第12話スーサイドー12

ログハウスで眩しい光に目を瞑る。

俺達の周囲の空間が歪むのを感じた。

異世界へ飛ばされた感覚に似ている。


空間が安定したのを感じて声を出す。

「フィル!ルティ!いるか?」

「はい!主殿!」「キュイ!」

フィルとルティも無事だ。


安心して目を開けて周囲を見渡すと

最初に召喚された白い部屋。


目の前に対になるように置かれたソファーと

真ん中に同じ幅の机。


その先に8個の上下に設置されたモニターが

ある机と後ろに大きな本棚。


そして机の右横で床に正座する

男の子と初老の男性。

説教している後ろ姿の坂口先生。


・・・なんでまた説教してるんですか?


二人は正座から土下座へ

流れるように変化する。


・・・綺麗な動きの流れだ。

何度もしているな…


つい感心して見てしまう。


まだ気づかれずにいる俺達は

黙って説教風景を見て待っている。


沈黙していたフィルは

目の前の光景に耐えきれず

俺に小声で話掛ける。


「主殿?あれは・・・土下座ですか?」

「ああ、土下座だ…」

「キュイ?キュゥゥゥン!!」

「感動です!主殿!!主殿の文化に

触れる機会が訪れるとは!」


「ああ…そうだな…」


フィルとルティは目の前の光景

(説教される二人の土下座)に感動している。

森の生活中に二匹へ俺の過去を話してる。

異世界人で地球での生活、文化、伝承など。


森での狩り生活の中、

二匹にとって唯一の娯楽だったのだろう。


幾ら弱肉強食の世界で生き抜く力を得ても

産まれてまだ一年経ってない。

知能は子供なのだ。


たまに日本や世界の昔話、

現在の創作話を話すと嬉しそうに話を聞く。


もちろん現在風に脚色された昔話だ。

原作は痛々しく醜いし色事を含む。


まだ二匹には早いので頃合いを見て

話す事にしている。



「ごべん…なざい…ごべんなざい…」


「謝るぐらいなら最初から考えて

行動しなさい!

泣けば許されるなんて思わない事!

大体隣の貴方も貴方です!

幾ら可愛いからと甘やかしてるから

こんな事になるのですよ!

優しさと甘さは違うんです!」


「仰る通りで返す言葉がありません…」


「先生はいつまでも貴方達の世話を

していく訳ではないのですよ!

まぁ、まともな管理者となるまで

教育しますのでしっかりしてください!

さぁ立ち上がってトキ君を迎えますよ!

涙顔で会うつもりですか?

ハンカチ渡しますので拭いてください!」


坂口先生は2人の肩を叩き

スカートからハンカチを2枚

取り出し2人へ渡す。


「「坂口先生…」」


2人は顔を上げてハンカチを貰い、

顔を拭いて

決意に満ちた目で先生を見る。


「うん!それで良いのです!」


・・・何を見せられてるんだろう?


疑問に思っていると後ろから

水の落ちる音が聞こえる。

振り向くとフィルとルティは泣いていた。


坂口先生の勇姿を見て泣いてるのか?


