第22話:命の色に染まっている

 栄養補給も済ませたので、行動再開。

 ファミレスから離れたところで認識阻害を勘で発動する。

「リーネア、食べたばっかりでよく動けるね……」

「戦場でそんな甘いことも言ってられねえだろ」

「うう……洒落にならないし……」

 カチッ。

 近所は探索し終えたし、光太と佳奈子ん家の方に歩くか。

「進化するっつってたけど。ワンマンからも進化することあるのか?」

「……わからない」

「わからないって、それもどうなんだよ」

「巫女が居ない以上、わたしは神社を離れるわけにはいかなかった。力失おうと、失ったからこそ、土地の守護はできるもん。神社の中に居てこそ」

「いまは紫織か」

「うん」

 カチカチ。

「ななみちゃんが居なくなって……いつしかななみちゃんの末裔たちも居なくなって……寂しくて探そうとしたの。だから使い魔を起動した」

「……。そうなのか」

 カチッ。

「揺るがないんだね、あなたは。しんみり話しても射殺……」

「会話の思考回路と狙撃は別物」

「そんな『甘いものは別腹』みたいなセリフ言われても」

「サチはほんとに文句多いな。ライフルの代わりにナイフで腹刺せばいいのか?」

「発想!」

 カチッ。カチッ。

 カチッ。

「二発で三人倒したし? 意味わかんないし」

「跳弾だよ」

 敵がそれで殺れる位置関係のときは便利だ。父さんの作ったライフルはとっても高性能。

「何体?」

「56」

「そろそろ60か」

 カチッ。

 57体目。

「……なんか、こっち側に来ると数が増えたな」

「わたしが許可を出しているから、まだ魂を追いかけられないくらい成長未満な個体も見えるようになってるし。普段とはあなたの視界が違うよ」

「ふうん」

 5体見つけた。

 仕留めた。

「ライフルって早撃ちするものだったっけ……」

「いちいち構え直すの面倒じゃん」

 サチは指差しで数える。

「よし。あとはお前の探知に頼る」

「ん。ここの道曲がってね」

 薬局のある道を示す。

「わかった」

 ……こっち方面、グリーンハイツの方向だな。もともとそっちにいこうと思ってたから別にいいんだけど。

 パラパラと見かける個体を仕留めていく。頭上でカチカチと音が鳴る。

「ここ曲がって」

「……」

 言われた通り、ガソリンスタンドを曲がる。

 次はコンビニ。


 グリーンハイツが見えた。

 アパートの門から庭の花壇の前まで、白い人が列をなしている。


「…………。なんであんな密集してんだよ」

 キモいからさっさと殺す。列の後ろから先頭まで撃ち抜く。

 撃ち殺す片手間でサチに問いかけると、悩みつつ答えた。

「たぶんここ、いろんな要素が重なってるんだと思う。なんとなくアーカイブが引き寄せられるし、不思議な気配がするし……」

 光太と佳奈子か。

「佳奈子はこれでよく生活してたな」

「個体が成長してないから、引き寄せられちゃってるだけ。少し成長したら離れていく。……あとね、人間の魂って複雑で、ほかの動物より情報量が多くて消化が難しいの。3人組を組み始めた頃からようやく3人がかりで吸収できるようになって、ワンマンくんでやっと単独処理なの」

「なんか《鬼》みたいだ」

 魂を扱い、食べることのできる唯一の種族。

「あなたのいう《鬼》はシェルなのだろうけれど、似たようなもの。神の恵みと災いは表裏一体だし、神が荒ぶればそれは鬼ともみなせる。鬼も恵みと災いの両面を持っていておかしくはない」

