不器用な鳥 サイサイ登場
「タフだなリュウリ・・・俺は休憩、コジョウ、相手をしてやれよ」
広い草原だった。膝の所まで青々とした草は伸びているが、所々にある石の上でラランとコジョウは休んでいた。リックはもちろん食事中だ。
「手紙を書いている、お前の体力がなさすぎだ、その点の改善を図れよ」
「私も、護身術をちょっと習ったんです。面白いですね」
「筋がいいって言われた? もしかしてラランちゃん? 」
「ハイ! 褒められました」
リュウリはあれから暇さえあれば格闘技だ。自分に一番足りないものを何とか補おうと頑張っていた。
「なんかお前、体も一回り大きくなってないか? あれから十日しかたってないけど」
「先生から言われたんだ、今からが丁度いいって、体が成長して鍛えるからケガも少なくて済むだろうって」
「お前格闘家になるわけじゃないだろう? 」
「指はあまり鍛えてはだめだぞ、リュウリ。繊細な命色が出来なくなるから」
「コジョウ上から・・・そっか! お前のじいちゃん北の格闘系命色師だったな」
「面白い人だよ、正直で「自分は命色師としては下の下」って言っている」
「ハハハ! だから北の家は継いでないのか」
「そう言うこと、モウ家だってたまたま二代続いただけで、前は別の人間がやっていたんだ、世襲制じゃ王政と一緒だ。それに俺はやっぱり父の仕事はごめんだね。リュウリ、あの街でいろいろ学んだのは君だけじゃないってことだ」
「そうだね、最初はどうなることかと思ったけど」
「災い転じてかな・・・」
「上手いねララン」仲良くやってはいた。そしてリックはちらちらと後ろを振り向いていた。
「ついてきているな・・・だいぶん・・・犬らしくなった」
「良かった、あともう少しで元の戻る」
例の犬は命色師たちが自分を戻そうとしていることを知っていた。所々筋肉が見えているが、その部分が「傷のひどいもの」と言えなくないほどにはなっていた。
「ラランちゃん冴えわたってない? この道を選んで正解。この道は人が少ないし、リックには良い草もあるし、遠回りのようだけど、道自体は楽だ」
「何より、練習場に最適! 」
「おい! 不意打ちは卑怯だぞ! リュウリ! 」
「悪人は不意打ちだろう? 」
「ごもっとも、じゃあ本気で行くぞ、学校時代のイライラを全部格闘の時間にぶつけていた俺には勝てんぞ! 」
「よろしくキザン! 」
二人がそうやっている時間、コジョウはラランに言った。
「きれいな真っ白い犬だ。まるで雪の様に」
「そうですか・・・きっと可愛い子犬だったんでしょうね」
「目つきは多少鋭いが、以前ほどではない。もしずっと着いてきたらどうするんだい、ララン? 」
「どうする? みんなで決めることですが」
「白化した中でも生きてきたものは、今までの歴史の中でもほんの数体だ」
「研究対象ですか? 」
「それもある、でもあの街の白化とはどうも関係がないようだ」
「ええ、違うようですね、とにかく、元の姿に戻らないことには犬でもなくなってしまう、それはあまりに可哀そうです」
「ああ、そうだね、あと数日で何とか戻りそうだ。この草原を抜ければ私の家は目と鼻の先だから」
「ええ」
犬は茂みに入ってしまったようだった。
「小屋が見える、先に進もう、リック、またあとでな」名残惜しそうなリックは珍しく駄々をこねているようだった。
「やれやれわかったよ」さっとコジョウは草を刈り、大きな袋に仕込めた。
「お前はモウ家を継がなくても馬の世話係になれるって」
「そっちの方が好きかな」
道を急いだ。すると白いものもさっと道へと出てきた。
それから二日たった時の事だった。朝、小屋からコジョウが出ると、目の前に白いものがあった。朝靄と優しい日差しの中、その白いものはふわりと柔らかなもののように見えた。
「ああ、そうか、良かったな」
コジョウも全く動かずに見ていた。ラランは少しの風を感じて目を覚まし、ゆっくりと、ドアの方向に向かった。
コジョウはラランに朝の挨拶もせずにいたが、でもラランは気が付いた
「優しいものを感じます、戻ったんですね、コジョウ」
「ごめんね、試すようなことをして。でも本当に美しいよ、真っ白で生まれたての様だ、大人の犬が。ちゃんと座って主人を待っているみたい」
