【八木敏和】20




 付き合った理由を聞かれたら、僕は「なんとなく」と答えるだろう。そしてそのあとに「理由なんてないから、彼には聞かないでほしい」と続けるのだろう。

 彼が僕と付き合った理由は、きっと僕が一番よく理解していたから。彼が、僕の向こうに見ていた相手のことなんか。この恋が始まる前から知っていた。

 だから。

 別れた理由を聞かれたら、「それが空しくなったわけではない」という、その一言だけは伝えたい。

 

 けれど僕は、その一言さえ、貴方に告げないで行ったんだ。



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