「……ふうん」

 仕留め終わった。

 サチも数え終わったらしい。

「何体いった?」

「83」

「お、あとちょっとだ」

 アパートの門をくぐってやってきた頭巾を跳弾加味して殺す。

「……85体目……」

 門の前で待っていると、何体か引き寄せられてやってくる。仕留め続けたら90を超えた。

「移動するか。サチ、あとのはどこにいる?」

「ここから真っ直ぐ進んで」

「ん」

 見かけた一体を射殺。

 カチリ。

「ここ曲がって」

「ん」

 カチッ。

「次の次の交差点で左」

「ん」

 カチカチ。

「あ、そこの道行って」

「ん」

 カチッ。

「残り2体!」

「どこだ?」

「……」

「サチ?」

 体が震えている。この周期は嗚咽をこらえているときの――

「……ひとりは、いまあなたが仕留めた個体食べてる」

「殺すわ」

 控えめなカウントが鳴った。

「ふええ……育ち過ぎたとか、知らないし……あんな、あんな……」

「泣くな泣くな」

「うわあん……!」

 ショックな光景だったようで、サチは大泣きしながら俺にしがみついていた。いまはおんぶで歩いている。

「ううー……」

「で、最後の一体はどこなんだ?」

「……すごい速度で神社からこっちに近づいてきてる。さっきから変だと思ってたけど、あなたが仕留めた個体を食べてたのかも……」

「ふうん」

 共喰いして強くなれることに気づいた個体がそうしてるっぽいな。

 土地のエネルギーから生まれてるなら、共喰いすることで純度があがるんだろう。

「いまどこらへんまで来てる?」

「背後200m」

 俺狙いではなく、サチ狙いだとは思うんだけど。

 振り向きざまに撃ち殺す。

 少しもがいてから、力尽きて消えた。

「……銃弾避けられないなら、やっぱただの的だよな」

 遮蔽物も使わず直線で突撃なんて、こいつは新兵以下だ。



 サチを抱っこに切り替えて家まで歩く。

「リーネア、健脚」

「長く歩いて足疲れてたら、背後から急襲されて死ぬからな」

 長く走ることは戦場では大切だ。

「あなたの世界、世紀末なの?」

「その状態で国家も社会も健康的に機能してるよ」

「……幸せを祈る」

 しかしながら、最近寝不足だからまだ眠いな。

「寝不足であんなスナイピングしたの……?」

「向こうじゃ爆撃で起こされるのも珍しくないから。それにあんなの的当てだから簡単」

 生きて思考する人に当てるより簡単。

「帰ったら昼寝する……」

「むむう。スペード様に報告してもらおうと思ったのに」

「…………」

 俺、あいつ苦手なんだよな。

 スペードの前に立つだけで、なんかすごく落ち着かなくなる。寝不足で挑みたくない。

「ごめん。本気で眠いんだ」

「わかった。おうち帰りましょう。神社に転移したらご近所だよね? 神さま権限で移動してあげるし!」

「ありがと」

 サチは格好を白袴に変えて、俺に触れる。

 視界が少しブレて神社の鳥居前に移り変わった。

「……俺は端通った方がいいんだよな?」

「リーネアも神社の作法知ってるのね」

「ひぞれに教えてもらった」

「ひぞれちゃんは日本人なの?」

「いや、国籍はない」

「それで日本風のお名前なのは不思議」

「あいつの旦那さんが、ほかの種族には発音も聞き取りもしづらい名前持ってて、それを発音しやすくしたら、こっちでいう日本風な名前になったんだとよ。偶然だ」

 ミズリの本名を目の前で言われたことがあるが、不思議なことに全く聞き取れなかった。

「へえー……異種族さんにはいろいろあるね」

「お前は種族ってあるの?」

「わからない。……わたしは大地から噴き出た神秘に人格を持たせたような存在だから、そちらが分類しようと思えばできるのかもだよ」

「ふうん」

 精霊とかが近いんだろうか。

 サチの歩幅に合わせるのが大変なので、抱っこのまま俺の家へ進む。

「そういや、なんで俺の家には転移しないんだ? 最初は俺の家に来ただろ」

「スペード様に転移させてもらったからだよ」

「……」

 どうにも苦手だ。

 スペードには、俺のしたことも感情も何もかも見通されているから……あんまり会いたくない。

「リーネア、体温高いね。眠いから?」

「かもな」

 眠いのに歩き回ったから、本気で疲れてきた。いや、いつもなら戦うときは眠気なんてすぐ振り切れるはずなんだけど……

 調子崩したかな。

「お昼寝するときは湯たんぽするといいよ。よく眠れるし」

「あれこれ気を使ってもらって悪いな」

「いいのいいの。こう見えてもわたしは年齢4桁超えだし!」

「…………」

 こいつも俺の十倍以上生きてるんだな。

「なんで落ち込むの」

「いや……異種族で俺より年下のやつ、知り合いにほとんど居ないから……」

「あなたが成長していけば自ずと知り合いが増えるし。落ち込むことない」

「……ありがとよ」

 家に着いた。

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