「どうしましょうか、色付きの餌をあげた方がいいでしょうか? 」
「試してみようか、本人が来るか」
コジョウは小屋の中から犬用の餌を持ってきた。普段ならもとに戻す薬となる色をいれるのだが、それを入れずに持ってきた。
それを見ると犬は走ってやって来て、またちょこんと座った。
「そのまま食べたいようです」
「そのようだね」
犬の目の前に肉を出すとガツガツと食べ始めたので
「ララン、食事中は夢中で危ないから中にいよう」
「ええ」人間は中に入った。
そしてもう一度外に出ると、犬はもういなかった。
「そうか、それは見たかったな、なあリュウリ」
「うん、ぐっすり眠ってしまっていたから」
「本当のことを言うと、それじゃだめだ」
「わかっているよ、コジョウ、今は甘えさせてほしい」
「本当に素直に言うな、リュウリは。でもしばらく勘弁してくれよ、森ではやりたくない」
「手だけでもやればいいじゃないかキザン」
「おいおい、コジョウ! 」
「わかったよ、今度は俺の番、手だけなら相手になるよリュウリ」
「ララン、もしかしてついてきてほしかった? 」
「そうね、半分は。でも犬の姿になったことが何よりうれしい」
「ごめんね、何にも手伝ってあげられなくって」
「いや、丁度いいさリュウリ、あんまり見つめられても嫌だっただろう。関心は持っていてほしいけど適度に、という感じがした。ついてきやすかっただろう」
「コジョウ、なかなか分析するな、犬についても詳しいか」
「飼っていたからね、寿命で死んでしまった。リックともいい友達だった」
「それでリックはあんまり騒がなかったんですね」
「そう言うこと」
「馬にも歴史ありか、なあリック」とキザンがリックを撫でると、ちらりと目を向けた。
「当たり前だろう、かリック、持ち主にそっくり」
「今はララちゃんの方がそうかも」
楽し気な会話が続いていた。
草原から徐々に勾配が上がって行き、前方にはあまり高くない山も見えた。一日で越えられそうだったので、一行はそのつもりで山へと入っていった。
「なんだか、この森違うな・・・」
「そうかな、でもああ、懐かしい感じがする」
「そう思うかリュウリ、さすがだな。ここは白化したことがないと言われている森なんだ」
「へえ・・・そんなところもあるんだ」とコジョウ以外は周りを見ていたが、不思議とラランが何も言わずにいた。すると遠くから何かの声がする
それがどんどん近くにやって来ているような
「あ! 」どこか嬉しそうなラランの声がしたと思ったら、
「ワンワンワン! 」という犬の鳴き声と、バサバサという音もしてきた。
「犬と鳥? 」一直線にこちらに向かってきて、案外大きな鳥は人の目ほどの高さを飛んで急に高く上がったと思ったら、ラランの肩に乗った。
「ワン! ワン! 」その声にラランは
「ありがとう、淡雪、白化した鳥を連れてきてくれたのね」
「あわゆき、素敵な名前じゃないかララン」
「そうですかコジョウ? でもあんまり研究という感じで見ると嫌がりますよ」
「名前まで付けてたの? ラランちゃん? 」
「ケー!!!!」
「うわ! ごめんなさい! あなたの方が今は重傷なのに。
ごめんなさいね、すぐに命色してもらうから」
耳元で騒がれたラランは困ったように言った。嘴は短く急に折れ曲がり、肩の上に載っていると、頭の羽がぴょんとラランの頭長から飛び出して見えた。全体がすべて白化しており、淡雪の目の覚めるような白い色とは違い、灰色がかった、本来ならあるはずの羽の光沢は全く見られなかった。
「オウム・・・だろうけれど」頭上から昆虫の触覚のように垂れ下がっている飾り羽は、先がボンボンのように丸くなっている。
「ボンボンオウム? 絶滅したって言われている? コジョウ? 」
「リュウリ、それは・・・わからない・・・絵も今持っていないし」
そんな中でキザンは一人今度は淡雪の世話を焼いていた。
「ごめんな、殴ったりして。その目は覚えているか・・・でも仕方がないじゃないか、ラランちゃんに襲いかかろうとしたから」撫でようとしたが淡雪が体を翻した。
「わかったよ、食べ物をやるから」と餌を出すと尻尾を急に振って食べ始めた。
「現金な奴・・・」
急にやってきた仲間と、命色の難しい鳥は、彼らにとって思い出深いものになった。
「この色は? 」
ラランはオウムを目の前にして話していた。するとオウムは
プイッという感じに顔をそむけた。
「おい! いい加減にしろよ! お前何色目だと思っているんだ! 好きな色を聞いてるんじゃないんだぞ! 」
「キザン! 」珍しくラランがそう呼んだ。
「ケ!」と鳴き、オウムは空へと飛びあがったが、念のため括り付けておいた紐のためにそれ以上高く飛べず、降りてきた。
「何だこいつは全く・・・中にわがままな小さい叔父さんでも入っているのか。ラランの側には居たい、でも困らせたいか? 」キザンもラランと呼んでいた。
「やってられない、俺はこいつは無理。大体鳥が白化するか? これだけ大型の奴がなるなんて聞いたこともないぞ? 大体鳥は最も白化しにくいのに。羽で防げるし、付いたって水に流せばいいんだし。こいつ水浴びもしないのか? 」
「ケ! ケ! ケ! ケ! ケ! 」
「キザン・・・・・」さすがにラランも少々疲れてはいたので
「ララン、少し休んだ方がいい、どうせ今日はここで野宿だ。ゆっくりしよう」コジョウの言葉に野営の準備をそれぞれは始めたが。座ったラランの元には、ゆっくりとゆっくりと、淡雪が恐る恐る近づいてきていた。そしてその真横に寝そべった。
「ありがとう、慰めてくれるの? 」ラランは触れようかどうか迷っていたが、今日は止めておこうと思った。そんな中
「五色オウムかもしれない! 」リュウリが急に叫んだ!
「そうか! そうかもしれない! 飾り羽をボンボン型に加工すると言われていた。王族が珍しがって飼っていたって言う奴だ。言えばいろんな形に作り替ることもしたっていわれている」
「え? 五色オウムって作り話じゃないの? 」
「と言われていたんだけど、最近それに似たことをする小型のオウムが発見されたんだ! そうだよねコジョウ! 」
「ああ! そうだ! 五色オウムは伝説通りなら色が判る」
命色師たちは急いで五色の色を用意した。白、黒、黄色、赤、茶色、その色をオウムの目の前に置くと、じーっと見つめて、それからゆっくりと横を向いた。
「嫌な奴・・・絶対自分の好きな色にしてほしいんだ」
「キザン・・・聞こえてると思う・・・」
「わかってるララン・・・ちゃんをつけるのが面倒になったのと、急な成長でそのまま呼ぶよ」
「ありがとう、私も」
その会話をリュウリと二人楽しく聞きながらコジョウはリックを見た。いつの間にか淡雪はリックの近くにいて、大人しく、また眠っていた。
「そうそう、リック、あのオウムより淡雪の方が何倍もましだよ。それに淡雪もリックに挨拶を済ませたようだ。賢い犬だ、白化したものを連れてきた」感心したコジョウだったが、薪の燃える中、やがてみんなぐっすりと眠った。
朝起きてみると、みんなは心をすぐに痛めなければならなかった。
「ひどく弱っている、いけない、早く命色しなければ」
全体の白化なのだから急がなければならなかったのにと、それぞれが自分を責めていた。
「五色オウムなのよね、ねえ、命色しなければ死んでしまう、お願い、色を受け入れて」今度は頷いているのか、うなだれているのかわからないほどだった。
「リュウリ、二人でやるか? 」
「そうだねコジョウ、すぐにやろう! 五色オウムで間違いはないと思う、ボンボンに加工の後があったから」
だが命色師がそうしようと準備を始めると、オウムは息を吹き返したように暴れ始めた。
「大人しくして! 」
「死ぬぞお前! 」キザンとラランがなだめるように、押さえつけるようにオウムと格闘していると、淡雪までが
「ワンワン! ワンワン! 」と吠え始めた。
「淡雪! うるさいぞ! 」といってもずっと吠え続けている。それがオウムに向かってではなく空へ向かってであったのに気付いた時に、今度はリックが
「ヒヒーン! 」と高らかに嘶いた。
オウムは一層暴れ出し、紐に引っ張られながらそのあたりを飛び回っている。
「ああ、わかった」
コジョウがそう言った数秒後、朝の太陽は急に遮られたように暗くなり、大きなバサバサという音が聞こえてきた。
「サイサイさん!!! 」
大きな鷲、それに手綱を付けて乗った女性が舞い降りてきた。
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