RED CLOWN ~最強の赤の道化師と凡人の俺は同一人物になりました~
アカサタ七斗
第1話 「凡人と成功者のシンクロです」
「ただいまーーー」
いつも通り、誰もいない真っ暗な部屋からは誰の声も聞こえてこない。
「はあーー 疲れたーー」
一人暮らしの小さな部屋に明かりを点けてから俺は通勤カバンを床に放り投げ、日課のSNSの通知チェックをする。
通知なし。
淡い期待が速攻で消えながらもスマホの画面をスクロールする。
「つまらな...」
俺はアプリを閉じ、何気なくカメラロールを見返した。新人社会人として働きはじめてからというものロクに外出もしていないので別に見るような写真もないのだが....
しばらく画面をまたスクロールしていくと、楽しげな大学生活時の写真一覧が出て来た。
「うーーん 今だに彼女もいねえ...」
大学を卒業する前に仲良し四人組での飲み会で宣言した「社会人になったらさすがに彼女はできます!」宣言をどうやら撤回しないといけないようだ。
そして、現在、仲良し四人組は連絡を取り合っていない。
メンバーの一人が他界してしまったからだ。
中心的な者がいなくなってしまうと、こうも簡単にグループは崩壊してしまうのかと思ってしまうほど友人とは脆いものなのかと感じる。
(おい タカシ! なんで消えてしまったんだ...)
スクロールをしていた画面に現れた懐かしい友人の笑った顔を見て、思わず叫びそうになってしまった。
新人社会人、独身、彼女なしの俺、岸 庄助は今日の仕事でのミス、懐かしの友人、洗わずに溜まった食器、洗濯物..... など小さなストレスが溜まりに溜まって呟いてしまった。誰もいない部屋で。
「こんな俺は嫌だ....」
「こんな俺は嫌だ....」
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「何か仰られましたか? ダーリン?」
ん!?
........なんだ?
ここは!? どこだ?
どうなってる!? 俺の部屋じゃない.... と言うか豪華すぎるぞここ!貴賓室かよ!
どこの部屋だ?
「ダーリン? どこか具合でも悪いのですか? なんかいつもと雰囲気が違いますよ」
「...おう?」
俺は思わず、突如目の前の見えた美しい女性に目を奪われ、変な声を出してしまった。というか俺の声でもなかったぞ! 自分で言うのもなんだがとても今ダンディな声が出ていた気がする。
視界に入って来たのはまるでシルクのような輝く光沢があるロングの黒髪に、陶器のような白い肌が美しく、美形の最高ランクと言われても納得のできる黄金比を兼ね備えた絶世の美女だった。
だが、奇妙な格好をしている。
頭に二本の曲がった角が生え、背中からは黒い翼が生えているのだ。
ハイレベルのコスプレではないか!
「ああ なんだ.... 凄いコスプレですね」
「....?」
おお やばい やばい! 適当に話したらめちゃめちゃ不思議そうに見つめてくるじゃん 既に選択を間違えたか?
「コスプレって何です?」
「いや その.... 翼とか角とか完成度が非常に高いなあと」
「どうしたんですか?急に いつも通りですよ .... ああ!?もしかして髪を少し切ったの気付きましたか!? さすがですダーリン!!」
急に俺に抱きついて来たこの美女さん。感謝の言葉しか出てこないのだが、今だに状況の把握ができない。
というか何故ダーリンと呼ぶ? 恋人なのか? 夢かこれは?
「ダーリン さきほどはやけに落ち込んでいるなとは思っていたのですが、私の思い過ごしのようでしたね! でも具合が悪いのですか? 突然敬語で私に話しかけてくるのが.... びっくりしましたけど いつもの方がいいですっ! 戻ってください!」
尚も俺に抱きついている美女さんに対応するので一苦労なのだが....
