ED:別れの春。始まりの春。

ED:別れの春。始まりの春。(シーンプレイヤー:PC全員)


 事件から数日。空中庭園が出現し、島中の電力がカットされたにも関わらず、アカデミアは既に日常を取り戻しつつあった。逞しいのやら、しぶといのやら。それはともかく、今では後処理も終わり、先の事件は既に昔のことへと葬り去られつつある。

 現在は朝のホームルーム前。教室内では学食の新作デザートの話題で持ちきりだ。

 アリスはそんな光景を、窓際後ろから2番目の席から眺めている。外は春の陽気で暖かく、天色あまいろな晴天が何処までも広がっている。

 しかし、君にはひとつ気になることがあった。というのも、事件以降ライザの姿を見ていないのだ。

 ……彼の身に、何かあったのではないだろうか。そんな一抹の不安が君の思考を埋め尽くしていた。


アリス:「せっかく事件も解決したってのに、一体どうしたってんだ。ですわ……」


 では君がそうボヤいたその時、教室の扉が開かれ、そこからひとりの教師が顔を見せた。


UGN役員(改め担任)「よし、揃っているな。初めまして、私が今日から君たちの担任となる、宇佐美です」


アリス:まさかのUGN役員さん!?

ライザ:役員さん、ここで再登場ですか!


担任(GM):「事件も終わり、今日から改めて新学期だ。一先ず、進級おめでとうと祝辞を贈らせてもらいます」

アリス:「…………」 表情は険しいままだ。


GM:ではその時、君の肩に後ろからトントンと突かれる感覚が。振り向いた先には、君の想い人でもある男子生徒……聳城 亮がいた。

聳城 亮(GM):「……早乙女さん、さっきから調子が変だけど、大丈夫?」

アリス:「変っつーか……亮さん、最近ライザさんのこと見かけたか? ですわ?」

聳城 亮(GM):「へっ?……そういえば見てない。クラス名簿とかもざっと見たけど、名前もなかったような?」

アリス:「ああ、私もだ。ですわ。何かあったのかもって、ちょっと妙な予感がするんだ。ですわ」

聳城 亮(GM):「そうだね。新しい面倒事に巻き込まれたとかじゃ無ければいいんだけど」

アリス:「だな。ですわ……」


 君たちがそんな話をしている中でも、担任の話は進んでいく。紹介に一区切り付いたのか、一呼吸おいて彼は新しい話題を君たちへ投げかけてきた。


先生:「——さて、では私からの話も終わったところで、皆さんに朗報です」

「先の事件の発端となってしまった立花 千代さんですが、つい先程検査から帰ってきました。復帰に時間が掛かるかもしれないとクラス名簿には載せていませんでしたが、晴れて今日からここのメンバーとなります」

「ほら、入ってきなさい」


GM:それを合図に教室のドアがひとりでに開かれる。そこには気恥ずかしそうな表情を浮かべた千代が立っていた。


立花 千代(GM):「……あの、先日はご迷惑をお掛けしました。立花 千代です」

「今日からここのクラスになりました。どうかよろしくお願いします」

男子生徒たち(GM):「ふぅー! 俺たちはモーマンタイだぜー! 可愛い子はいつでも大歓迎だー!」

女子生徒たち(GM):「ちょっと男子サイテー!」「気にしないでね千代ちゃん。そしてよろしく~!」


 丁寧に頭を下げる千代の姿に、クラス中の男子生徒は喝采を。女子生徒はそんな男子たちに非難の声を各々があげる。印象的なのは、誰一人として千代を否定しなかった事だ。皆が笑顔を浮かべ、彼女の存在を迎え入れた。


