車では窓際に座りたい―リベンジ

 運転席にはリーネアさん。

 助手席にはオウキさん。

 助手席の後ろの席はミズリさん。

 その右隣の席は翰川先生。

 運転席の真後ろは俺の席。

 ミズリさんの後ろの席は三崎さん。

 翰川先生の後ろの席は佳奈子。

 俺の後ろの席は紫織ちゃん。


 なんだかんだで、窓際に座ることができた。景色が見えてとても心地よい。

 ……よいのだが。

「ひぞれ、顔にチョコがついてるよ」

「んむ。ありがとう、ミズリ」

 真隣でいちゃつく夫婦が居たり。

「紫織、そのクッキーどう?」

「美味しいですよー」

「私にも下さいな」

 真後ろで仲良しな女の子3人組が居たり。

「父さん、札幌来るのは良いけど……」

「年頃のお嬢さんの居るところに泊まる気はないよ。近くに宿借りて遊びに行くさ」

「……ありがと」

 意外と真面目な話し合いをする親子が居たり。 

 一言でいうと――疎外感が半端ない。

「…………」

 しばらく無言でもなかを食べていると、気づいた三崎さんが同年代の会話グループに誘ってくれた。

 俺は今日から三崎さん信者になろうと思う。



  ――*――

 オウキはリーネアに断ってから、助手席で眠り始めた。

 元々、人付き合いは得意でも人慣れはしていないオウキだ。大人数と向き合うのは疲れたのだろう。

 タイミングを見計らっていた僕は、リーネアに質問してみる。

「リーネア。ネズミイルカの写真は友達に喜んでもらえたのか?」

 ネズミイルカは、世界的には飼育数の少ないイルカ。

 小樽の水族館に居るイルカさんはなかなかレアなのだ。

 しかし、ホエールウォッチングをしている人々にとっては最も馴染みがある。丸っこい鼻先の可愛らしいフォルムが好きという人は多い。

 ということで、リーネアのお友達はなかなかに『わかっている』人なのではないかと僕は思うのだ。

「うん。滅茶苦茶に喜んで発狂してた」

 さらっと言うが、リーネアの友達はみんなリアクションが過激らしいので、これが普通なんだとか。

「そうか……良かった。カメラは?」

 彼のお友達は彼の元居た世界に住んでいる。

「大事なもんだろうし、今度の里帰りの時に渡しに行く」

「それが良いな」

 あれだけカスタムしているのなら、愛着もあるだろう。

「あの一眼、けっこういいメーカーさんのみたいだったからね」

 ミズリがぽつりと漏らす。

 僕の夫はカメラマニアで、状況に応じてレンズを取り換えたりしてあれこれ撮影をしている。その腕前はかなりのものだ。

「ふうん。じゃ、向こうの技術も捨てたもんじゃないってわけか」

「キミはあんまり興味がなさそうだものな」

「うん。『爆発光を綺麗にとれるカメラ』とか『暗闇でスコープ代わりになるカメラ』とかそういうのばっかり売ってるから胡散臭くて」

 相変わらずさらっととんでもないな。

 昼寝しているのかと思っていたオウキがくすくすと小さく笑っている。

「寝てていいのに」

「楽しそうに話してるからね」

 仲のいい親子だ。微笑ましい。



  ――*――

 車のトランクは涼しくて好きだ。

 ”貯蔵庫”に体を引っ込めて出口だけ現実世界につないでいる形なので、車内の会話や物音は聞こえている。

 かまぼこを食べながら耳を傾けると酒が捗って良い。

 妻や子どもたち、友人やきょうだいたちへの土産もたくさん買えた。

 今回の旅行は非常に満足のいくものだった。

 嫌がるリーネアを裏切る形でひぞれの味方をしたが、自分の判断はやはり間違っていなかったと思う。

 生徒たちがそれぞれで良い経験をしたようだし、ルピナスはルピネと二人きりでバスに乗り込む姿が凄く幸せそうだった。

 リーネアに追い打ちをかけたことはそれで帳消しにしてほしい。オウキに謝罪しておこう。

 あとは。

 ……あとは、リーネアがオウキと話すことだろうから、俺の手出しすることではない。

 家に帰ったら妻と話して末っ子たちと遊ぼう。

 楽しみだ。


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