第7話 全ての事象が必然か偶然か-2-
1、において私は「偶然は、何がしかの決定をもって必然となる」と記した。今回はその部分について思うことを書こう。
ここで言う「決定」は覗くに値する井戸である。それをただ「決まる」「ある過程の終わり」とするには、どうも味気ない。
ここで私の脳裏を掠めるのは、「観測者」という言葉である。大して知りもしないシュレディンガーを安易に一部拝借する罪をお許しいただこう。
まず、観測者が同時に「体験者」である説(これは私の思考を簡略化させるための造語である)を考える。すなわち、それが我々のような思考、感覚を持つ人間、または生物の場合である。
A.我々はあらゆる過程の中で、偶然にも必然にも思える物事を経過しながら、ある一定のピリオドをもってそこに一つの「終末」を見出す。その瞬間、当人にとっての「結果」は訪れる。
この一連の流れが、1で記した「偶然が必然へと変化する」動きを指す。
さてここで重要になるのは、「結果」が例え必然であろうと偶然であろうと、それが体験者個体の感情や思考によって「どうとでも観測できる」点にある。…私の苦手とする例を一つ作り上げてみよう。
例a.私は死んだ。(体験者が自らの死を観測する)
→私はまだ死ぬべきではなかった。これは偶然である。
→私はいずれ死ぬ。これは必然である。
死んだら観測できない、という説は今は置いておこう。あくまで例は思考上の仮定の話である。
少々暴論やもしれないが、一つの事象が観測者の解釈によっていくらでも「偶然にも必然にもなる」ことは掴めるかと思う。…といっても、何を当たり前なことを、と仰られることは百も承知であるが。当たり前なことを少々分解したのは、次の説を考えるに際して、比較対象を明確にしたかったがためである。
では、本題に入ろう。
今度は、「観測者」が「完全に体験者ではない」場合を考える。ここで「完全に」と付け加えることには、重要な意味がある。すなわち、「観測者は体験者になり得ない完全な第三の目」であることを前提とした説を話す。前例との対比で思い描いて頂きたいが、私がここで想定する「第三の目」は、感情、感覚、思考を持たない、またはそれを完全に超越した概念、のことである。実例を挙げれば自然、神、統計的情報、などがそれにあたる。
ここでまず、前例のAの視点を変化させ、書き換えよう。起きた事象そのものは全く同じものとする。
B.あらゆる過程の中で、数々の物事を経過しながら、「第三の目ではない何者か(Aでいうところの体験者)」は一定の終末へと辿り着く。「第三の目がそれを観測した時、それは結果になる」。
ちょっとコーヒーブレイクをしよう。私の脳は混乱している。
…さあ、続けようか。
BとAの違いは明確である。一切の「体験」が省かれている点と、「結果の観測」が「完全に観測者に委ねられる」点である。ここでは体験者がどう感じ、どう思考したかは一切問題にならない。つまり、Bの文中の事象からはあらゆる意味で完全に思考が排除されている。
これに基づき、例aと同じ事象を処理してみよう。
例b.私は死んだ。(観測者が体験者の死を観測する)
→「彼」は死んだ。
実にわかりやすい。この仮説の上では、「ただ情報しか残らない」のである。そこには脈絡も、感情もない。ただ、「それがそうなった」だけである。
ここまで来て前章の1を引っ張り出す面倒臭さをお許し願いたい。1で私は偶然に関して、「『そうであるべき』の否定」と仮定した。それを例bと照らし合わせると、ある事柄が見えてくる。
すなわち、「第三の目を観測者とした世界では偶然と定義できる事象が存在しない」ということである。
これは、観測者が「否定を行わない(思考、感覚を持たない)第三の目である」ならば自ずと辿り着く結論と言えよう。私の仮定に基づくならば、と付け加えるが。
ならば必然は?となるのは自然な流れだ。もう一度掘り返そう。1で私は、必然を「そうであると決定された事象」と仮定した。
ややこしくなるが、端的に言うと、私は「第三の目が観測者とした世界では必然と定義できる事象は存在する」と結論する。もう一度注意を促そう。「観測者は第三の目であり、それは感情、感覚、思考を持たない、またはそれを完全に超越した概念である」。であれば、観測者はある事象に対し、「偶然とも必然とも結論付けを行わない」。
つまり、「否定が必要な偶然は定義できないが、『決定された』事象である必然ならば観測が可能である」ということになる。
事象が「観測することでのみ存在できる」とするならば、これは言い換えることができる。
「第三の目が観測者である世界ならば、必然以外は存在し得ない」
…存在しない、としなかったのは偶然が存在しないのであって、必然が存在するとも言い切れないからである。
………………
少々疲れた。煙草でも吸おう。
お付き合いいただいた皆様、稚拙な仮定に次ぐ仮定の思考実験で疲れさせてしまったなら申し訳ない。また続きはどこかで記すつもりである。…
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