Anotherstory 恋する牡丹の小さな思い

私、鬼灯牡丹は昔から気が弱かった。


自分から意見が言えず、人の言われるがままに動いていた。


体も小さいし、声も小さい。運動もできないし勉強もそこそこ。取り柄もない私は、常に人の影に隠れているだけだった。




その日も、放課後の教室の隅っこで本を読んでいた。


「ねーあんた、一人で寂しくないの?」


そんなときに、急に一人の女子が話しかけてきた。


私と同じぐらい体は小さいが、声が大きく自分の意見もハッキリ言える。そう、皐月ちゃんです。




「別に………寂しくなんかないですよ」


「うわ!声ちっさあんた!」


はじめの頃は声が小さいことを茶化された。でも、悔しくは無かった。だって事実なのだから。




「そう言うあなたこそ、なんで一人なんですか?いつもの人達と一緒じゃないんですか?」


「ああ、いつもの奴らなら皆休みよ。インフルエンザかかっちゃった」


5人くらいがインフルエンザ………それは大丈夫なのだろうか。


「というか、なんで私達のこと知ってんの?もしかして、いっつも見てたの?」


皐月ちゃんは意地悪そうに笑う。だからか私はムッときてしまった。


「別に………あなたには関係ないですよ」




我ながらひどい言い方をしたと思う。誤魔化すためとは言っても、もう少しマシな方法があっただろうに。


「なにそれ?変なの」


そう言って皐月ちゃんは笑う。何が面白いのだろう、私には理解ができない。




「さーつーきーちゃーん遊ぼ!」




どこからか声が飛んでくる。


「うーん!今行く!」


皐月ちゃんはどっこいしょと腰を上げ、グッと伸びをする。


「あんた、名前は?」


「…………へ?」


「な・ま・え。なんて言うの?」


一瞬戸惑った。今まで名前を聞かれた経験などあまりなかったから。




「牡丹………鬼灯牡丹です」


「鬼灯?変な名字。それじゃ、また明日!」


そう言って皐月ちゃんはかけていく。


「そっちこそ………変な名字ですよ………七竃皐月って」


私は人の名前を覚えるのは得意で、『七竃』なんて聞いたことがなかったからよく覚えていた。


私はまた一人になって、仕方がなく帰宅した。






次の日。私はまた教室の隅っこで本を読んでいる。


今日はインフルエンザで休んでいた人達も何人か来たから、皐月ちゃんは来ないだろうと思っていた。


「やっぱり。また一人で本読んでんのね」


私は驚いた。そして、なぜまた皐月ちゃんが来たのかわからなかった。


「今日ね、他の皆一応って言って帰っちゃったのよ。だから暇だったの」




そう言って皐月ちゃんは私の隣の席に座る。


「…………私といたら。もっとつまらないですよ」


何故かわからないが、そう言ってしまった。皐月ちゃんは驚いているのか大きく口を開いて。


「あんた何言ってんの?」


「………え?」




皐月ちゃんは『何だこいつ』という目で私を見ている。


「………だって、私と居ても面白いことできないし。運動もできないし………一緒にいていいことなんてありませんよ」


何故か私は皐月ちゃんに正直に話してしまった。久しぶりに学校の人と話したからか、理由はわからない。


「…………やっぱりあんた、バカじゃないの?」


「………へぇ?」


バカと言われ、流石に私も腹が立ってくる。




「別に、私が誰と居たって私の勝手でしょ?それに………わたしは……仲良くなりたかったし………」


最後の方はゴニョゴニョ言っていたが、私にはバッチリ聞こえた。


それを聞いて皐月ちゃんの顔も、私の顔も赤くなるのがわかる。




「………わたしでも、いいんですか?」


「………うん。むしろ、おねがい………します」


「ふふ………なんて敬語なんですか?」


急に敬語になった皐月ちゃんに、私の方が笑ってしまう。


「う!うるさいわね!あんたも本ばっか読んでないで遊ぶわよ!」


そう言って皐月ちゃんは私の手をとって走り出す。


「あわわ!?皐月ちゃん、引っ張らないで!」


そして、私と皐月ちゃんは目一杯遊んだ。






これが私と皐月ちゃんの出会い。


それからは中学・高校と同じところへ行き、とても仲良くしていた。


今考えれば、もともと皐月ちゃんは私と話したかったんだと思う。


二人で文化研究部に入って、いろいろな人に出会った。


笑顔が素敵でよく話す茜さん。


優しくて母性あふれるお胸の楓さん。


かっこよくて頼りになるけど性格が曲がった正木先輩。


頭が良くてしっかり者の梓さん。


皆、私の大切な先輩であり、仲良しな友達だ。




けど、この前皐月ちゃんと喧嘩をして悟った。


皐月ちゃんも、正木さんが好きなんだ。


私は正木さんが好きなのを自覚している。


だから皐月ちゃんにバカにされていたとき無性に腹がたった。


でも、そのときに気がついた。


皐月ちゃんは、自覚してないけど正木さんが好きなんだって。


それからは、気持ちがモヤモヤしてた。


皐月ちゃんの恋を応援したい。けど、私の恋は枯らしたくはない。




気持ちがグチャグチャなときに、私と正木さんとで街へ遊びに行った。


勢いで誘ってしまい、少し後悔していた。


どうしよう。と考えていたが、正木さんに頭を撫でられてどうでもよくなった。


いや、決心した。


『自分に正直に生きよう』そう思った。


皐月ちゃんが自分の気持ちに気づいたとしても、この恋をおろそかにはしない。


皐月ちゃんや茜さん。楓さんや梓さんが立ちはだかっても、倒してみせる。


そう決心した。




皐月ちゃんの先を越し、頭を撫でてもらえる権利を獲得して喜んでいた。


しかしその幸せもすぐに動揺に変わった。


皐月ちゃんも、頭を撫でてもらえる権利を獲得したのだ。


けど、まだ同じ土俵に立ったばかりだ。


先にスタートした分私の方がまだ有利だ。


しかし、それもすぐに同じになる。


だから、私は正木さんへの恋の攻撃は止めない。


皐月ちゃんは親友だ。だけど、恋のライバルでもある。


油断はしない。どんなに先を越されても、最終的には私が勝ってみせる。




私はそう決断した。

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