第10話 「ストン・ヴィラフィールド」

ビル群の中に突如現れた ザ・城。


如何にもな王城のご登場に俺はまたもやテンションが上がった。この最上ブロックの街並みはとても新鮮で刺激的だ。だが、何かもの足りなりなさがあった。


それは異世界独特のヨーロッパの街並みである。


やっとそれっぽいヨーロッパのお城....を発見したのだ。興奮するだろう?普通は。


騎士団と俺、ジムススを乗せた『ムーブボックス』はそのまま王城の入り口を通過していく。石造りの柱の下を通るのはなんとも気分がいい。わざわざ旅行をしなくて済んだな。


「ストン様 これからの王とのご対面どう思われますか?」


ジムススが謎の質問をしてきた。


そんなもの決まっているだろう。ここは異世界なのだぞ。特にこの王城はザ・異世界だっ!


「ワクワクするなっ!」


「なっ! なんとっ! 流石はストン様.... 私は緊張してもう....」


あっ! もっと気が利くことをここでは言うべきだったな。


「冗談だ....」


む..... 遅かった。ジムススは冗談だと思っていないようだ。それはあの騎士団長のジクも共感したのか、静かに頷いている。


おい 見えてるぞっ


目的地に到着した後、俺らは『ムーブボックス』から降り、騎士団の案内の元かなりの数の階段を歩かされた。


王城のくせしてなんでこんな王の間まで歩かせるの?


『ムーブボックス』使えよ!


後で『ムーブボックス』を王の間まで引いてもらえないかと考えているとどうやらまもなく王の間のようだ。騎士団達が自分達の身だしなみのチェックをし始めた。


仮にも俺らは客人なのだから、騎士として人の前でやることではないと思うが余計な口出しはしない。


像すらも入れるほどの大きさを持つ両開き扉の前まで案内されると、騎士の一人が扉を警護していた二人の内の一人に何やら囁いた。


すると、その警護の者がスッと扉の内側に消え、数秒後また扉から姿を現した。忍者のような足さばきである。


「入れ! 王がお待ちだ」


先開けてから言えよと若干不満が残ったが、数秒後、重そうな両開きの扉がガシャんっと音を立て、ゆっくりと開きだした。


開かれた扉の奥を見ると、中央に玉座が見えた。その玉座まで真っ赤な絨毯が引かれており、その左右を近衛兵達が旗を掲げてトンネルを作っている。


なんだ?凱旋式か?


なんかお偉いさんの気分になりながら、俺はジムススと共に旗の間を歩いていく。


そして空席の玉座まで到着すると玉座の横にいた神官の格好をした老人が右手を上げた。


??


なんのサインか全く見当もつかない...。


横目でジムススを見ると、片膝をつき始めていた。俺も慌ててジムススの真似をする。


これが、王への態度なのだろうか?


しばらくこのままのポーズをとっていると神官の老人が「王が参られた」と言ったので俺は顔を上げないように目だけで確認しようとした。だが、アイマスクの所為であまり見えない...。


もう少し目の部分を大きくするべきか?


「レッドサーカス団団長、ストン・ヴィラフィールド。表を上げよ」


「はっ!」


俺は言われた通り顔を上げた。俺の名前しか呼ばれなかったため、ジムススは相変わらず下を向いたままだ。


どうしよう!これからの礼儀作法を真似できん!


とりあえず今までタメ語だったが、ここはさすがに敬語だろう。


玉座に座っていたのは白い衣を羽織り、頭に王冠をつけた少し小太りの中年オヤジだった。若干だが課長の山根さんに似ている...。山根さん似でも王冠とそれぽい格好をすれば王らしくなるのだなと感心していると、


「ヴィラフィールドよ この度のバベルタワー最上ブロックでのショーは成功したようだな」


山根さんとは思えない低く、深みのある声が響き渡った。


「はい 団員とお客様のお陰でございます」


「なるほど...団員と客か... まあ良い無礼は許そう」


はっあ!? 無礼だと? 何を言ってやがるこの野郎は...


「我がバベルタワーの領地を借りていることを忘れるなヴィラフィールド」


「...もちろんでございます...」


「レッドサーカス団のお陰でこのバベルタワー内の活気が以前よりも増してきてる。これはお前達には感謝をせねばならぬな」


あれ?意外と嫌な奴ではないのか?


「ありがたきお言葉...」


「以前、お前とも話したが娯楽はこのバベルタワーにはどうやら必要なようだ。それはお前が証明してくれた。...そこでだ娯楽が必要ならレッドサーカス団だけに頼っていては良くないと思ったのでな....」


王がそこで言葉を止め、ニヤリと笑い出し、一呼吸置いてから再びしゃべりだした。


「娯楽を解放し、皆がお前達のように娯楽を提供する職業に就ける環境を作ることにした」


おお なんという事か! 自由競争を促し、より良い娯楽を提供するための法を作ったというのか! これは凄いぞ 案外この王もやるな。ライバルが現れればその分負けじと、提供する仕事の質が向上し、ユーザー側にも選択肢が増える。


というかレッドサーカス団は今まで独占状態だったということか...


それならば、あのストンの人気ぶりは頷ける。独占の場でスターは希少価値が高い。


俺は内心感心していた。


しかし、ジムススはというと全身に力が入っているのか小刻みに震えている。これは嬉しいのか?それとも?


「さらにだな、娯楽を提供するお前達はもはやこのバベルタワーで我に次ぐ有名人である。我は王なので仕方がないが、お前はただの一般人であろう。だからお前を一般人という括りではなく、芸能人という括りに分類することにした。」


芸能界デビューだっ!!


「芸能人には一般人として生活するのが難しいだろう。それはお前も日々感じてるはずだ。だが、その分公共施設では優遇されている。」


そうなのか ならいいじゃん!


「我は民の味方。お前達芸能人ばかりを特別扱いするわけにはいかない」


ん? なんか悪い流れ....


「しかし、お前達の存在も重要。それは私にも民達にとってもだ...ならば間をとって民間の報道部門を設置したのだよ。芸能人や我のような王族を第三者目線で監視する機関をな....」


「それは素晴らしい。ご自身でそのような機関を設置するとは」


俺は素直に王の考えに同意した。第三者機関を自分で設置する政治家など普通いない。ここは異世界だからだろうか。


「そうだな... だがお前もくれぐれも用心するように」


そして、玉座に座ったままの王が俺に手招きをした。何事かと不思議に思い、神官の方を見たが頷いているので俺は王の指示どおりに玉座に近づいた。


玉座に行くと、王が俺の耳に囁く。


「確かお前とは契約したはずだ.... もしも万が一にレッドサーカス団の人気がなくなりバベルタワーに損害が生まれたらお前の妻、レイを我に受け渡すと。忠告しておく。すでに解放された娯楽の舞台で暴れようとしている天才達が既に本腰を入れ始めているということを...」


このクソ野郎があ!! 狙いはレイか! やはり民のことを考えた心優しい王というのは存在しないのか...


何してくれている! このストンという野郎もそうだ。自分の嫁をかけるとは....


カリスマの塊だと思っていたストン・ヴィラフィールドだが、こいつにも何か裏があるな。


俺の眼前でニヤニヤと不敵に笑うこの王を殴り殺してやりたいが、この契約をしてしまったのは以前のストン・ヴィラフィールドであるので、俺は何も反論できずにただ睨むことしかできなかった。


なんて無力なんだ。『俺』は...。



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