牙を剥がされたライオン

京子

第1話

「のん、コート!ぼーっとしすぎ!」マキの声が現実に引き戻してくれた。

「あ、ありがとう。」

慌ててコートをマキに手渡した。

いつもの如く手際良くコートをハンガーに掛けてくれた。

マキは気遣いのできる色々な意味で?大人な女性だ。

私は至ってダメダメな女性である。一言で言うと頭が石なのである。1ミリも吸収力がない柔軟性もないのである。よって偏った固定観念がひどいのである。

「はじめまして〜。」

席に着くと男性陣が爽やかに挨拶してくれた。

今日は個室のスペイン料理屋さんで3:3の飲み会だ。

私は個室に入った瞬間から1人の男性が気になって気になって仕方がない。

「こんにちは。」

と下向き加減で答えた。こうゆう席での最初の一言が本当に私は苦手だ。

「自己紹介しようよ。じゃあ俺から順番に時計回りで。」

この人は苦手なタイプだな…。B型っぽい図々しい感じがすごくする…。

「ダイです!38歳で会社経営してます。困った事があればいつでも相談して下さい。」

と言い終えるとそいつは何故か爆笑した。

予感的中…。やっぱり苦手…。

「はい!」

と相変わらず可愛くアヤが手を挙げた。

「アヤです。昨日で34になりましたー。えーっと、仕事は今はしてないです。ダイさんよろしくお願いします。」

と言いながらアヤが上目遣いで隣のダイさんとやらを見た。

「うちにきてよ!アヤちゃんみたいな可愛い子は大歓迎!2人で社員旅行行こうよ!」

と言うとまた1人で爆笑した。

「ありがとうございます!やっぱり少し考えます!お願いしたのにすみません!」

とぶりっ子気味にアヤが答えた。

「次のひとー。」

とマキが言った。

「サワと言います。38歳で飲食業してます。今日はめちゃくちゃ楽しみにして来ました。よろしくお願いします。」

悪くはない。けど全く興味が湧かない。私はナイけどマキはもしかしたらタイプかも。

「マキです。34でアパレルしてます。」

と短くあっさりと終了させた。

きた!きたよ、きたよ!次!待ってましたー!私の気になる男性!

「トモです。38歳で飲食業してます。すでに少しほろ酔いです。」

トモー!!トモくん!トモちゃん!私は何て呼んだらいいのー!?

どんどん妄想が膨らんでいくー!

ひさびさの感覚かも。いや、もしかしたら初めての感覚かも。気になる男性から一気に大好きまで登りつめた。はじめましてから10分で惚れてしまった。明日も明後日もずっと会いたい。トモの全てを知りたいー!!

と妄想しながらも冷静に

「のんです。34歳です。仕事は美容師してます。よろしくお願いします。」

と軽く頭を下げた。

「のんちゃんよろしくね。」

と隣のトモさんが優しいトーンで私に言った。

可愛すぎる!ほんとに可愛い!思わずニヤけてしまう。

目ヂカラの強い濃い顔がめちゃ私好み。

「ドリンクお持ちしましたー。遅くなってすみません。」

今日は土曜日で人気店だけあってかなり忙しい様子。

「かんぱーい!」

皆んなかなりお酒好きな様子だ。

私以外はビールで…私はサングリアで乾杯した。

昔からビールだけは何故か苦手だ。

皆んなかなりのハイペースで次々グラスを空けていく。

「ねぇ、のんちゃん。ワイン、ボトルで頼もうよ。赤、白どっちがいい?」

とトモさんが聞いてくれた。

「赤…。」

と私が答えた。

「赤かぁー。実は俺赤飲むとすぐに酔うの。」

普通なら、じゃあ聞くなよ!って思う所だがトモさんに関してはそれはない。むしろ可愛い。もう何をしても何を言っても可愛い。

「実は私白の方が飲みやすくて好きです。なんで赤って言ったのかな…。」

と訳の分からない事を少々焦り気味に言った。

「のんちゃんは優しいね。」

とトモさんが私の顔を覗き込みながら言った。

あー…もう…私はトモさんの僕になりたい…。

気付けば皆んなかなり飲んでいた。

私以外は皆んな明日休みらしい。

「次どこいくー?」

「カラオケ?」

皆んな楽しそうに盛り上がっている。

「のんちゃんは行かないの?」

とトモさんが聞いてくれた。

「明日は仕事で朝早いんで今日は帰ります。」

と私が答えると

「今度ご飯行こうよ。ゆっくり色んな話ししたいな。」

とトモさんが誘ってくれた。

「ぜひ!いつでも大丈夫です!」

と答えて連絡先を交換した。

「ネガティヴ感半端ないな。」

私の方を見てアイツがボソッと呟いた。

あいつ!やっぱりあいつ!思った通りの奴!人を馬鹿にしたような見透かしたような目付きと態度。

ダイは苦手から一気に大嫌いになった。

けど今の私はトモさんとの未来の妄想で頭がいっぱいだし胸がきゅんきゅんだ。

「のんちゃん、またね。」

私の頭をトモさんが撫でてくれた。

私は余韻に浸りながらゆっくりと歩いて行った。

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