困ったときは敬語で受け応えをするという俺の社会人スキルがはやくも不発だったかもしれない。
先ほどまで自分の部屋にいたはずなのに、今ではどこかの貴族の貴賓室のような豪華な部屋にいて、謎のコスプレ美女つきだ。
どうなっているのかわからず、ボーッと周りを見渡していると、謎の美女がまた意味深な事を言ってきた。
「ダーリン もうすぐ着替えましょう 衣装ルームには先に行ってください ロイが待っています」
「おお 分かった... 行くとしよう.... それで衣装ルームはどっちだっけ?」
「... もうわかりましたよ 私も一緒に行きます 今日のダーリンはなんか変ですし」
「すまない」
俺は何がなんだかわからない上に衣装ルームの場所など知る由もないので、なんとか謎の美女と一緒に向かうことにした。
そして、その衣装ルームとやらはこの豪華な部屋を出てすぐ横にあったのだ。
近すぎる....
知らないとは言え、恥ずかしいな。
絨毯の生地のような真っ赤な分厚い布でできた扉をめくると
そこには、
五歳くらいの男の子と耳が尖っている白髪の執事のような男性がいた。
そして部屋に入る俺を男の子が見るや否や俺目掛けて一目散に走って来た。
「パパーーー!!」
パパ!? パパだと!? この独身、彼女なしの俺に!?
というか俺は以前の俺ではないようだ。走りかけてくる男の子を見る瞬間、部屋にあった女優が楽屋で使っているような鏡に映っていた俺の姿がちらっと見えたが、それは俺が知っている俺の姿ではなかったのだ。
もっと自分の姿をまじまじと見たかったが、男の子が走ってきたので仕方なくその作業を後回しにする。
ここで君は誰だい?などとは聞けるはずもなく...
おそらく、息子なのだろう。さきほどロイが待ってますと言っていたが、この子がロイなのだろうか? それとも男の子の後ろで微笑んでいる優しそうな紳士の老人がロイなのか?
間をとって、男の子と老人の間の空間に向かって俺は「ロイ!」と言ってみた。
「パパ! 遅いよ! 遅いからジムススと遊んでたーー」
語尾を無駄に伸ばして俺の足に突進してきたのはロイ!男の子だったようだ。予想が的中した俺は内心ガッツポーズをかまし、ついでにロイにも心の中で感謝をする。老人の名前を教えてくれてありがとうと。
一応、この状況から今のところ判断できたのは俺はどこかの誰かさんに意識が乗り移ってしまったということ。そしてその誰かさんには奥さんと子供、あとジムススという老人がいて何事もなく日常を送ってるらしいということだ。
「ストン様、ロイ君に私は飽きられてしまいましたよ.... いやはや...もう子供の体力に負けるとは悲しいですな....」
ジムススは悲しいと言いながらも顔は微笑んでいた。優しいおじいちゃんみたいだ。
そして、またジムススにも感謝をする。
ついに俺が乗り移ったであろうこの人物の名前が分かったのだ。
どうやらストンという名前らしい。様がつけられているということはジムススはこの俺、ストンのやはり執事か?
「では、ストン様。衣装に着替えましょう 今日も一流のスタイリストとして頑張らさせていただきます!」
ってスタイリストかい!
心の中で予想を外した不満をこぼしながら、俺はジムススが服を持ってくるまでの間、鏡の前で自分の姿を確認してみた。
うむ。以前の俺より完全にカッコいい。
衣装待ちということもあってか、今は白いバスローブを着ている。服は対して奇妙でもないが、俺の髪は赤毛だった。
きれいにセットされた赤色の髪も目立つのだが、それよりも一際目立つのが、
まるで仮面舞踏会でしか付けないようなアイマスクを装着していたのだ。アイマスクは白色で目の部分には淡い赤色のガラスが嵌められている。そのせいで自分の眼球は確認できない。だがどういう原理なのだろう。赤色のガラスが入っているのに視界はいたって良好だ。赤色のフィルター越しという感覚はない。
おそらくストンは赤色が好きだという事を心の中でメモっておく。
そして、ジムススが持って来たマントのような真っ赤なコートを見ておそらくが絶対に変わった。
「ストン様。ではこれから赤の道化師に着替えましょう!」
ん?
道化師だって?
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