第418話 それはおよそ戦果と呼べるものではなかった

 各地区から送られてくる戦況報告に、目をとおしていたヤシナ・ミライは眉をひそめた。

 それはおよそ戦果と呼べるものではなかった。

 とてもこれをカツライ・ミサト司令官にそのまま伝えるわけにはいかない。


 今回見つかった魔法少女によると推察される死体隠匿エリアは、北半球だけでも数百ヶ所に及んだ。そのなかでも特にクラスターとなりうる大都市を重点的に攻める方向でまとまり、金田日がピックアップした主要都市36拠点に各国軍と国際連邦軍の各国支部の兵士をむかわせた。

 だが、そのうちの15拠点で魔法少女の急襲を受けていた。


 まず最初に部隊が全滅させられたのは、中国の東の街、東京トンキンだった。ここは約三百年前までは『統一朝鮮』と呼ばれた国の首都であったが、第三次世界大戦で中国に併合されると、日本への挑発の意味を込めて、日本の首都を思わせる紛らわしい名前に改名させられていた。

 その次にもたらされたのは、ドイツの街ベルリンの拠点での任務にあたっていた部隊の全滅で、そのあともかんばしくない報告がつづいた。重苦しい空気が司令室によどみはじめていたが、七ヶ所目にしてやっと朗報がもたらされた。

 ミライは声をはずませて、その報告を読み上げた。


「ニューヨーク、ソーホー地区、アメリカ陸軍第二大隊、魔法少女殲滅せんめつに成功しました!」

 とたんに司令室内に歓声があがった。安堵感が広がる。

「駆逐した魔法少女の数はおよそ200体。ただし200人が戦死、残ったのは大隊を率いたスージー・クアトロ中佐以下、わずか40余名だそうです」

「勝ったといっても、損害が多すぎるわね」

 ミサトが失望をあらわにした。

「ミライ、その隊長にくわしい戦況をヒアリングして。このあとの戦闘に役立てたいわ」

「いえ、それが……。一命はとりとめられたのですが、スージー・クアトロ中佐は戦闘中に、頭蓋骨陥没や胸骨の骨折等を負われまして、現在治療中です」

「脳がやられたの?」

 ふいにレイがミサトとの会話に割り込んできた。

 また……。

 以前にもおなじようなことをされて、意趣返しのせっかくの機会を邪魔された——。

「レイ。脳には異常がないとのことよ」

「だったら、ラピッド・ヒーリング(迅速治癒)装置で急がせば、なんとかなる」

「この隊長はアメリカ国軍隊の所属なの。こちらから勝手なリクエストはできません」

「だったら、戦闘データは見られないの?」

 引き下がろうとしないレイに思わずため息が漏れる。


 ミライはミサトのほうに顔をむけると、助けを求めるような目で尋ねた。

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