第11話 相談事
「よお、朝から女連れて登校とは憎いねぇ」
翌日、那波と駅から学校へ向かう途中後ろから声を掛けられた。
あまりに突然だったので、俺に向けられたものだと気付かなかった。
立ち止まり振り返ると、そこにいるのは今日一番会いたくない人物だった。
「・・・なんで、お前がいるんだよ」
昨日俺を蹴り飛ばした金髪である。
「なんでって、学校に行くからに決まってんだろぉが」
理由は至極真っ当だが、それが俺に話しかける理由にはならない。友達じゃあるまいし。
那波は少し怯えた感じで俺の後ろに隠れた。
「零くん。加賀くんと友達だったの?」
どうやらこの金髪は加賀と言うらしい。それよりなんて答えようか。友達では断じて無いし、かと言ってここで昨日の続きをやるわけにも行かない。
俺がいい倦ねていると、先に加賀が那波に答えた。
「昨日友達になったんだよ。クラスメイト同士仲良くしようぜ、奈々瀬」
「え? あ、うん。こちらこそよろしく」
「おい、気安く呼び捨てにするなよ。・・・なんか用でもあるのかよ」
那波に話し掛けられて苛立った俺は、少し語気を荒くした。
すると加賀はさっきまでのふざけた態度をやめ、真面目な顔になった。
ーー来るのか? なら那波だけでも守らないと。
そんなことを考えながら覚悟を決めていると、加賀が頭をガシガシと掻きながら顔を背けた。
「昨日のあれな。ワリ。・・・人違いだわ」
「はぁあぁあ!?」
思わず大きい声を出してしまい、後ろの那波がビクっとなった。
あまりに予想外のことを言われ、頭の中が真っ白になった。
ーー学校までの道すがら、昨日のことを聞いた。
那波がいるので、上手く昨日の喧嘩のことだけ隠しつつ、加賀は俺に経緯を話した。
どうやら加賀はここ数ヶ月の間誰かに付けられていたらしい。
何度か犯人らしきものを追いかけたが、すべて失敗。
だから最近は、追いやすく気付きやすい屋上にいつも居たんだとか。
そんな折、授業中や廊下で何度も目があって、しかも屋上にずっと佇んで何もしない俺を、待ち伏せしてるんだと勘違いしたそうだ。
「なら最初からそう言えよ」
「お前が俺の立場なら、そんな怪しい奴の言うこと信じんのか?」
むむ、確かに。普通に犯人なら白を切るだろう。っていや待て。俺は無関係のただの被害者だ。
こいつの状況は分かったが、かと言って無関係の俺が蹴り飛ばされる理由にはならない。
でもまぁ、いいか。これで学校での懸念事項は解消されたし。問題なくスクールライフを満喫出来るというもの。
加賀のストーカーとか、勝手にやってろって感じだしな。
俺は菩薩のように広い心ですべてを洗い流し、加賀を許してやることにした。
ーーそうこうしている内に学校についた。
靴を脱いで下駄箱を開く。するとそこにはまたもや一通の手紙が入っていた。
その手紙を手に取り、俺は隣に立つ加賀を見た。
「お前が入れてたんじゃねぇのかよッ!!」
手紙を持ったまま叫んだ。そんな俺を見て疑問符を浮かべてた那波と加賀が顔を見合わせていた。
『一年のときからずっと気になってました。今日の放課後、屋上で待ってます。』
これは何だ。様式美なのか? それとも天丼ネタというかつか?