アリス:「相っ変わらずここの生徒は賑やかだな……ですわ」 そんな光景を苦笑しつつも微笑ましく眺めている。

担任(GM):「どうどう、騒ぐのも程ほどにな。さて、立花の席は……早乙女の隣だな」

「早乙女、色々と慣れない立花をフォローしてやってくれ」


 先生に示された座席へ座った彼女は、憑き物が落ちたような表情で君たちに話しかける。


立花 千代(GM):「……改めて、よろしくねアリスさん」

アリス:「おう、ですわ!」 クラスの皆と同じく、こちらも笑顔で迎えましょう。

聳城 亮(GM):「体調に問題がないようでよかった。僕も改めてよろしくね、立花さん」


 全く邪険に扱われないこと、そして奇異の視線を送られない事に目を見開く千代。


立花 千代(GM):「……うん、亮君もよろしく。あの、よかったらさ。放課後——」

「——もう一度、航空部に行っても、いいかな?」


 そこに、夢を諦めた少女の姿はなかった。何処か照れくさそうに、申し訳無さそうに笑顔を浮かべてみせる。


聳城 亮(GM):「ぁ、勿論っ! 航空部はいつでも新入生を歓迎してるよ!」 それに釣られ、若干照れくさそうに笑みを浮かべて爽やかな返答を返す亮。

「それこそ、"手取り足取り"教えたい。よければコクピットにだって!」

立花 千代(GM):「——嬉しいっ、ありがとう! でも、手はないから手取りの方は無理だけどね?」

聳城 亮(GM):「アハハ、これは一本取られちゃったな」


 彼女にとって禁句でもあったであろう"手"の話題を振られても、彼女は嫌な顔ひとつせずに笑顔のままそう返してみせた。その事実にアリスは若干目を見開く。


アリス:「……なんというか、千代さん変わったな。ですわ」

立花 千代(GM):「……うん、あのね。皆とぶつかって、説教されて、少しすっきりしたというか……」

「今まで心の中でモヤモヤしてたのが、晴れた感じがするの」

アリス:「言ったろ、ひとりで背負うだけじゃない、って。ですわ」

立花 千代(GM):「……うん、本当にその通りだった。ぁ、あとね、いい事もあったの!」

アリス:「いい事? なんかあったか、ですわ?」

立花 千代(GM):「あの事件で私のブラックドッグ能力が少し、ほんの少し強力になったらしいの。先生によると、訓練次第でどうにかなる域になったんだって!」

アリス:「! ってことは、ですわ……!」

立花 千代(GM):「うんっ! レネゲイド操作をこれまで以上に頑張れば、“腕”、作れるって。“彼女”にも太鼓判を押してもらったから大丈夫!」

聳城 亮(GM):「おめでとう。よかった……本当に! あれ、でも彼女って誰のこと?」

アリス:「彼女……? ともかく、おめでとうですわ!」


 しかし、亮とアリスの2人には疑問符がひとつ浮かんでいた。千代の言う"彼女"とは果たして誰だろうか? 新入生として入ってきた千代は、そこまで広い交友関係は無かった筈だが……。そんなタイミングで、教壇に立つ先生はコホンとひとつ咳をした。


担任(GM):「盛り上がってるところ悪いが、話を続けていいかな?」


 ごめんなさいと姿勢を正す君たちの姿を確認し、苦笑を浮かべて言葉を続ける。


担任(GM):「仲がいいのは良い事だ。さて、では次の知らせだが……悪い事と良い事の2つある」

「まずは悪い方だ。今日から君たちとここで学ぶ予定だった男子生徒だが、急遽きゅうきょ転校の申し入れがあってな。残念だが昨日アカデミアを発った。もう会えることはないだろう」


聳城 亮(GM):「そ、それって……」 亮のそんな声を皮切りに、他の生徒達からもざわついた声が上がる。

生徒たち(GM):「……あのイケメンだった人だよね?」「そっか、転校かぁ~」

アリス:「転校……そんな……」 ライザの顔が脳裏をよぎり、眉間に縦じわが浮かぶ。


 誰もが未来の学友の喪失に悲しみ残念がる中、彼女、立花 千代だけは違っていた。口元を横一文字に結んで笑みを堪えているかのようにも見える。そんな各々の反応を確認した後、担任が再び口を開いた。


担任(GM):「まぁ待て。話は最後まで聞くもんだ」

「で、良い方の知らせだ。これまた急な話だが、本日新たな転校生がやってくることになった。そして喜べ男子」


 そういって話を区切り、担任は外で待機しているであろう転校生を呼び込む。そこから現れたのは……。


ライザ(以下、リザ):千代さんが開けたドアを潜り、ひとりの生徒が教壇横へと歩いてきます。その容貌はショートに纏められた群青色の髪に、それと同色でナイフのような鋭さを持った切れ長の瞳の、ブレザーとスカートに身を包んだ女の子です。


「……"初めまして"。リザ・バスカヴィルといいます。よろしくお願いしますね?」 ほんの少し頭を傾けて皆に挨拶を。


アリス:「( ゜д゜)?????」 突然の来訪者にお口があんぐり。

男子生徒たち(GM):「……クゥールゥビューティィ」 無駄に巻き舌な男子に、

女子生徒たち(GM):「……あり」 謎の肯定を示す女子たち。

男子生徒たち(GM):「何がありなんですかねぇ!?」「俺たちは!? ねぇ!!」

聳城 亮(GM):「え、えっと……あれ? ライザさ……あれ?」


 クラスが混乱の渦にある中、真っ先に笑ってリザと名乗る少女へ声を張り上げたのは腕のない少女、千代であった。


立花 千代(GM):「ふふふ、よろしくね。リザさん!」


リズ:「えぇ、よろしく千代さん」 そんな様子にくすりと笑って、イタズラ顔で返します。

アリス:「ライザ……リザ……ま、まさか。ですわ……!?」

リズ:「さぁ、ライザとは誰のことでしょう。私には分かりませんねぇ?」

担任(GM):「ほら、騒ぐのも程々にな。リザの席は聳城の隣だ。早乙女や立花も仲良くしてやってくれ」


 己をリザと名乗った少女は規則正しい綺麗な姿勢で指定された席へ歩き、着席する。先程の担任の苦言も知らぬ存ぜぬと、クラス中が喜びと歓迎の声で満ち満ち、それにやれやれと苦笑を浮かべる担任のUGN職員。着席したリザを呆然と見つめるアリスは力なく笑った。


