第370話 その計画に見合うものが得られるのか!

 どこをどうまかり間違えれば、そのようなばかげた提案がでてくるというのだ——。

 ウルスラ・カツエ大将は『世界中の電源を一瞬だけ切断できないか』という提案をミサトに聞かされ、怒り狂うような気持ちだった。だが、そんな感情にまかせて粗暴な振舞いをするかわりに、片方の眉根を軽くあげてみせた。

「それで?」

 ミサトはその反応にカチンときたらしい。こっちは女の特権とばかりに感情をむき出しにしてきた。

「それで、って……。カツエ。こっちもむちゃくちゃ言っているのは承知しているわよ。だけどね、もう一体いるかもしれない亜獣をあぶり出すのにはそれが有効だって。亜獣の専門家二人が言うから……」 

 そう勢いよく啖呵たんかをきりながらミサトは、自分の背後に控えていたエドと金田日を指さした。この上なく緊迫感が張りつめた状況で名指しされて、ふたりとも萎縮いしゅくしているのか下をうつむいていた。

 金田日は今回も『素体』に憑依ひょういしてきていたが、そのまま逃げだしていくのではないかと思えるほどおどおどしてみえた。

「そうなのかね?」

 金田日がおずおずと顔をあげて、ウルスラの問いにこたえた。

「あ、はい。あ、いえ。わたしはもう一体亜獣がいるなんて思っていません。あくまであの魔法少女はイオージャに付帯するものだと。ですがその確証を得るには、世界中の電源を一度切るというのは有効かと……」

「持論の正当性を証明するためだけに、そんなことができるとでも?」

「あ、いえ。元々は草薙大佐の提案なんです」

「だれの発案かどうかは訊いていない!。これだけの世界的重大プロジェクトに見合うものが得られるのかと訊いている!」


「得られます」

 押し黙っていた亜獣の責任者エドがふいに力強く断言した。

 その自信に充ち満ちたひとことに、思わずウルスラは目をむいた。エドという男は亜獣対策の責任者でありながら、いつも控えめで、自信なさげで、第一人者としての矜持に欠けると聞いていたからだ。

 さらに前回のアトンとプルートゥの戦いで、亜獣の出現場所の特定を誤るという失態をおかしてからは、さらにその傾向が強いという報告もあった。


「わたしは金田日先生とはちがい、今回の亜獣イオージャとは別に、魔法少女を量産しているもう一匹の亜獣がいると確信しています。今回の亜獣イオージャはあの魔法少女がいなければ、比較的楽に倒せる相手です。ですが、魔法少女に手助けされることで、想定外の強さを獲得している。おそらくなにかしらの『共生』関係にあるのでしょう」

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