もてなし


「そんなところがあったなんて、知りませんでした。私がこの地に着任したばかりでよく調べていなくて申し訳ありません、今すぐ調査に向かわせます」


この地の警察署長は言ったが、それを聞いて黙ったままのコジョウの雰囲気が、真横のラランには言葉として聞こえたような気がした。


「こんな時期に人事異動か? 」


リュウリとキザンの到着を待つことなく、署長室ですぐに話を切り出した。それは命色師として一刻も早い解決をという使命感と、何か妙な不透明感だった。


「この町で他に白化したところはないのですか? 」

「そうなのです、ラランさん。今いろいろな所で白化が起こっているのですが、この町だけなかったので不思議だったのです」


それを聞いてすぐさまコジョウが

「真実を・・・教えていただけませんか、ここには私たち三人だけなのですから」


「コジョウさん、私はあなたのお父様にお会いしたことがありますから、よく似ているあなたが息子さんであることは想像が付きます。そしてラランさん、あなたも本物である・・・」


「ギャアギャア、ギャアギャア」

と、そのあとの署長の声をかき消すようにマグマの群れが到着してしまったので、三人は苦笑するしかなかった。

「タイミングが良いんだか、悪いんだか」

数分待つと部屋のドアが開いた。


「ハア、ハア、ハア・・・コジョウ・・・いくらお前の馬とは言え・・・次代わってもらうからな・・・・・」

キザンはこの言葉が出たが、リュウリは呼吸も苦し気に肩で息をして、挨拶することもままならなかった。



二人が落ち着くのを待って署長は話し始めた。 


「この町でほとんどマグマが働いてくれなくなってしまって、私が派遣されたのです」


「ああ! じゃあ、あなたがあの有名な、マグマの飼育係から署長になったという方だったのですか」


「ハハハ・・・ええ、リュウリさん、マグマの手助けで署長になったと言われていますが。でも本当に困っているんです、最近軽犯罪が増えて、そちらのことが忙しくて。私が指名されたのですから、マグマの事を突きとめなければならないのですが、そのマグマがほとんどいなくなってしまって」


「マグマの所に行きませんか? 」ラランの素早い提案にコジョウは賛成し


「二人はここで休んでいるといい」


「そうしておくよ、コジョウ・・・ララン・・・頼むね・・・僕も「多すぎる」とかマグマに言ってしまったから・・・」

「フフフ・・・そんなに疲れたリュウリは久しぶり見たわ」

三人は部屋を出た。



「ああ! もしかしたらあの二人の子供か! よろしくな! 」

警察署長を見るなり一羽のマグマがすぐそばに飛んできた。


「署長、どうしてわかるんですか? 」係も驚いて

「見てごらん、この子の目の周り何本かだけ灰色の毛が混じっているだろう? この子の親もそうなんだよ、強い遺伝らしくてね。良かったじゃないか、このマグマたちは優秀だし、黒モチの実が大好物だろう? 」

「はい、そうです」

「そうか、親もそうだったからね。君たちもちゃんとやっているじゃないか。黒モチの実は手に入り易くて、熟成させておけばいいだけなのだから、我々としては扱いやすい、悪いね、こんな言い方。ああ、君は何が好きなの? 」

「署長、それは野生のマグマで・・・」

「そうみたいだね、でもしっかりした体つきだ。マグマの中でも長距離を飛べるものもいる。彼らが他の繁殖地に移動するのだから、将来的にもきちんと対応しておかないとね」

「ハイ・・・すごく勉強になります・・・」


「ああ、久しぶりこんなにたくさんのマグマを見たよ、うれしい! みんなご苦労だったね。君たちの連れてきたのはとても優秀な命色師だよ、よくわかったね。顔を覚えておいてくれ、若い二人の男たちも。君たちをそう邪険には扱わなかったろう? 命色師は君たちにも大事だ、雛が白化することがあるのだから。いいかい、わかっているだろう? 」


「カカカ」

数羽はこの音を立てた。


多くのマグマは食べることに夢中だったが、その様子を見ながら署長は係の人間に言った。


「君たちが決してマグマへの「もてなし」に手を抜いていないことはわかったよ。おとなしく、納得して食べているからね。それは私の完全な誤解だった、謝るよ。でもなのになぜ・・・」しばらく警察官同士の話を聞いてた。ラランはそれは愛おしそうにマグマの側にいるので、コジョウは楽し気に笑っていた。


一方署長室で休憩中のキザンとリュウリは


「気が付いたか? リュウリ」

「ああ、子供の様子がおかしい。大体命色師を見ると・・・」

「そうだ、子供の輪ができるはずなのに、確かにマグマがいたが、そんな雰囲気でもなかった。町全体が少し変な感じだった」

一番最初にキザンの命色を見た土地と一緒だった。




「汚職、やっぱりですか・・・・・」


「ハイ、かなり大規模であることは確かなのですが、その資金源がどこなのかわからない状態なのです、コジョウさん」

部屋にララン達が帰ってきていた。


「まあ、コジョウ、その点は警察の範疇だ、それよりもだ、今日はどこに泊まる? 宿か、それとも」


「ああ、それなら警察の宿舎が空いていますよ、ぜひ」


「それが、そうしない方が良いと思っているんです。でもラランだけは安全な所に」リュウリの真剣な姿に 


「あの・・・マグマの寝床ってあるのですか? 」


「もちろんありますよ、ケガをしたマグマの看病のため、人間が寝泊まりできる小屋を作ったばかりですが・・・まさかラランさん? 」


「マグマに守ってもらいながら寝るのが・・・夢だったので」


「南の国の昔話のお姫様だね、でもその方が私たちは動きやすい。いいかいララン? 」


「はい、コジョウ。三人で命色については話し合っていてください。私もちょっと考えなければならないので」夕暮れ時になり、命色師は部屋を出て行った。


署長はそのすべてのやり取りを、コジョウの父にも他の地域の警察にも報告し、命色師たちが出て行った部屋で一人改めて思った。


「良い若者たちだ、最近の子たちはというけれどそんなことはない。私も今は孤軍奮闘かもしれないが、やらなければならない。そのためにきっと優れたマグマたちがいるのだから」


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