第13話 テスト前
おっ今日もやってるねぇ。
下駄箱を開けて、心の中で独り言ちる。
すでに日課になりつつあるラブレター。
俺は封も切らずにそのラブレターをゴミ箱へ捨てた。
先週の水曜日。久遠寺くんに相談したあの日に屋上に行って二時間程待ったが、結局誰も来なかった。
「イタズラじゃないかな。やっぱり少しおかしいよ。普通のラブレターじゃない」
久遠寺くんはそう結論づけて、ラブレターを無視することを提案した。
同意した俺は、ラブレターを捨てることにした。
呼んでもないのに付いて来ていた加賀はーー。
「朝早くに誰が入れるか見張るか。俺がシメてやるぜ」
とか言っていたが、朝早く起きるのは嫌なのでこれを却下。
というかお前は自分のストーカー何とかしなよ。
その翌日、那波にも屋上で待っても誰も来なかったと伝えたがーー。
「きっと急に恥ずかしくなって出られなかったんだよ」
とか訳の分からないことを言っていたので適当にあしらっておいた。
あれから一週間。今週はこれで四通目だ。
流石に土日は入っていなかったのだろう。月曜日に開けた時は一通だけだった。
このイタズラ、いつまで続くのか。俺の精神がやられるか相手が寝不足で倒れるか、もはや耐久レースと化している。
本当にいい加減にしてくれませんかねぇ。
昼休み、俺はいつも通り久遠寺くん達と食堂へ来ている。
いつも通りと言えばいつも通りなのだが、微妙な変化が起きている。
「へぇ、じゃあ加賀くんも電車で来てるのか」
「まあな。どうだ、今日帰りにゲーセンでも寄ってくか」
「あ、俺も行っていい?」
「ああ、こいこい。俺のドラテクを見せてやる」
いつもの面子に加賀が加わっていた。
中田くんと後藤くんも最初は怖がっていたのに、俺と久遠寺くんが毎日のように一緒にコイツと話すのでいつの間に平気になっていた。
「ふぅー。呑気なもんだな、加賀。お前そんなことしてる場合なのかよ」
久遠寺くんと話していたが、加賀たち三人の会話が聞こえてきたので俺は話を途切って忠告することにした。
「・・・それはお前も同じだろうが。てか後ででいいだろ」
そう言って、少しここでは話して欲しくないといった空気を出す。
中田くんと後藤くんは状況がわかっていないみたいだ。
だが、加賀だっていつまでも放っておいて良い事じゃないのは分かっているはずだ。
俺だってそうだ。どうにかしようとずっと考えてはいた。
最近は気にならないとか言い繕って平静を装ってきたが、それもそろそろ限界。
今日になってようやく実感したよ。本腰を入れて動くべきだ。
「そうやって先延ばしにしても何も解決しないんだよ」
「いや、俺は俺で結構ーー」
何か適当な事をごちゃごちゃ言っているが、俺は現実を教えてやるために敢えて言ってやることにした。
「来週の月曜と火曜は中間テストだろうがっ! 勉強しろよっ!」
残り時間は後わずか、今日を入れても残り四日しかない。ゲーセンに行っている余裕など、俺達にはないのだ。
「・・・俺は別にそんなに焦るほどじゃねえよ」
「見栄張るなよ。どっから見ても利口にはみえないぞ」
「喧嘩売ってんのかっ」
・・・。
しんと静まり返る。他のみんなも中間テストというワードに反応を示さない。・・・何故だ。
もしかして、みんなーー。
「みんな、成績どんな感じ?」
気になったので聞いてみた。
「俺は大体六十点前後」
「俺も」
「僕もそれくらいかな」
「俺はいつも八十はいくぜ」
ば、バカな。一番頭悪そうな加賀が、一番成績が良い・・・だと。
何かの間違いだ。いや、俺だっていつもテストは六十点程度は取っている。
「だ、だよな。俺も大体そんな感じだぜ・・・。だから今日は早く帰って勉強をしないと成績が下がるんじゃないかって話だよ。・・・うん」
成績が同じような連中は大体同じグループになる。俺の今までの経験上それは確かだ。
だから加賀の成績が良いのは予想外だったが、残りの三人は同じくらいなので、なんとか平静を保つことが出来た。
「いや、だから。いつも勉強しないで六十点くらいなんだって」
「ッ!?」
中田くんの言葉に周りのみんなが同調する。
勉強しないで六十点? ならいつもテスト期間中に勉強しまくって六十点の俺は?
どういうことだ・・・。みんなもしかして嘘ついてないか。勉強なんてしてないよって言って目の下に隈を作ってくるアレか?
「おいおい、どうしたよ零士く~ん。お利口さんに見えるのは見た目だけで? 実際は赤点を必死で回避してるおバカさんだったのかな?」
これ見よがしに挑発してくる加賀。すっげぇ~ムカつく。
「良いだろう。そこまで言うのなら今回の中間テスト。俺と勝負だ、加賀ッ」
「っハ、良いぜ。負けたら・・・そうだなこの学食の糞不味いメニューをーーってお前はいつも喰ってたな。えっと、そうだ。お前が負けたら俺に一日付き合って貰うぜ」
「良いだろう。俺が勝ったらお前は俺の昼飯を一週間奢ってもらおうか」
正直いつもいつもここの学食の糞不味いメニューにお金を払うのが嫌になっていたんだ。暫くはタダで食わせてもらうぜ。
こうして俺と加賀は中間テストで勝負することとなった。
俺に勝てるわけないのに。バカなやつ。
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