に残されていました。

 かつて魔王がいた世界でも同様に地球から素養のある若者を呼び出したそうです。


「俺に魔王を倒せと」

「そうじゃ、あと言いにくいんじゃが使命を果たせないと地球には帰れないんじゃ……」

「は?」

「すまんの」

「て、てめえ!」


 長老の胸倉を掴み、殴ろうとします。

 しかし、ぽわわんと光に包まれ、体が持ち上げられました。


「ダメよ、そんなことしちゃ」

「お、おろしやがれ!」

「倒してくれたらいいことしてあげるから、ね?」

「いいことじゃねーよ!お前みたいなチンチクリンにチビ妖精は趣味じゃねーよ!」

「うっさいわね!一応人の大きさにもなれるわよ!」

「へー、そうなのか。その約束、絶対守れよ!だったら世界でもなんでも救ってやるよ!」


 威勢がとてもいいです。


「ところで、あんた名前は?」

「俺か?ワタルだ。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る