第174話 セラ・ジュピターには絶対にあのいけすかない女が乗ってる

「マーズ、ジュピターぁぁぁぁぁ!!」


 その二体の機影にはアスカもよく見覚えがあった。

 いつの間にか、ことばの端々に憎々しさが行き渡るような語気で叫んでいた。

「レイ、クロロ軍曹とクララよ」

「えぇ、アスカ、わかってる。だから簡単にはいかない」

 そのやりとりにヤマトが気づかないはずもなかった。

「アスカ、知ってるのか?」

「えぇ。いやというほどね。レイも知ってるわ」

「ええ、知ってる。私たちより成績が劣る連中」

「成績だけじゃない、片方は血筋も劣ってる。純潔率が96・9%しかない劣等生……。だからクロロってあだ名で呼ばれてた……」


「でも手練てだれよ!」


「知りあいか?。くそ、どうすればいい」

 ヤマトが俊巡する様子にアスカは苛立った。

 ここにいたってやることには一点の曇りがないはずなのに、『知りあい』と聞いただけで迷いが生じている。

 まったく男というものは……。どうしてこんなにも腹のくくり方が甘い。

「タケル、どうすればいいかって……?」


「こうすればいいのよ!!」


 アスカはそう叫ぶと、セラ・マーズにむかって機銃をぶちまきはじめた。成層圏まぎわでの機銃での攻撃は、弾が上方にひっぱられ正確な位置へいかなかったが、二体のデミリアンを両側に大きく分断させるのに成功した。

「アスカ、やめろ!!」

 ヤマトは突然の攻撃をとがめるような声をあげたが、アスカはそれに反発した。

「タケル、四の五の言わない。友軍だろうと仲間だろうと排徐するしかないでしょうが」

「ちがう!。君の相手はジュピターだ。ボクがマーズを相手する。レイ、その間に君は開いている後部ハッチから船内へもぐりこめ!」

 すぐに「了解」というレイの返事が聞こえてきた。

 アスカは返事をする代わりに、ぎゅっとスロットルを押しこんだ。背中のウイングのノズルから『超流動斥力波』が吹きだし一気に加速する。


 クララ・ゼーゼマン……。


 そう、セラ・ジュピターには、絶対にあのいけすかない女が乗ってる。

 こちらも相手のしがいがある。だが、どうする?。ヤマトは口にしなかったが、デミリアンをロストすることは望んでないはずだ。

「タケル。落とすわよ。いいでしょ」

「あぁ、パイロットごと落としてくれ」

 そのことばに、アスカはゾクリとした。パイロットを殺せ、という指示に聞こえた。

「背中に取り付けた『バーニアスラスタ』を狙え撃てば落とせる」

「タケル。それはパイロットが死んでもいいってこと?」

 アスカはタケルの命令の意図することを、再度確認した。

「あぁ。その通りだ。あの二機のパイロットがきみたちの知り合いなら、こちらの機体に乗っているのが、君たちだとバレるかもしれない」


「その可能性はできれば排除したい」


 アスカはぎゅっと心臓が縮むのを感じた。

 タケルは迷っていたわけではなかったのだ。

 さすがあたしの契約者。一片の迷いもない。

 そうでなければ。そんな男でなければ、このアスカ様に釣り合いやしない。

 

 アスカはいつのまにか、自分の口元が緩んでいるのに気づいた。

 タケルから重要な任務を授かったから?。あのいけすけない女と対戦できるから?。

 どっちでもいい。こころが弾んでいるのは確かだ。 

 

 アスカはうれしそうに言った。


「了解。生きては返さない」

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