モウ家の人々
サイサイはほとんど回復していたが、徐々にそわそわとした感じになっている様にラランには見えた。それがコジョウや、キリュウへと伝染し、モウ家の人たちの何となく明るい様子に、ユーシンもキザンも、リュウリも何かがあるのだろうと思っていた。
「ん? 」
モウ家の人間以外が集まっている少し大きめの部屋で、不思議そうな声をあげたのはユーシンだった。
「やっぱり感じますか? ユーシン」
「うん、色だ、ものすごい量の色、しかもすべて輝くような」
「ユーシン、お前もラランちゃんの能力があるとか? 」
「それはきっと違うよキザン、創色師としての経験かな。何度か赤の町で大きな色屋(色を売る店)の倉庫に入ったことがあるんだ。そこと同じだよ」
「モウ家だったら持っているだろう、元々」
「そうじゃないよ、出来立てって雰囲気だ、ララン、ねえ」
「ええ、とても明るい光を感じます。まるで、これから先の希望のような。久しぶりです、こんな気持ちになれたのは」
するとドアがノックされ、一人の男が入って来た。
「サンガさん! 」
「久しぶりだね、みんな。休養は取れたかい? 」
「命色するのが逆に怖いくらいです」
「それぐらいで丁度いい、これからが本番なのだから」
「ハイ」
「じゃあ、リュウリと出発するんですか? 」
「いや、それはまだ少し先になる、ララン。
今日は師匠に呼び出されたんだけれど、それで君たちも集まっているの? 」
「そう言えばこの部屋にいてくれと言われましたね」
「音が漏れにくい部屋なんだよ」
「何かの報告かな」
その部屋にはまるで会議でも行えるような椅子とテーブルがあった。十脚ほどの椅子があったので、とにかくみんなそこに座った。
そうしてほどなく入ってきたのは、サイサイとコジョウだった。今まで二人を見てそれほど「似ている」と思ったことはなかったが、こうして並んでみるとやはり顔つきがそっくりで、二人とも同じようににこやかだ。コジョウはいつものようにラランの側に座り、サイサイもゆっくりといすに座った。
コツコツと軽やかな靴音が聞こえ始めた。明らかに女性と、その後にキリュウがいることもわかった。
「なるほど」
とサンガが小さな声で言いながら椅子から立ったので、他の者もつられるように立ち上がった。
「わざわざ立ち上がらなくても、サンガ」
と言ったサイサイと、コジョウは座ったまま
「いいよ、ラランはそのままで」と優しくラランの肩にふれた。
部屋の戸を開けたのはキリュウだったが、先に入ってきたのは年配の女性だった。
彼女は少しだけ首を動かして、すぐに話し始めた。
「こんにちは、初めての方もいらっしゃるようですね、でも先に知っている方にご挨拶しましょう。サンガ、お久しぶりですね
あなたは、ホーツ=ホークですか、立派な男性になりましたね」
「ありがとうございます」
とキザンが答えたので、思わずリュウリが小さな声で
「カッコいい名前じゃないか、どうして名前を変えたんだ? 」
「小さい頃から、ホーホーって呼ばれてたからね・・・」
「今は呼び名が違うのですか? 私もホーツ=ホークという名は好きですが」
「ハイ、キザンと名乗っています」
「あなたの弟子ですか? サンガ」
「いいえ奥様、彼は散色師ですから、僕には教えることはできません。
本当にお久しぶりですね、相変わらずお美しくていらっしゃって」
その言葉に一呼吸おいてからだった。
「あなたがそのように見え透いたお世辞を言うものだから、そう言うことを言わない、人生においてそのことに全く時間をかけない、私の夫が本気にするのです。
おかげで私は三年以上幽閉の身です」
「お母様!!! 」姉弟二人と
「お前!! 」
と家族は口をつぐませるために言ったのだろうが、本人は何食わぬ顔で、あたりを見回した。
「ゆう・・へい・・・」
ラランがそう言いながらガタリと音を立てて椅子から立ち上がった。
「ララン、違うんだ、幽閉なんかじゃない、違うんだよ!! 」
とコジョウの慌てる様子はとても珍しかった。
だがこのあまりにも重たすぎる言葉が、それを笑ってよい雰囲気には決してしなかったのだ。
リュウリは驚いてサンガの顔を見たが、深刻な表情ではなかったので、どこか安心はしたものの、確かに妹の将来に何らかの不安があるのは明らかだった。
「お母様・・・お言葉が」と諫める実の娘ではなく、
彼女は息子に尋ねた。
「そのお嬢さんは? コジョウ? 」
「ラランです、将来結婚しようと思っています。お母様にお許しを」
「そうですか。
では、
私が許さないと言ったら、
あなたはその子を諦めるのですか? 」
「は? 」
誰かから声が漏れた。
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