第16話 少し

エントランスへと向かう通路を歩く四人。その静寂を破ったのは、はしゃいだ大石の声だった。


「なあ、これおれら有名人になってるってことねえかな?」


「あー・・・いや、ねえな」


「は!?なんでそんな簡単に言い切れるんだよ!」


「まず一つ、有名人になってるっていうことは最初の方に救助されなきゃいけない そして二つ、おれらは最初に救助された訳ではないと思う」


「なるほど、言いたいことは理解しました」


「さすが博士 物わかりがよくて助かります」


「なるほど、言いたいことが理解できません」


「お前はそうだろうな おれはこの仮説には結構自信あるぞ」


「ほお?じゃあ賭けようじゃねえか?」


「望むところだ 勝った方は『トリュフのキャビア載せ~フォアグラを添えて~』を奢ることな?」


「やってやるよ!お、エントランスに出るドアが見えてきたぞ!」


そう言うと大石は駆け足ぎみにドアへと近づいていく。それを追って深川は控えめに追いかける。ベルとその助手グラスはまるで小さな子供を見守るかのような目でゆっくりとついていく。



ドアが開く。


そこには、両サイドにカメラが並んでいて、最初大石の目は勝ちを確信していた。


が、


「ベル博士!お待ちしておりました!どうぞこちらへ!」


「スタジオへお願いします!」


「ベル博士!」



大石が、フリーズする。


「なあ・・・これ・・・・・・なに・・・?」


深川に小声で話しかける。


「お前の予想が半分当たって半分外れた、って感じだな」


深川も小声で大石に返す。


「まあ『おれら』は当たってたけど・・・こっちは?」


「こっちは・・・完全に無視されてるな・・・」


ベル博士、そして助手のグラスだけが囲まれ、記者達の手によって大石達との間に壁が作られていた。



「・・・何事か分かりませんが、」


ベルはそう前置くと、


「先約がありますので、今回のところは失礼させていただきますよ」


そう言うと記者達の壁を崩しながら大石達の方へと向かっていった。


「ベル博士!?」


「待ってください!少しでいいので・・・!」


そんな記者達の声なんて聞こえないように優雅に、


「さ、行きましょうか」


と大石達を促した。


「え・・・いいんですか?」


と大石が驚くと、


「世の中の『少し』ほどあてにならないものはありませんから」


と言って涼しい顔をしていた。


「ま、いいじゃん!そんな色々考えるなって深川!ハゲるぞ!」


「・・・あ?ハゲるは余計だろうが・・・」


「いやいや、大事なことだ」


「なにをどうしたら大事なんだ」


そう言ってため息をついた。


「さ、こちらの店でよろしいですかな?」


そう言って指を指したのは、喫茶店だった。


「ほへー・・・おれ初めてだ」


大石が気の抜けた顔で呟いた。


喫茶店のドアが開けられ、グラスがタッチパネルを操作し、


「こちらだそうです」


と言って他の3人を誘導した。


入口から左に曲がり、2つ目にあるドアを開けると、グラスが紳士的な立ち振舞いで中へと案内した。


「おーかっけえ!」


レトロな家具が並び、間接照明で照らされた室内に入ると大石が声をあげる。


「喜んで頂けたようで」


「そりゃこんなとこ、なかなか来れないっすから!」


大石の言葉にベルが笑顔を浮かべる。


「なにを頼みますか?」


グラスはドアの横にあるタッチパネルのそばで待機している。この店は完全に無人で、ロボットが全ての作業をしてくれるので店員はいない。注文はタッチパネルから行い、出来上がるとテーブルの中央からその品物が出てくるようになっている。


「ここの料金は出しますから、好きなものを頼んで下さい」


ベルのその言葉に大石の目が輝く。


「じゃあ・・・『スイーツプリンアラモード』トッピング全部のせで!」



もちろん、深川に変更を指示され、トッピングなしになった。

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