現実逃避の町

@nerura

第一話 どうしようもない落ちこぼれコンプレックス


その日、僕はいつもの様に疲れはてていた。

一日の仕事を終え家に帰りつくと、ご飯を食べる気力もなくベッドに飛び込んだ。お腹はぎゅうぅと鳴ったが、これから台所に立つ気力はなかった。


現状はお先真っ暗と言ってもよかった。毎日安い給料を貰っては、必死で働きすぎて心にユトリというものがない。周りが見えないから要領は悪く、思考は何時だって真っ白だし、反省しようにも何も覚えていないのだ。これでは成長しようがない。

現状を変えたくともその術も見つからず、少ない実入りを一時の娯楽に使い日々を凌いでいる。もとより努力をするのは苦手な方だが最近では益々もってやる気もおきず惰性的であった。

自己の評価は「愚図」で「愚鈍」、「頭が悪く」「卑屈思考」で「計画性がなく」て「兎に角駄目」なのだ。簡潔にいうと「駄目人間」である。



項垂れていると、また、ぎゅうぅとお腹が鳴った。

はたと思った。

現状は「お腹が減っている」のである。

能弁垂れて、項垂れて居ても料理は出来ない、腹は膨れない。


さっきまで散々「現状」の話をしていたが、それではお腹が減っているという現状は解決しないのだ。僕の思考は現実逃避である。

今すべき事を見失っている、考えたとこでどうしようもない事だ。

それは鼻唄に似ていて、無意識にどんどん漏れだしてはくっついたり組上がったりして積乱雲のようにもくもく成長して行く。気付けば巨大なビルディングになっていて人まで住んでいる有り様だ。


僕は現実的問題として「自分の心をボコボコに叩きのめすのと、空を自由に飛びたいと考えるのは同じ次元の思考である」という事実に直面し、僕の背後には思っていたよりも沢山の思考が建造されているのならば、もっと楽しい方が良いのにと思った。

人の思考はその大半が存外下らない与太噺なのかもしれない。きっと下らない思考はあちこちで組上がって、立ち上がって、やがて摩天楼の大都会になるのかもしれない。


それを僕は現実逃避の町と呼ぼう。

僕はお腹を満たすために、カップ麺に注ぐ湯を沸かし始めた。




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