MissingLink

七夕

第1話 プロローグ

 クラス替え後の新学期というものは何度経験しても慣れないものである。


 俺以外もきっとそうなのだろう。借りてきた猫のようにみんな大人しい。


 恒例の自己紹介が始まり、なんとも言えない緊張感が俺を襲う。


 大勢の前で話すのは得意じゃない。根が小心者だからだろうか。


 しばらくすると自分の番が回ってきた。


 「相神零士(あいがみ れいじ)です。得意な教科は理科と数学です。苦手な教科は英語です。部活には入ってません。宜しくお願いします」


 手早く自己紹介を終え、席に座る。我ながらよく出来た。何一つ特徴のないいい自己紹介だ。


 人の印象というのは会って十秒で決まるというから、きっとみんなは俺を平凡で特徴のない普通の人だと思ってくれたはずだ。

 

 正確に言うと自己紹介までの間に顔くらい見られているだろうから会って十秒ではないが、この場合は良いだろう。


 「ふぁあぁ」


 自己紹介の顔合わせとはいえ授業中にも拘らず、大きな欠伸声が聞こえた。


 しかしだれもそれを咎めない。


 だって明らかに金髪でヤバそうなやつだし。


 一瞬変な空気になったが、自己紹介は何事もなかったかのように続けられた。

 

 何となく先ほどの金髪に目をやる。


 チャラそうなやつで、ネクタイを緩めていかにも不良ですって感じの男だ。


 あいつには関わらないようにしよう。


 「っ!?」


 視線を外そうとした瞬間、突然あいつがこちらを見てきた。


 慌てて顔を背け、平静を装う。


 あんな奴に絡まれたら面倒だ。


 俺はもうあいつに視線を送ること無く、他の生徒の自己紹介を聞いてこの時間を終えた。

 

 しかし、気のせいかあの金髪、先ほど目があった時笑ったような気がした。


 因縁つけられなきゃいいけど・・・。






 一限目は始業式、二限目は自己紹介と今日は楽な日程である。


 初日なのでこんなものだろう。


 三限目と四限目は新しいの受け渡しの後、自習時間となった。


 しかし、知り合いのいない自由時間程苦痛なものはない。


 知り合いのいる連中はすでに固まって楽しそうにしている。・・・いいなぁ。


 受け取った教科書に不備がないことを確認すると、途端にやることが無くなった。


 授業中ではあるが、ほとんど自由時間とかしている。


 なので俺はジュースを買うべく自販機へと一人寂しく向かうことにした。


 当然というべきか、教室の外は誰もいない。


 自販機でジュースを買うと、その場でストローをパックに刺して飲む。


 どうせクラスに戻ってもやることないし・・・。


 とか思いつつジュースを飲んでいると一人の男子生徒が歩いてきた。


 きっとジュースを買いに来たんだろう。


 その男子生徒に目をやると、良くないものを見てしまった。


 見えてしまったものは仕方ないので、気取られないように自然体で男子生徒に向かって歩く。


 「ぅわッ」


 小さな声を上げて男子生徒が自販機へと向かう道にある段差につまづいた。


 俺はすかさず、倒れそうになる男子生徒の腕を掴んで倒れるのを防いだ。


 「ーーあ、ありがとう」


 「いや」


 男子生徒の礼に簡素に答えると、俺はその場を後にした。






 俺には昔からみんなには内緒の特技がある。


 その特技とは、未来が見えることである。


 普段は数瞬先の未来が見えていて、気合を入れると一分くらい先まで見える。


 一見便利そうではあるが、実際はそう大した特技ではない。


 さっきみたいにちょっとした災難を回避するのに使える程度の能力だろう。


 他人にない能力を持ったからといって、調子に乗ってはいけないのだ。


 この特技にせいでーーというか俺が調子に乗ったせいで、以前えらい目にあったことがある。


 そのとき俺は謙虚に生きることを学んだ。


 やっぱり人柄が良くないと何事もうまくいかないものさ。






 俺は悩んでいた。


 今は新しいクラスになってから二日目の昼だ。


 当然まだこのクラスには馴染んでいない。


 昼を一緒に食べる友人どころか、まだ誰ともまともに喋っていないのだ。


 一年の時はクラスの友人と一緒に学食に行っていたのだが、さすがに今のクラスに馴染む前から前のクラスメイトと昼を一緒に食べるのはマズいだろう。


 きっと旧友たちも新しいクラスで友人を作ることに尽力しているはずだ。


 そしてこのクラスにはマジで知り合いが居ない。


 顔を知っている程度のやつは何人か居るのだが、話したことのない奴らだ。


 あれなら周りの席の人を誘ったほうが気が楽だ。


 余談だが、クラス替えというのは先生方が仲の良い者とあえて離れさせて成長を促すんだそうだ。


 ということは俺は先生方から見ると余程コミュ症に見えるのだろうか。


 「ねぇ、良かったら昼一緒に食べない? それとも誰かと約束ある?」


 下らないことを考えていると声を掛けられた。


 俺の斜め前の席の・・・。名前は何だっただろうか。


 とりあえず返事だけしておこう。


 「良いの? このクラスまだ知り合い居ないから助かったよ。一緒に食べる」


 そう言って席を立った。


 「どこで食べる?」


 弁当なら購買で即行で買ってこなければ。


 「学食にしようと思うんだけど」


 「良いよ、俺も弁当持ってきてないし。あ、あと俺は相神。宜しくね」


 「あ、うん。僕、久遠寺(くおんじ)」


 そう言って久遠寺くんは微笑んだ。


 よし、友人ゲット!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る