第134話 おめでとうございます。フィールズ中将

 どれほどの……。

 そこまで口をついたが、シン・フィールズは言葉を思わずのみこんだ。

 彼の心の中に咳きあげた万感の思いは、どれだけを言葉をつくしても、どれだけ考えをめぐらせても、埋めきれるものではなかった。

 ついに亜獣をこの手で葬りさることができたのだ。デミリアンなどという異方の力ではなく、この地球で生みだされた「人間」の手による兵器が倒したのだ。

 最初の一頭があらわれてから78年目。99体目にして『移行領域』という不可侵の壁を破ったのだ。ニューロン・ストリーマーを通して、意識共有している兵士たちの歓喜の思いが、『狂喜』という熱波として伝わってくる。

「おめでとうございます。フィールズ中将」

 モニタのむこうから慇懃にブライトが祝辞を述べてきた。

 悪い気はしない。

 だが、勝利に酔いしれていい時間はここまでだ。

 自分は指揮官なのだ。兵士たちと思いは同じなれど、居住まいは正させねばならない。

「ありがとう、ブライト中将。だが、予想外に多くの犠牲がでた。我々は日本国を守るものとして被災した人々の救助をおこなわねばならない。残念だがそう長くも浮かれてられん」

「賢明な判断です。もし我々、国連軍に手伝えることがあれば……」

 フィールズは顔の前で軽く挙手してブライトの申し出をさえぎった。

「ありがとう、ブライト司令。だが気遣いには及ばんよ。こちらは一個旅団を配置しているのだ。なんとかやれる」

 モニタのむこうのブライトがサッと敬礼した。

「わかりました。ご協力ありがとうございました」

 フィールズもひさしに手をやり、敬礼をかえした。

「うむ、こちらこそ礼を言う。協力を感謝する」

 そう言いながら、フィールズは今は亡き友たちへ想いをはせた。

 加藤、相原、斉藤……。

 フィールズは先ほどまでそこに息づいていた彼らが、亜獣の力による幻影であることはもうすでに理解していた。それでも彼らとかわしたつかの間のひとときは、フィールズにとっては至福の時間であった。

 亜獣に与えられた力で得られぬ友との再会を果たせたというのに、その友の仇である亜獣を倒したことで、二度とその機会を失ってしまうという皮肉。

 フィールズは苦笑に口元をゆるめたが、すぐにぎゅっと引き結ぶと言った。

「各員、勝利の余韻にひたるのはあとだ。被災者の全力で救助にあたれ。我々は日本国防軍だ。自国民の救助を最優先としてくれ」

 フィールズはモニタのむこうに映しだされているヤマトタケルとその愛機マンゲツを見ながら言った。その表情は実に晴々としていた。


『あとは国連軍の戦士たちにゆだねようじゃないか』

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