第14話 中間テスト

 日曜日。俺は一日中ノートに文字を書き殴っていた。


 延々とノートに書き続けている。いい加減手が痛い。


 しかし俺はその手を止めることはない。


 これは明日必ず必要になる。


 俺は加賀に負ける訳にはいかないのだ。俺のプライド、そして昼食代のために。


 あんな金髪のアホ面下げた不良に負けたくない。だから俺は密かに決心していた。


 俺は明日のテスト、カンニングする。


 必殺のカンニングノートを作成した俺は、ひとしきり高笑いをしたあと眠りについた。






 翌日。那波と登校中である。


 「零くん今日テストだね。ちゃんと勉強してきた?」


 「那波よ・・・。勉強してきたか、だと。・・・俺は今回の中間テスト、学年一位になるかもしれない」


 自信満々に答える。すると思っていたのとは違うリアクションが返ってきた。


 「零くん。中学の時も同じようなこと言ってたよね・・・。でも結局私より下の順位だったよね」


 え? そんなことあったっけ?


 いや、待て。その時はカンニングなんてしていないだろう。・・・覚えていないが。


 「その時は俺の点数ってどんな感じだった? いつも通りだったんだろ?」


 「えっと。ん~分かんないや。点数の話まではしてなかったと思う」


 「そ、そうか。でも、今回は違うぞ。本当に学年一位を取ってしまうんだ」


 朝から不吉なことを言われたが、カンニングさえ成功すれば俺のもんだ。


 過去は過去。今は今だ。






 学校に着くと、俺はいつも通り靴を履き替え、ラブレターを捨てた。


 教室の空気はいつもと違いピリピリしている。


 心なしかみんな登校時間が早い気がする。


 俺も席へ着いて今日のイメージトレーニングをーーしようとしたら金髪の変なやつが近づいてきた。


 「よお。調子はどうだ。ちゃんと勉強してきたか?」


 こいつらは俺の親かッ! 勉強勉強うるさいな。


 仕方ないので俺は挑発するようにバカにした顔をする。


 「ハハ。加賀よ。貴様の天下も今日までよ。お前に最高の屈辱をプレゼントしてやろう」


 俺はどこの誰なんだよ。なんかよく分からないテンションになってるな。


 昨日頑張りすぎたかな。


 「余裕じゃねえかよ。その様子じゃバッチリお勉強してきたみたいだな」


 「お勉強? ピュアだねぇ不良のくせに。そんなんじゃ俺には勝てないよ」


 俺が売り言葉に買い言葉で挑発すると、加賀が怪訝な顔をした。


 「カンニングか。おいッみんな! こいつカンニングする気だぞッ!」


 「おいバカ、やめろッ! やめろったらッ! ・・・本気にする奴がでたらどうする」


 一瞬空気がざわついたが、発言者が加賀だったために直ぐに収まった。


 危ない危ない、早くテスト始まらないかな。


 ボロが出る前にさっさとやってしまいたい。






 HRが始まると同時に、俺はカンニングのイメージトレーニングを開始した。


 まずは昨日作ったカンニングノート。これにはあらゆる教科の答えが書き記されている。


 数学や物理は苦労したぜ。選考科目を生物にしとけばよかった。


 しかし、公式を確認できるだけでも大分違うはず。


 あとはこのノートを机の引き出しに忍ばせておくだけだ。


 「よし、じゃあ。そろそろテスト始まるから席移動してー」


 担任の樫塚先生の声と同時にクラスの全員が移動を開始する。


 え? マジで。そういえばテストの時って席替えがあったよね。しまったぁ~。


 いや、まだ大丈夫だ。焦るにはまだ早い。


 俺は教科書とカンニングノートをバックに入れて、筆記用具を持って席を移動した。


 「よお、奇遇だな。ま、宜しく頼むわ」


 俺の隣の席に座った加賀が、生意気にも話しかけてくる。


 俺はそれを無視して、席の横にバックを掛ける。少し予定は変わったが、何も問題はない。


 俺は俺の出来ることをやるだけだ。


 ついにテストが始まった。


 最初の教科は数学だ。いきなり厄介な教科だが、俺には関係ない。


 横を軽く見ると、加賀の視線を感じた。どうやら俺のカンニングを見張るつもりらしい。


 バカめが、お前自身が俺の無実の証人になるがいいッ。


 俺は心のなかでほくそ笑んで、未来予測を発動させた。






 突然だがゲームで将棋をやったことはあるだろうか。あるいは囲碁でもいい。


 大体のゲームには『待った』の機能が付いていることだろう。


 俺の予測はそれによく似ている。


 ある程度ゲームを進めて、負けそうになったら『待った』をする。


 前にトイレで茨木モドキを倒した時もそうだ。


 自分の都合のいい未来になるように、何度も自分の動きを変えてシミュレートするのだ。


 あの時はどうやれば一番スマートに倒せるかをシミュレートした。


 加賀の時もそうだが、あの時はかなり苦労した。


 何回やっても普通に殴り飛ばされる未来ばかり見えたからだ。


 加賀は動きも早いし、マジで詰んでたぜ。


 さて、ここで本題に入るとしよう。


 テストでこの能力を活用するとしたらどうするか。それはーー。


 イメージの中でノートを見てからテストに書き写すッ!


 ーーである。


 正直この手は使いたくなかった。卑怯だし、そもそも倫理的によくない。


 だが、使える手段を使わずに勝負をするなんて俺の武士道精神に反するのだ。


 例えそれをせずに負けても『いや、あの時は本気じゃなかったから』なんて言い訳がまかり通ってしまうのだ。


 それは良くない。自分の持てる力をすべて出し切ってこそ、戦いと呼べるのだから。


 ちなみに、だったら隣のやつのの答案見れば? とか思うかもしれないが、それは難しい。


 イメージはあくまでイメージだ。


 知らない奴の複雑な内容を予測するのはかなり疲れるのだ。


 身体を動かすというのはイメージし易い。


 人間の身体の動きなんて、殆どパターンが一緒だからだ。


 しかし、人間の思考はそうはいかない。


 誰がどこまでの知識を持っていて、どう答えるかなんて、正確に予測するのは相当なエネルギーと時間を要するのである。


 以前それをやってあまりの負荷に高熱をだしてぶっ倒れたことがある。


 今回はそうならないためのカンニングノートだ。


 内容は昨日見ているので未来予測に掛かる時間は短く、使うエネルギーも最小限で済む。


 こうして俺のパーフェクトな作戦ここに完成したのだった。

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