考えてるとフィルが呟く。

「土下座にハンカチ、主殿の文化を

見れて感動です!」

「キュイ!キュイ!」


・・・そっちか・・・




「坂口先生?もう良いですか?」

「トキ君!?いつの間に?」

「ついさっきです…」


声に気づいて坂口先生が振り向く。

相変わらず眼鏡姿で平均的に可愛い顔

首筋まで伸びたミディアムヘアの坂口先生。


服装は黒のセットアップスーツに

白のブラウス。控えめな体型。


召喚前から変わらない姿だ。

そして痺れた足を引きながら立つ

ナチュラルマッシュの短パン小僧と

執事服のベリーショートに

顎髭生やした男性。


「とりあえず聞きますけど

なんで怒ってたんですか?」


「・・・この子達が私に

スカートめくりを…」


「小学生か、管理者ども!!」


しょうもなさに肩の力が抜けてしまった。


「まぁ、分かりました…

とりあえずお茶飲んで落ち着きませんか?」


「そうですね…そうしますか…」


俺の部屋ではないが一服する提案して

ソファーへ移動し座る。


フィルはソファーに座れないので後ろへ

ルティは俺の隣に座る。


坂口先生は反対に座り隣に男の子。


初老の男性が3人の前に

コップに入れたお茶と

机にお茶菓子を用意し、


ソファーの後ろへ初老の男性が立つ。


ルティとフィルにも配慮して

簡易机にお茶菓子、ぬるめのお茶を入れた

飲み皿を2つ用意した。



俺は目の前に置かれたお茶を

少し飲み、話掛ける。


「さて先生、今更な話をして良いですか?」

「えぇ。良いですよ」


俺の質問に緊張した顔の先生。


額にうっすら汗を流す男の子と初老の男性。


「いい加減に話して下さい!

2人の名前は何ですか?」


俺以外同時に肩から転ける様な姿を見せた。



「主殿?それが先ですか!」


「だって面倒くさいだろ?

男の子と初老の男性なんて言うのは…」


「まぁ、そうですけど…

他に聞くこと有りますよね!」


「いや、これが1番だ!!

大体名前の無い神なんて物語に必要無い!!」


「物語って…」「キュイ…」


間違った事は言ってない筈だ。

重要そうな人物に名前無いなんて

考えられない!


話はそこからだ・・・


「・・・まぁ、トキ君の言うとおりですね…

自己紹介してないものね…

改めて行いましょうか」


白い部屋の中で全員の紹介が始まる。


地球から坂口里奈先生、斗鬼悠真。


使い魔のフュンフマーブルテイルのルティ、


グリフォンのフィル。


短パン小僧のムルエクサ、

エクサクロスの主神


初老のフラクロ、ムルエクサの従属神。


略してムルとフラ。



「使い魔のフィルちゃんとルティちゃんね!

正直何故2体いるのか不思議だったけど

ランダムペットの卵にそんな機能が

有ったなんてね?

1番驚いたのはくじ付き商品

だったって事だけどね…」


「俺も驚きましたよ…孵化したら

『当たり』、『特別賞』、

『また買ってね』で

説明書が卵から出て来るんですから…

まぁおかげでフィルとルティに

出逢えたんですけど」


坂口先生と俺は卵について意見を述べ合う。

先生もくじ付き卵なんて

思わなかったらしい。


ムルとフラもくじ付きなんて知らなかった。


「それにしても

フュンフマーブルテイルか・・・

危険度Aランクで姿変化するユニーク個体。

グリフォンも同じランクで話すユニーク個体

そしてどちらもスーサイドで育った魔物…

世に出ると凄い事になりそうですね!

先生!」


「まったくです!主様!

しかも可愛いし賢く魔物と会話出来て強い!

フィルさんの友達が狼型に熊型など多数で、

森でNo.2の強さを持つあの地竜が仲良し…

仮にこの世界の全部の国が連合して軍を

発足してスーサイドを攻めても

1割生き残るかどうか…

この世界どうなるんでしょう…」


ムルとフラはフィルとルティについて

考察する。


・・・あの地竜そんなに強いのか…


話を聞きながら地竜リケラを思い出して

お茶を飲む。


後ろのフィルは友達を誉められて上機嫌だ。


「私もこんな事になるなんて

思わなかったです…

正直、転移場所を間違えてましたから…

急いでペンを走らせて手紙を転移しましたし

本当は危険度SSの森スーサイドではなく

Dランクの森イニシャルの

予定でしたから…」


先生からの爆発発言にお茶を

吹き出してしまった。


「しかも森の中ではなく大空へ・・・」

「・・・先生?間違いでは

済まされないですよ?」


思わず怒気を発してしまった。

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