第406話 フリートウッドの呪い
『フリートウッドの呪い』——。
その部屋に収納されたもののは、数百年前エジプト王の墳墓を暴いた調査隊員が次々と謎の死をとげたという逸話になぞらえられて、そう呼ばれていた。
ロンドン・ウエアハウス社に勤務する警備員のアブドゥルは、そのような迷信がかった話は信じていなかったが、田舎街の倉庫の一角に隠されていた死体を発見した刑事が狂い死にしたとか、事故死をしたと知ればあまりいい気はしない。
その『墓』であばかれた現代版ミイラは、ロンドン警視庁管轄下で徹底的に調べられたのち、このロンドン・ウエアハウス社の倉庫に移送され、ふたたび
この倉庫が選ばれたのは、ほかの倉庫と異なり、どんな瑣末なものでも単品管理できる点だった。ここでは一個一個の個体に生体チップがとりつけられ、すべての個体をカメラで監視している。そしてそれをAIシステムはもちろん、常駐された警備員による目視によって点検するという念のいれようだ。
そのためアブドゥルが警備の任に就くと、自動的に『網膜スクリーン』にこれらの監視映像が送られてきて、いやでも見せつけられるはめになる。
それは引き出しのなかに収納された個体を、カメラが順繰りに表示していき、一時間で一順するというプログラムだ。この周期が終業まで続く。
この『フリートウッドの呪い』案件は、ほとんどが人間の死体だったが、バラバラになった部位もおおく、それらも自動で繰り返し映し出される。
二人一組で警備につくため休憩中は映像は流れないが、当初は目を
「そりゃ、職を創出せにゃならんからでしょう」
いつもパートナーを組むイギーがへらへら笑いながら言ってきた。
イギーとはこの議論を嫌というほどしてきたが、勤務中はほかにすることもないので、日常会話がわりにこの話を蒸し返しては楽しんでいる。
「だけどこんな仕事、誰が申し込むんだ」
「アブドゥルさん、この仕事案外人気あるんスよ。体を動かさなくていいし、ただカメラの映像を見続けるだけなんスから」
「そいつら、その見続けるだけが、どれほど苦痛がわかってないんだよ」
「ま、そうっスね。ぼくもまさかこんなんだとは……」
「いや本来は希少な生物や植物を監視するんだが、まさかこんな気色の悪いモンを押しつけられったぁ、夢にも思わなかったぜ」
「でももう馴れたっショ」
「ん、まぁな。最初の頃は目ぇ
「今じゃマスコットみたいに、愛称つけて……」
その時、網膜スクリーンに黒人女性の体が映しだされた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます