第25話 トキメキ☆なメモリアル

~ある日~

「協力しますわ」

「ええ、いいわよ」


~またある日~

「ああ、そういう事なら分かった」

「協力しよう」


~またまたある日~

「ええ、ええ。任せて」

「森田さんがそこまで言うなら自分も手伝うよ」


 一人、また一人と着実にクラスメートと交渉を続け、僕達の作戦はようやく一つの形として成立しようとしていた。


「思いの外みんな交渉に応じてくれましたね」

「そうだね。まあ元々森田さんの悪役令嬢って立場はみんなを先導しやすい立場だったんだと思うよ。一種のカリスマってやつ?」

「そんなものですか」


 目に見えない権力を振るっているようでなんだか気が引けるけど、前みたいに生気の無い目で淡々とお断りされるよりは全然いいか。


「これで大体全員ですよね」

「そうだね」

「あとは……」


 僕はチラッと彼の席を確認した。

 やはりあれから誰も近づこうとはしない。ヴァレッドは一人おとなしく学校に登校しては授業を受け帰宅する日々を送っていた。


「結局協力も何もしてくれませんでしたね」

「こっちから話しかけても毎度拒絶されちゃうしね」


 気分が乗らないと言っていたヴァレッドがその後僕達の話に耳を傾けてくれることは無かった。ただイラッとその不快感を表情に出しながら僕らを避けていた。


「でも彼以外は『不正無しでテストを受ける』という約束に同意してくれたんですし、次のテストはリリェルの純粋な実力がみんなの目に触れることになるんですよね」

「そうだね。最悪、先生もアダムス先生以外は買収に成功しているわけだし、概ね本来の作戦としては完遂してると思うよ。ただ……」

「ただ?」


 由宇さんが妙に思わせぶりに語尾を弱めた。


「気になりますね。由宇さんらしくもない。気になることはハッキリ言ってくださいよ」

「ヴァレッド君の恋愛フラグを攻略出来なかったなぁって」

「……」

「やっぱりゲーム的には親愛度をあげて、イチャイチャラブラブで下校して、最後伝説の樹の下で永遠の愛を誓うくらいして欲しかったっていうか」

「いやいいですよ、そういうのは」


 たとえここがゲームの世界だったとしても、そのゲームを攻略するのは僕じゃなくてリリェルな訳だし。いやいや、そもそもその前にリリェルとヴァレッドをくっつけるとか僕の信条に反する。


「由宇さんの杞憂がその程度なら、あとは問題なさそうですね」


 これでも由宇さんの発言には救われている。だから言葉の一つ一つに耳を傾けたいとは思ってるけど、恋愛フラグに関しては別に……いいや。


「僕はてっきり未だに魅了されっぱなしのアダムス先生の件かと思いましたよ」

「あーそれね。それは大体見当が――」

「お嬢様」

「フェルミー?」


 シオン先生の手伝いに駆り出されていたはずのフェルミーが、今日は珍しく教室に姿を現した。って言ってももう放課後だけど。


「手伝いはもういいの?」

「はい、『もうやるべきことは大体片付いたから』だそうです」

「ふーんそうなんだ」


 そう言えばシオン先生にも協力してもらってたっけな。あとでお礼しとこ。


「じゃ今日は一緒に帰りましょうか」

「はい」


 当然のように僕の荷物まで持つフェルミー。本当は自分でも持てるし別にいいんだけど、久々だしお願いしようかな。

 たった数日一緒に帰らなかっただけなのに、懐かしいな、この感覚。


「森田さん……」

「え、な、何?」


 何故そんな目でこっちを見るのか。いつものヘラヘラ顔よりもなんかこう優しくなったような。慈愛のある微笑みというか。


「ううん、何でもないです」


 敬語!? 本当にどうした由宇さん。


「ふう……さあさ、帰りましょうお二人とも」

「分かった、分かったから。そんなに背中を押さないで。由宇さんっ!」


 ぐいぐい、ぐいぐい。

 何が何だかよく分からないまま、僕達は帰路へと着い……ん?


「あれは」

「おや」

「!!!」


 ヴァレッドだ。奴がいる。

 正門の前で誰かを待ってるみたいにして立っている。っていうかこっちを凄く睨んでないか。


「おい」

 

 あ、なんかこっちに近づいてきた。

 え、何、何の用? その迫力、学園の王子様って感じじゃないよ。


「森田」

「ちょっ、ちょっと」


 突然腕を捕まれて、僕にはどうすることも出来なかった。

 

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