アリス:「は、はは……これはやられたなですわ……うん、よろしくですわ……」

聳城 亮(GM):「予想外だけど、うん。よかったね早乙女さん」 心の底から嬉しそうに微笑む。

アリス:「本当だよ、ですわ。心配させんなよ……はー良かったぁぁぁ……」


 そんな様子に申し訳無さそうに苦笑するリザと千代。恐らく前もって話を聞いていたのだろう。


立花 千代(GM):「あはは。ごめんね、私も口止めされてたから」

リザ:「すみません、立場上言うわけにはいかなくて。でも……」

アリス:「……でも? ですわ?」


リザ:「……ありがとう、皆。あの事件のおかげで——」

「私も、助けられた"救われた"の。私も、私の人生を歩いてみようって思えた」

「だから——ありがとう」


 彼女はそう言って、自らをライザとして偽っていた時とはまるで違う、ひとりの少女として自然な笑みを浮かべてみせた。男性でもなく、敬語もなく話すこの姿こそが、きっと彼女の素だったのだ。そんな様子にアリスも亮も、そして千代も心の底から嬉しそうに微笑む。


アリス:「リザさん……いいってことよ! ですわ!」

聳城 亮(GM):「僕は大したことはできなかったけど……本当に良かった。自分の事のように嬉しいよ」

立花 千代(GM):「ううん、助けられたのは私もそうだよ。皆、ありがとう。お陰で私もこれで“夢”を追い続ける事ができる」

「まだまだ遠い道のりだけど……スタートラインには立てるから。あとは私の頑張り次第!」

アリス:「ふふ、お互い様ってやつだ。ですわ。私だって、実は皆に助けられたんだぜ? ですわ」

立花 千代(GM):「ぇ、そうなの?」

アリス:「ああ。せっかくだから教えてやるぜですわ。私の秘密」


 未だ興奮の冷めやらぬ教室の中で、アリスは静かに語りだす。秘密としていた己の過去を。


アリス:「思わなかったか、ですわ。なんでコイツは取って付けたようなですわ口調なのだろう、と」

立花 千代(GM):「えっと、うん。それは確かに……」

聳城 亮(GM):「気になるね。僕も完全に初耳だ」

リザ:「……」 静かに先を促す。


アリス:「実はこの口調……間違って自分にエフェクト使って、その結果として染み付いちまったものなんだ。ですわ」



GM:なん……だと……!? GMですら知らなかった衝撃の真実が今ここに明かされた!

アリス:今明かされる、驚愕の真実——! 実はそんな脳内設定があったんだよ。

GM:成程な……流石ユキさん。唯の出落ちキャラでは終わらないというわけか。



アリス:「口調が染み付いた当初は、そりゃあ絶望したもんだぜですわ。なんたって、下手すれば一生『ですわ』から逃れられないんだから。ですわ。けど——」

「周りの皆は、そんな私のことも受け入れてくれた。笑って流してくれた。それがどれだけ、私を救ったか。ですわ」

リザ:「…………なら、私は謝らないと」

「初めて会った時に、私その口調のことを……」

アリス:「なに、気にすんなですわ。今はもう、すっかり自分でもこの口調を受け入れてんだ。ですわ」

「だから、千代さんに言ったんだよですわ。ひとりで背負うだけじゃないぞ、って」

「周りの人たちが、きっと支えになってくれる。ここアカデミアはそういう場所なんだ。ですわ。だから改めて言うぜ、ですわ」


「リザさん、千代さん。ようこそ、アカデミアへ! ですわ!」


聳城 亮(GM):「あぁ、歓迎するよ!」

立花 千代(GM):「——うんっ! これからよろしくね。皆!」


 屈託なく笑い合うクラスメイトたち、それを苦笑しつつも見守る教師。そして女の子リザとしての自分を受け入れてくれた友人たちが群青色の瞳へ鮮明に映る。


リザ:そうか、とリザはひとり納得した。自分がどうして仮面カヴァーを捨ててまでアカデミアを選んだのか。それは——


「ありがとう。これから、よろしくね」 この場所が、この人たちが、私にとって初めての——


 居場所だったんだ。



 ………………少女たちは、再び日常の道を歩み始める。

 …………いつか、その手に夢を掴むため。

 ……いつか、互いの手を取り合うため。

 昨日と違う今日、今日と違う明日。新しい未来へと——羽ばたくために。

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