第24話 願い事
席に腰を下ろし、背もたれに体を
普通の
まぁ、簡単に言うと、まんまプラネタリウムと同じ構造だ。
「なんか緊張しますね」
同じく隣に腰を下ろした
「なんでだよ」
それに
「うーん。雰囲気? ですかね?」
「公演中は騒げないもんな」
「確かにそれもあるかも」
俺としてはからかったつもりだったのだが、まさか納得されるとは。予想外の反応だ。
程なくしてブザーが鳴り、室内が徐々に暗くなる。
もう始まるようだ。
「地球が出来ておよそ五十億年――」
女性の落ち着いた声が、とうとうとナレーションを読み上げていく。
その間に天井は、暗闇から蒼く濃い水中の映像に変わる。中央に上から差し込む光が見えるので、これは椅子に座る俺達が水底から空を見上げているという設定の映像なのだろう。
何もいなかった水中に、次第に色々な生物や海藻等が現れ、消え、また現れる。
どうやら、地球が誕生してから今日までの軌跡を、この映像は表しているようだ。教科書やテレビでしか見た事のない妙な生物が初めの方に現れたり消えたりを繰り返していたのが、その証拠だ。
それまで目まぐるしく変化していた景色が、急に落ち着く。
きっと、現在に至ったのだろう。見慣れた生物しか今の映像には映っていない。
そこでナレーションの
それまでの教科書的なトーンから、まるで物語を読み上げる語り部のようなトーンへ。
どうもここからが、このアトラクションの本題らしい。
蒼く濃い水中に、一隻の小舟とそれに乗る男のシルエットがふいに浮かぶ。
物語の大筋はこうだ。
ある日、海に出て漁をしていた若い男の元に、腰から下が魚のそれのような美しい女性が現れる。女性はとても
男が声を掛けると、女性はにこりと微笑み、男を海の中へと誘った。一瞬戸惑ったものの男はその誘いに乗り、海の中へ。
気が付くと男はいつの間にか神殿の中にいて、そこで彼女や彼女と同じ容姿の者たちに男は歓迎を受ける。
その後の流れというか、オチはなんとなく想像がつく。
これ、あれだ。まんま浦島太郎だ。いや、細かいところは確かに違うんだけど、大まかな話は類似というか酷似しており、どちらの物語が先なのかはこの際置いておくとして二つの物語はよく似通っていた。
まぁ、話としてはそれなりに面白くはあるから、こういう雰囲気で聞く分には別にいいのだが……。
結局、男は俺の予想通り、神殿を急に後にして、貰ったお土産で不幸な目(?)に合う。
浦島太郎は乙姫から貰った玉手箱で一気に年を重ねたが、この話の男は人魚から貰った肉を
締めのナレーションが流れ、程なくして室内が少しずつ明るくなる。
「切ない話でしたね」
「そうか?」
開口一番隣から発せられたその感想に、俺は思わず首を
「だって、折角出会ったのに二人は、最後には離れ離れになって、違う世界で生きる事になるんですよ。これが切なくなかったら、他に何が切ないって言うんですか」
はて。
「そういう話だっけ?」
俺が記憶している限り、今の話の中にいわゆる色恋
「せんぱい、もしかして寝てました?」
「失敬な。ちゃんと見てたし聞いてたわ」
その上での今の発言であり、今の反応である。
「まったく、そんなんだから彼女が出来ないんですよ」
「いや、お前にだけは言われたくないんだが」
方や二年程前まで彼女がいた人間、方や彼氏いない歴=年齢の人間。どちらが恋愛について知っているかと言えば、断然前者だろう。
「ところでせんぱい、流れ星は見つかりました?」
俺の反論を
「いや、分からなかった」
ここに来る前に鈴羽から聞いた話では、映像のどこかに流れ星らしきものが横切るところがあり、それを見つけられたら願いが叶うらしい。まぁ、他の二つと同じで、根拠のない
出入り口近辺の客がいなくなり始めたのを見計らい、俺はそろそろいいだろうと立ち上がる。
そして同じく立ち上がった鈴羽を
「そういうお前はどうなんだよ?」
「私? 私ですか? そりゃもう見事に見つけましたよ」
「
「それを言ったら面白くないじゃないですか。次回、自分の目で確かめてください」
くそー。自分だけが見つけたからって偉そうに。こうなったら、インターネットで検索を掛けて、答えをカンニングしてやろうか。……いや、それはさすがに大人げないというか、汚いというか……。
「で、願い事はしたのか? その流れ星に」
「しましたよ。ばっちりと」
「へー。なんて?」
「内緒です。知らないんですか? 願い事は人に教えるとその効力がなくなるんですよ」
それは神社や寺での話であって、こういうものとは別な気もするが……。まぁ、いいか。別にそこまで気になるというわけでもないし、無理に聞き出すのもなんだしな。
「何を願ったか知らんが、叶うといいな、その願い事」
「はい。
「?」
よく分からないが、鈴羽の願い事は自分も頑張る系のやつなのか。勉強や将来に関する事とか? いや、さすがにこんな所で願わないか、そんな事は。
「そういえばせんぱい、ここに来たの初めてなんですか?」
「ん? あぁ、そうだよ。二年前にはまだなかったからな、このアトラクションは」
「へー。そうなんですね」
などと他愛ない会話を繰り広げられながら、俺達はシー・フローを後にした。
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