◇交換◇
主の声と共に、円卓が光り出し簡単な図説が現れる。テーブルはスクリーン代わりになってた。
いい加減もう何が起きても然程、驚かなくなってきている。
「『交換復讐』……名の通り、復讐の交換っこをします。皆さんの復讐対象者をこの四人の中でランダムに交換するシステムです」
きっと意味があって『交換』するのだろうけど、ここは敢えてその理由を聞くべきだろうか?
「あの、なんで交換する必要があるんですか? 自分にとって憎い相手を復讐する方が、気持ちが入ると思うんですけど」
――――と、思っていたことを聞いてくれた人が現れた。
「貴方は……」
「コードネーム『ニバリス』です」
最後の一人のコードネームが明かされた。
四人とも聞きなれない名前だけど、ゲームのキャラか何かの引用かな?
調べてみたいけど、モバイル系が没収されているので、分からないままで終わるかもしれない。
このプロジェクトが終わったら、意味を聞いてみようかな――――。
コードネームの意味を気にしている間に、主とニバリスの会話は進んでいた。
「そうそうニバリス。貴方は自分の手で、敵を討ちたいのね」
「はい。出来ることなら」
「そうね……その方がやる気も出るし、成功した時楽しいかもしれないわね」
「そこまでは……」
『楽しい』――――本当にそう感じるのだろうか。
流石にその感覚には、今は理解できない。だけど実際に復讐を始めた時、アイツらが苦しんでいる様を見て楽しんでしまう自分が居たら――――。
精神的に狂っていくの――――?
改めてこのプロジェクトの怖さを垣間見たような気がする。
ずっと憎んできた相手に報復は出来るけど、自分も人として間違ったことを犯すのだ。
その覚悟を先ずせねばならない――――。
「うふふ、貴方たちの気持ちは分かるわ。でも、これはあくまでも『プロジェクト』なの。ただの怨恨だけで動いてしまったら、感情的になって冷静さも欠くと思うし、何より『証拠』を残したくないの。対象者を交換することによって、人間関係が分かりにくくしたいのよ。ご理解頂けるかしら?」
「はい……」
「他の三人……は?」
『YES』と言いなさい――――と言われているような声だった。
私も含めた三人は、黙って頷く。
「ありがとう。皆さん物分かりが良くて嬉しいです。初期メンバーは素晴らしい人材が集まりましたね」
「はい」
嬉しそうに話す主に、イワカガミさんはニッコリと微笑んだ。
イワカガミさん、主には、そんな笑顔見せるんだ――――。
私たちには能面のような表情が殆どだっただけに、軽くショックを受けてしまう。
いけない、いけない。私は『復讐プロジェクト』の説明を受けている最中なんだから、集中しないと。
二人のことは気にしないように、半ばムキになって主の声に耳を傾ける。
「ではこれからアトランダムに対象者を選ばせて頂きます。対象者の情報が分からないと復讐も出来ないので、必要と思われる情報は開示致します。それは先ほど説明した通りです」
なるほど――――そうなると自分の対象者の復讐を実行してくれる人には、出身校や地元のバレるってことなんだ。
でも、それくらいなんてことない。
お互い様だし、何よりアイツらに制裁を加えてくれる訳だから請け負ってくれることに感謝するだけだ。
「復讐方法は、それぞれの自由にしますが、イワカガミには報告をして下さい。計画性に欠けるものは却下します。実行に必要なものがあれば全てこちらで用意します。後程、情報と連絡専用のモバイルを渡します」
話は最終局面に入ってきた。本当に私たちは『交換復讐』を始めるのだ――――。
計画が具体的になっていくにつれて、高揚感が湧いてくる。
さっき主が言った『楽しむ』感覚も、あながち否定できない。
「基本的ですが、自身の身元がバレるような証拠は復讐現場に残さないようにして下さい。髪の毛も指紋も。ただ計画が成功した際には、対象者にこの焼き印を残して来るように」
「え……焼き印ですか?」
それってタバコの根性焼きとみたいなもの? そこまでやっちゃうんだ――――。
「持ち運び出来る判子サイズです。特殊な作りで、高温じゃないけど焼き印を皮膚に残せます」
「これですか……」
イワカガミさんが焼き印の現物をそれぞれに配ってくれた。
皆興味深々で、焼き印を確認する。
蓋を外すと自然と発火するようで、徐々に赤くなって刻印部分に花が現れた――――。
「蓮?」
アジア雑貨とか写真でみたことあるような、『蓮』花が彫られていると思ったら――――。
「睡蓮」です。
イワカガミさんが即答で、訂正してきた。
「あ、睡蓮なんですね。なんか可愛いですね」
「これが復讐完了の証になりますので、お忘れないように……」
「はい……」
主に見せた笑顔はどこへやら、一段と冷たい声で念押しされる。
「それと四人の顔合わせは、今が最初で最後です。お互い何か伝えておきたいこととかあるならどうぞ」
「最初で最後なんですか?」
「えぇ、元々知らない者同士。今後も関わる必要性はないでしょ?」
言われていることは一理あるけど、これから人生を掛けた復讐をする仲間なのに、まともな会話もせずに会わなくなるのも複雑な感じがする。
それに顔合わせと言っても、顔見てないし!
自分の対象者を代わりに復讐してくれるのだから、一言なにか伝えておきたくなった――――。
「あの……」
「シスル様、どうぞ」
「誰の恨みを果たすことになるか分かりませんが、精一杯やります。辛い思いをさせられた分、絶対、必ず復讐を果たしてきます!」
つい熱がこもってしまい、らしくなく熱血な『復讐宣言』をしてしまって、言った矢先恥ずかしくなって顔が熱くなる。
皆、呆れたよね――――。
黒尽くめで肩を窄めて畏まっていると、向かい側に座っていたフリティが声を発した。
「まぁお互いのことは良く分からないけど、不幸が結んだ縁だと思ってる。やれるだけやるよ」
照れ臭そうにしながらも、気持ちを伝えてくれたフリティの言葉が、凄く嬉しい。
最初はちょっと癖があるように思えたフリティだけど、傷ついてきた分、構えていたのかもしれない。
こんな出会いじゃなかったら、もしかしたら友達になれただろうか――――。
他の二人、トリファとニバリスも小さな声で「頑張る」と言っていた。
思うことはいっぱいある。
不安も沢山ある。
だけど今はこの『交換復讐』が、私たちの生きる希望になるんだ――――。
思いの外、感動的な締め括りになったところで主が何か思い出したのか、両手を顔の前に合わせて首を傾ける。
人形みたいな愛らしいポーズに、何をするのかと皆が視線を集めたところ――――。
「あぁ一つ言い残したことがあったわ! 殺人だけはしないようにね! 後始末大変だから……」
主は最後にそう言って、ニッコリと可愛く微笑んだ。
本当にこの『
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