第8話 「タワーディフェンサー隊」
レッドサーカス団のパフォーマンスはとても素晴らしいものだった。
異世界に来たばかりの俺にとって亜人の登場というだけでも卒倒ものなのだが、その亜人やモンスター達が舞台で様々なパフォーマンスをするのだ。心が動かされないわけがない。
エルフの空中ブランコ、サキュバスの演舞、リザードマンの水中連続輪くぐり、ケンタウロスの針山飛び、金で覆われたアルマジロのようなモンスターの上に乗った人間の玉転がし、ライオン頭の壁登りなどなど
その他のパフォーマンスも目を見張るものばかりであった。
俺はというと最初と最後にファルカと共に舞台へ登場し、観客にお礼をしたくらいか....。
あまり活躍はしていないが、俺ができる精一杯だ。許して欲しい。
とにかくだ。今回の公演はなんとか成功した。
そして、今俺たちレッドサーカス団の団員は公演終了後、亜人の石像達に囲まれたあの開けた空間にいた。ここはどうやらレッドサーカス団の控え室や準備室的なところなのだろう。
俺は皆に適当に挨拶を済ましてその場のことはボムカスに任せ、皆よりも少し離れた位置から腰を下ろし、公演終了後の達成感に包まれ、また生き生きとした団員達を後ろから観察している。
「皆は本当に凄い。本気で仕事をした者達の顔だ...」
俺は自分の保身のために今日は動いていた。だがどうだ前にいる団員達は真剣そのものだった。なんだか自分が恥ずかしくなってくる。新人社会人の頃も自分が失敗しない事ばかりを考えていた気がするな。
「これもすべては団長殿のお陰でありますよ」
ヴィンセントがいた。相変わらず俺の独り言に入ってくるのが上手いな。これからは独り言に注意しなければ...
「そうか? 俺は挨拶をしただけだ...」
ヴィンセントが俺の横に座る。
「挨拶はとても重要なお仕事ですよ。その大役をこなせるのはここの団員にはおりませぬ。確かに団長殿の演技も見てみたい気持ちがないかと言われればゼロではないですがね... しかしながら、今日の登場は一瞬で観客の心を掴みましたよ!あれは最高でした。」
壁を壊したのは俺のうえにあれを修復したのはヴィンセントだ。そして、その登場シーンを演出したのは俺ではなくファルカなのだ。
俺も何かしたい...。
純粋にそう思う。
「まあその壁を直してくれたのはヴィンセントではないか。感謝しているぞ」
「はっ! ありがとうございますっ! 自分の仕事をしたまでです」
俺はその自分の仕事すらイマイチ把握し切れていないのだがな...。
「話は変わるのですがね団長殿、....名簿表をお持ちしました」
そう言うとヴィンセントは黒いマントから羊皮紙をまとめてできた資料を引っ張り出してきた。
おお! 羊皮紙とな! 異世界ぽいっ
俺はそれを受け取り、まずは流し見をした。あとでじっくり見よう。
「流石、団長殿です。読む速度もお早い!」
「いや違うぞ! これは後でよ----」
「団長殿っ! あれを」
俺が反論をしようとした瞬間、ヴィンセントの優しい表情が一気に引き締まり、警戒態勢に入った。そして彼の鋭い目線の先を辿る。
急なヴィンセントの変化に俺は不安になりつつも目線をヴィンセントから離した。
そして俺は気づいた。この変化はヴィンセントだけではなかったという事を。
全団員に緊張が走っていたのだ。
何事かと皆の視線の先に集中する。
すると、そこにはどこかの扉から入ってきたのか、真っ黒な鎧を身に纏った総勢十人ほどの騎士達がこちら側に歩いて来ている最中だった。一番後方にいる騎士は何やら豪華そうな旗を掲げている。
ここは団長として俺が行くべきだろう。なんかよく分からないが。
時に無知は恐怖を超える。
そう無知の俺は現段階において最も最強なのだ。
俺は腰を上げ、団員達の間をすり抜け、騎士団の元へと向かった。
俺が歩いてきたことを確認した先頭にいる騎士の一人が右腕を上げると隊が停止した。
そして、右腕を上げた騎士が俺たちに向けて声をあげた。おそらくこの隊のリーダー的存在なのだろう。
「突然の訪問失礼する! 我らはバベルタワー王の直轄部隊であるタワーディフェンサー隊だ。レッドサーカス団団長、ストン・ヴィラフィールド。王がお呼びだ。至急ご同行を願う!」
「わかっ---」
「発言失礼します! 私はレッドサーカス団の司会進行役を務めさせて頂いておりますアークティックと申します。我々は公演を終えたばかり、そして伝令なしの突然の訪問、これはいささか無礼すぎますぞ! これを伝令とするならばまだ理解はできますが?」
俺が応える前にアークティックという亜人が割って入ってきた。なんか聞いた事ある声だなと思ったが、彼はどうやら先ほどの司会だったようだ。
アークティック。全身を真っ白な毛で覆われた雪男みたいな大柄な男だ。
司会なのか....。
「亜人風情が! 我ら騎士団に発言など許さん! 団長は了解の意を示していたはずだ。貴様の方が無礼というもの。このバベルタワーで生活したいなら王の命令に従えっ!」
苦虫を噛み締め、アークティックは拳に力を込め初めていた。
不味い。
「アークティック。お前の気持ちは嬉しい。だが、今回は俺が行くから心配はするな。いいか?」
「すみません ストン様。つい出過ぎた真似を...。 しかしストン様お一人では... 供回りを連れていく事を願います」
「分かった。 ...騎士殿。私の他に供回りを連れて行っても構わないか?」
「許可します...あっ! 許可するっ!!」
え?
騎士団達に僅かな動揺が走った気がするが...。
「ではアークティックよ。ジムススを連れて来てくれ!」
「はっ!!」
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