傭兵異世界放浪記
文月イツキ
PAGE0 撃ち抜いたモノは何だ?
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一瞬、ほんの一瞬。まるで時間が止まったかのような。そんな感覚が俺の周囲の空気を支配した。
決して順風満帆とは言えない人生だったかもしれない。
というか、明らかに逆風が吹き荒び、嵐の渦中へと放り込まれたかのような人生だった。
歯車がどう噛み間違えばただの日本人の高校生だった俺が、傭兵なんかやって世界中を飛び回っているんだ?
英語なんて万年赤点で勉強なんてろくにしてこなかったのに、今では万国の言葉が入り乱れる場所で仕事仲間と談笑してる。
日本にいた頃は世界は平和だ。いい時代に生まれた。――なんて疑いもしなかったのに、ちょっと海を渡れば、どこもかしこも争いごとだらけで。嫌な話だが傭兵という仕事もちゃんとした食い扶持になっていた。
人を殺して飯を食っている。なんて褒められたことじゃないし、親族に顔向けできないのも分かってる。
それでも……それでも、俺は自分に恥じるような人生を送ってきたつもりはない。
――そう、この瞬間までは。
自分の顔色が青ざめるのが分かる。
血の気が引くような思いは山ほどしてきたはずなのに、まさにこの一瞬が人生でもっとも恐ろしい。
襲い掛かる吐き気、眩暈もする。いっそ昏倒してしまいたい。
僅かでもいいから、自分のしでかしたことから目を背けたかった。
顔も見えないほど離れてるはずなのに、友達の失望した顔が目に浮かぶ。
ごめん、ごめん……ごめん……。
俺には、こうするしか出来なかったんだ……!
もういい歳の大人なのに、膝をついて俺は顔を両の手で覆いながら泣いた。
俺は友を裏切った。
たった一回の失敗で、たった一回の偶然で、たった一回の発砲で。
何もかもが崩れていく、八年掛けて築いた友情や信頼が。
たとえ、誰に笑われたって、蔑まれたっていいって思ってたのに。アイツから、親友から蔑まれて生きていくことはできない……。
俺はこの苦しみを背負っていく覚悟なんてない。
せめてもの償いをさせてくれ。
こめかみにヒヤリと詰めたい金属の感触が伝わる。
さっきと同じだ、さっきやったようにやればいい。
悲しいほどに、俺の手先は慣れきった手つきで器用にその道具を操って最後の仕事を果たそうとする。
「すまない……すまない…………ダンテ。もう、お前に合わせる顔が、ない……それでも、言わせてくれ。――ありがとう、俺に夢を見せてくれて」
馬鹿な話だ。
元々はダンテのモノだった拳銃。
一緒に傭兵を始めたときに交換したものだ。戦場で互いの生還を祈った、なんの根拠もない下らない願掛けだった。
それでも今は、お前に断罪してもらえたような気がしてるんだ。
引き金を弾くのに躊躇いは無い。
俺の耳に銃声が届く間なんてありはしない。
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