第20話 天使との遭遇
そもそも天ちゃんと兄である
ある日の休み時間だった。
「
「おぅ、
寺田さんは俺の姿を見つけるなり、楽しげに口角を上げた。
嫌な予感がする。具体的に言うと、何か面倒事を押し付けられるような、そんな予感が。
「この子、最近入ったばかりの新人の天使天ちゃん、高校一年生のJKだ」
「天使天です。よろしくお願いします」
寺田さんに背中を押され、天使さんが一歩前に出る。
その表情は慣れていない場所・環境という事もあってか、少し
「
それに俺は、特に気負いなく
俺がここに入って早くも二年の月日が経過した。もうこの手の対応には
「じゃあ、天使さん、そっち行って」
「あ、はい」
寺田さんにやはり背中を押され、天使さんが部屋の左側、俺の座る位置の反対側に進む。
「はいはい。では、ここに座って」
そうして、寺田さんに肩を押さえ付けられるようにして俺の正面に座る。
「え? あの……」
戸惑う天使さんと楽しそうに笑う寺田さん。
その表情は非常に対照的で、見ているこちらとしては若干天使さんに同情をしてしまう。
「では、後は若いお二人で」
そう言うが早いか、寺田さんは足早に部屋を出て行ってしまう。
逃げたな。もしくは、アレが切れたか。
「え? え? え?」
その様子に、激しく
当然だ。普通の人ならこうなる。寺田さんの性格を知っている俺としては、もうなんの感情の変動もないが。
「天使さんはキッチン?」
「え? あ、はい。料理は嫌いじゃないですし、ホールよりは向いてるかなって」
今回入ったのはバイトが二人に、パートが一人。はてさて、何人が一年続く事やら。
「その、香野先輩はここ、長いんですか?」
「高一になってすぐからやってるから、もう二年以上になるかな」
「二年。じゃあ、ここでの事も結構詳しいんですか?」
「そうだね。バイト・パートの人間関係、常連さんの注文パターン、時間
と言っても、知っていても教えられない事も当然ある。例えば、店長のこれまでの経歴とか、常連さん同士の秘密の関係性とか。
「なら、早速一つだけ」
「何?」
「彼女はいますか?」
「……は?」
予想の斜め上を行く質問に、俺の頭は一瞬真っ白になる。
何? 彼女? どゆ事?
「いえ、その、違くて、彼女がいるなら、彼女がいるなりの付き合い方というか、あんまり近付き過ぎると彼女さんに怒られちゃうなぁ、なんて」
そう言うと天使さんは、
なるほど。そういう事か。
「彼女はね、うん、いないよ」
今は。
ちくりと痛む胸のうずきをなんとか飲み込み、天使さんにそう笑顔で伝える。
「そうですか。じゃあ、安心ですね」
「何が?」
「さぁー。それより、もう一つ聞いてもいいですか?」
「別にいいけど……」
この子、最初の大人しそうな印象と違って、結構グイグイ来るな。
猫、被っていたのか? いや、単に緊張が
「香野先輩って、どこの高校通ってるんですか?」
「え? あー。聞いてないんだ?」
てっきり、寺田さん辺りから聞いているものだとばかり思っていた。
「天使さんと同じ
「え? 嘘? ホントのホントに先輩だったんですね」
「そう。ホントのホントの先輩。ていうか、俺は天使さんの事、前から知ってたけどね」
「……もしかして、兄絡みですか?」
聞いていた通りあまり仲は良くないのか、天使さんの声のトーンが一段回下がる。
「ま、それもあるけど、三年の間でも噂になってたから。一年に
いくら
「いえ、苗字が苗字ですから、そういう話は慣れっこというか、今更なので。……ところで香野先輩、兄とはどういう……」
「一応、友達かな。クラスメイトだし」
「ご迷惑をお掛けします」
俺達の関係性をろくに知りもしないのに、その言葉が出てくる辺り、彼女の中の
「ま、なんやかんや仲良くやってるよ。扱い方さえ知れば、基本楽しい奴だし」
「そうですか。なら、良かったです」
その言葉の調子からは、司への興味のなさがありありと伝わってきた。
「改めまして、天使司の妹で
そう言って、満面の笑みを俺に向ける天使さん。
こうして俺と天ちゃんは出会い、同じ高校という亊もあり次第に仲良くなっていった。
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