第323話 クララは前のめりでヘマをしただけ
クララがわざとらしく詫びをいれると、アスカが顔をそむけたまま、「あたしもあれと似たようなタイミングでとどめを刺そうとして、ヴィーナスの腕をうしなったのよ。まぁ、五体満足で戻ってきただけマシってとこかしら」と言った。
「まぁ、そのあとまったく動けなくなりましたから、危なかったですよ……」
クララはヤマトのほうに目をむけて、こともなげに感想を口からさらりと滑りださせた。
「でも怖くはありませんでしたわ」
ヤマトの反応を注視する。ヤマトがどう判断を下そうとしているか、その瞳から感じとらねばならない。
そのパイロットを搭乗させていいかどうかの決定権者は彼なのだから——。
クララはアスカとユウキも同じように、ヤマトを見つめていることに気づいた。クララにくだされるジャッジが、クララとおなじくらい気になって仕方がないのだろう。だが、クララはその好奇とも心配ともとれる、ヤマトへの視線の中にレイが加わってないことに気づいた。
レイは眠そうな顔を隠そうとしていなかった。あくびでもしたのか、目にうっすら涙すら浮かんでいる。
この余裕——。
レイはすでにヤマトの審判を通過したのは間違いない。
クララはうらやましい気持ち半分でレイを見つめながら、ふいにそんなことはない、ことに気づいた。
審判を通過——?。今さらレイにそんなことは不要だ。
ピンチに見舞われたとこは間違いない。だからと言ってレイが恐怖をおぼえたり、気おくれするようなことがあるわけがない。
今日のこの場は自分だけの審判の場なのだ——。緊張がつのる。
クララはすこしでもリラックスしているようにみえるような笑顔を浮べようとした。だが、むしろそれがぎこちなくみえたら逆効果だと思いかえしてやめた。
そんな心根すら見透かすようなヤマトの視線。が、レイが今度は
「タケル、大丈夫よ。クララは前のめりでヘマをしただけ。けっしてうしろ向きの気持ちなんかじゃない」
ふいにヤマトの目から鋭い光が消えた。
「そうか。レイがそう言うなら、まぁ、そうなんだろうね」
ヤマトや破顔するのを見て、クララは心の奥底でほっとする思いをかみしめた。ユウキもアスカもちらに安心したような視線を投げかけてきた。
真夜中のラウンジに安堵感にあふれたやさしい空気が感じられた。レイはそんな空気がいたたまれないように、二階の自室のほうへ去ろうとした。
が、階段を数段のぼったところで、ふと足をとめて言った。
「みんな安心して」
全員がレイのほうを見たが、レイはふりむきもせず続きを言った。
「あれだけ前向きにヘマできる人なら、みんなを巻き込まない。万が一のときも、自分ひとりだけで死んでくれるわ」
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