最初は嬉しかったけど、正直迷惑です。
「元気ねぇじゃねえかよ」
教室で大人しく恐怖のラブレターについて考えいると、友達でも無いくせに友達面して加賀がやってきた。
昨日ゴリラの如くパワーで俺を蹴り飛ばした奴のセリフとは思えない。
「・・・うるせぇな。そろそろ授業始まるぞ、席戻れよ」
一瞬相談しようかと思ってしまったが、ほとんど初対面のこいつに話すことではない。
加賀は教室に掛けてある時計をみてから呆れた表情をした。
「HRまでまだ二十分はあるじゃねぇか。お上品なお坊ちゃんは十分前行動の十分前行動でも義務付けられてんのか?」
追い返したいだけなのに帰ってくれない、新手のストーカーだな。
仕方なく相手をしてやろうかと思ったら、久遠寺くんが近づいてきた。
「おはよう、どうかしたの?」
「おはよ。どうもしないよ。こいつが朝からうるさいんだ」
「よぉ。お前、久遠寺っつったっけ。こいつが朝から暇そうにしてたから相手してやってたんだよ」
暇じゃありません、迷惑です。ほっといて下さい。
その思いを乗せて視線を加賀に送っていると、心配そうに見ている久遠寺くんが目に入った。
一瞬何でそんな顔してるのかと思ったが、きっと俺が加賀に絡まれていると思ったのだろう。
当たらずといえども遠からずってところではあるのだが、加賀については一応もう解決している。
丁度いいので、ラブレターの件を相談してみよう。
「久遠寺くん、聞いてくれ。実は今俺は悩んでいるんだ」
「お、なんだなんだ」
加賀が真っ先に食いついてくる。お前じゃないすっこんでろ。
俺はバックに手を入れ、今朝入れたラブレターを取り出そうとした。
「あれ? ・・・無いな」
確かバックに入れたはずなのに。・・・机の中やポケットを弄ると、上着の内ポケットに件のラブレターを発見した。
「あったあった、これこれ」
封筒から手紙を取り出し、久遠寺くんに見せる。
「これって、ラブレターだよね。・・・これが悩みなの?」
「っか~、モテすぎて辛いってか。嫌味な野郎だねぇ」
「違ぇっつの」
「なになに。どうしたの? 誰がモテてるの?」
加賀が大きな声で話していたからだろう。那波も気になって会話に参加してきた。
遠巻きに中田くんと後藤くんが見える。目があったけど、こっちに来る気配は無い。
こんな金髪のヤンキーがいたら当然だな。俺だってそうする。てか久遠寺くんは俺を心配して来てくれたからいいとして、那波はもっと警戒しろよ。
「零士だよ。ラブレターを貰って困ってるんだとよ」
「違ぇっつってんだろ。・・・いや合ってた」
何故だろう。嫌いなやつの発言ってとことん否定したくなる。そして呼び捨てにすんなよ馴れ馴れしい。
「・・・ラブレターって一昨日貰ってたよね。へぇ、困ってるんだ」
何故か那波の言葉に含みがあるような感じがして、何も言えなくなる。
「お、どうした。ラブレターのことは彼女には内緒にしておきたかったか?」
「っち、違うもん。か、彼女じゃないし」
そう言って赤くなる那波。いいぞ、もっと言え。俺を意識させるんだ。
「それで、何が困ってるの?」
久遠寺くんが話を促す。このままじゃ話が進まないからな。
「実はこの手紙、三通目なんだ。内容もまったく同じだ」
「・・・それはちょっと、と言うよりかなり、怖いね」
「・・・ああ。だからどうしよーー」
「すっごーい。もの凄くピュアな娘なんだね! 何回も送ってくるなんて」
はあ!? 何を言っているんだコイツは。
ピュアなのはオメェだよ。どう考えてもイカレポンチの所業だろうが!
こ、こいつ。・・・そうだった。那波は昔から天然というか少しネジがぶっ飛んでるところがあるんだった。
暫く付き合いがなかったんで忘れてたぜ・・・。
「っで、零くんは屋上には行ったの?」
「あ、ああ。一昨日はちょっとムリだったけど、昨日は行ったよ。誰もいなかったけど」
そう言ってチラリと加賀の方を見た。
俺と目が合うと加賀は顔を逸らし、頭をガシガシと掻いた。
「そうなんだ、でもこんなに一生懸命な娘なんだもん。きっと今日も待ってるよ、行ってあげないと」
いやいや、お前話し聞いてた? いなかったって言ってるだろッ。
助けを求めるために他二人を見てみると、久遠寺くんも加賀も真剣な表情で何かを考えていた。
加賀、お前絶対何にも考えてないだろ。ポーズはやめろ。
「とりあえず、今日も行ってみたら? 僕も隠れて見てるからさ」
こういうので良いんだよ。一緒に来てくれるだけでも安心できるんだからさ。
ありがとう、久遠寺くん。まともな感性を持っていてくれて助かるよ。
「ううぅん」
何故か唸り声を上げて考えごとをする加賀。だからお前何も考えてないだろ。さっさとどっか行け。
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