路傍のノート
@seizansou
路傍のノート
幼い頃、近所の友達にいじめられていました。友達、だったのでしょうか。
小学生の時、好きな子に告白したことをばらされ、ずっとからかわれていました。
運動は苦手でした。足が遅くていつも一番最後でした。
勉強は、小さい頃はできていたと思います。でも、中学の中頃からついて行けなくなりました。
高校は私立に入りました。兄は公立の優秀な学校に通っていました。家族の会話は少なくなっていったと思います。
高校二年の頃、父が失踪しました。家族には五百万の借金が残りました。高校を中退して、アルバイトをたくさんしました。要領が悪く、どこで働いても、くず、のろまと言われました。
成人式には行けませんでした。行くお金がなかったというのが実際の理由ですが、内心では行かなくて済んだことにほっとしていました。
二十一歳の頃、自宅アパートの屋上から飛び降り自殺をしました。私は全治三ヶ月の怪我で済みました。私の下敷きになった兄は下半身が動かせなくなりました。一生治らないとのことでした。泣いて謝る私に、兄は何かを言いました。その言葉は覚えていません。あまりにショックで、その時に事はよく覚えていないのです。
二十四歳の頃、母が過労で倒れました。数日後、亡くなりました。入院費と治療費で更に借金がかさみました。なぜ葬式をしないのかと問い詰められたのは、更に数日経ってからでした。親不孝者、と言われました。
兄も死にました。私が兄に頼まれて、あるブランドの服を差し入れました。私が帰った後、兄はその服の装飾の紐を解いて、ベッドにくくりつけ、首をつって死んでいました。
兄が入院していた病院で、兄の死を知った帰り道、複数の若い男に囲まれて、殴られたり、蹴られたり、何か硬いものでたたかれたりしました。男というよりは少年と書いた方が正確なのかも知れません。私は今、路地裏のゴミ捨て場に放置されています。
少し目がかすれてきました。立ち上がることはできそうにありません。喉を逆流してくる血で呼吸が上手くできません。
今この文章を書いているノートとペンは、今私が倒れているゴミ捨て場にあったものです。
私には、私のことを良く知る人がもういません。
そのことに思い至ったとき、それがとても悲しく、どうしようもなく耐えられませんでした。
それに対して、こうやって書き残すことにどれだけの意味があるのかはわかりません。
ですが、もし誰かの目に止まったのなら、それは私という人間がいたことが、誰かの意識に一瞬でも残せるのではないかとも思うのです。
もうペンを持っていることができなくなってきました。
最後に何か、自分の人生を振り返った一言を書いておこうと思います。
とはいうものの、難しいですね、すぐには浮かばないものです。
ですが、まあ、そうですね、幸せでした
路傍のノート @seizansou
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます