第186話 くっ。あちらの世界を斬らされた!
「あいつは、二体をいっぺんに相手にするつもりか?」
「たぶん、そうだと思う。おなじ立場ならわたしだってそうする。だってユウキはデミリアンに乗っているし、不利な空中戦じゃないから」
ヤマトはレイの言わんとしていることが、すぐにわかった。地に足をつけている戦いなら、デミリアンが圧倒的に有利だと、ヤマト自身も知っているからだった。
ヤマトはセラ・マーズの動きを注視した。
が、そんなものは役にたたなかった。一瞬のうちに、マーズの頭部から青い光が明滅して体表をつたわり、手のひらに光が集約したかと思うと、いきなりのトップスピードでヤマトの『壱号機』に飛びかかってきた。
ヤマトもすぐに反応した。フルスロットルで『バーニアスラスタ』から超流動斥力を一気に吹き出させると、マーズの直撃を回避しようと、格納庫の天井にむかって翔んだ。と同時に背中からレーザー・ソードを引き抜いた。
ユウキの反応も速かった。
真正面に直進していた機体を、ジャンプ一発で方向を上にむけ、すぐに上に逃げた『壱号機』のほうへ軌道修正した。セラ・マーズが飛び込んでくる。
ヤマトは巧みにレーザーソードをセラ・マーズのからだからずらすように振るったが、ユウキは空中で姿勢をゆがめて、真正面からその太刀をうけた。
『ちぃぃ……』
ヤマトのふるったレーザーソードは、セラ・マーズのからだを胸から
「くっ。あちらの世界を斬らされた!」
ヤマトは大声で悪態をついたが、『壱号機』は腕をまえにつきだしたまま前のめりでバランスを崩すのをとめることができなかった。
セラ・マーズは、腰から光のサーベルを引き抜くと、空中でからだをひねりながら、壱号機の右腕を薙ぎ払った。マーズのサーベルに一閃された、壱号機の右腕はビームソードの柄をもったまま、床にドンと落ちた。
それと同時に、ババババババっと突然、けたたましい破裂音が格納庫内に響き渡った。
レイがその隙をぬって、おびただしい銃弾を放っていた。
だが、まったくの無駄だった。セラ・マーズはからだに銃弾を受けながらも、空中で反転するなり、一気にレイの乗る『零号機』との間合いを詰めた。
銃弾は確かに着弾していた。
亜空間の力で覆いきれなかったプロテクタの一部が、消し飛んでいたから間違いない。
だが、本体を射ぬいたはずの銃弾は、すべて亜空間に抜けて、そのままどこかに消えていた。
セラ・マーズは、もう一度銃を撃とうと構え直した『零号機』の腕のすきまから光のサーベルを射し入れ、コックピットの脇を貫いた。
「レイ!」
おもわずヤマトが叫んだ。
「問題ない。ヤマトいって!」
ヤマトは床に落ちた右腕をひろいあげると、セラ・マーズの背後から、レーザー・ソードをもった腕ごと振り降ろした。
「この装置までは、亜空間の力は届かない!」
が、セラ・マーズはからだを反転させて床を蹴り上げると、その勢いのまま『壱号機』の首元に掴みかかり、格納庫の壁に押しつけた。
「レイ!。うしろから斬りかかれ!」
ヤマトはさらなる攻撃を求めて叫んだが、レイの『零号機』の機体はいつのまにか床に
「タケル、ごめん。動力伝達回路を切断された」
その時、セラ・マーズの胸元にあるコックピットのハッチが突然開いた。なかからパイロットが飛び出してくる。
『なにをするつもりだ』
パイロットは数メートル前にあるヤマトの壱号機のコックピットにむけて、おおきくジャンプしてハッチにしがみつくと、すぐに外側の開閉コックをためらいなくひねった。
ヤマトは相手のやろうとしている意図に気づいて、大きな声で「フェイス・オフ」と叫んだ。ヤマトの顔や姿を憑依させていた素体から、瞬時にヤマトのスキンが消え、元ののっぺりとしたマネキンのような姿になっていた。
その刹那、ガーンとおおきな金属音がして、外側からハッチが開いた。外から勢いよく飛び込んできたパイロットが、操縦席に座るヤマトの『素体』につかみかかる。
勢いのままにガツンと『素体』の顔に、自分のヘルメットをぶつけ、顔をつきあわせた。額と額がこすれ合う。
目の前にユウキ・アスナの顔がそこにあった。
彼の顔はヤマトの想像とはすこしちがっていた。切れ長の目に整った
ユウキ・アスナが言った。
「どこのだれかは知らないが……」
「共闘しようじゃないか?」
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